静かな音楽室の窓を開けた。少し遠くでボールをバットで打つ音が響いている。
今日も野球部は練習しているのだろう。
星矢は、校庭の音を聞いて安心した。
窓を閉めると3年部長の佐々
「あれ、工藤くん。早いわね。練習はどう? 順調かな」
席にバックを置く部長は、優しく声をかけてくれた。部員の中で唯一、会話できる人だった。
「そうですね。少しずつ練習してました」
「フルート……なんでもそうなんだけど、吹けるようになるまで時間かかるから。頑張ってね。でも、工藤くん、熱心だから。昨日も、自主練して帰ったでしょう?」
「あ、はい。ごめんなさい。まずかったですか?」
「ううん。音楽室の鍵返す時、職員室にノート書くでしょう。 あれに名前と時間が書いてあったから」
「あー、それで。すいません、バレてたんですね。恥ずかしい」
「練習真面目にするのは悪いことじゃないよ。1年生なのにすごい。私が1年の時はまっすぐ帰ってたから」
「そうなんですか」
「お疲れ様です」
他の部員たちが次々と中に入ってきた。会話をするのが苦手な星矢は、席に戻って、静かに座った。
「部長、今度の演奏会。私、真ん中でいいですか?」
「美紀ちゃん、随分思い切ったことするわね。まだ全然クラリネット吹けてないのに。」
「えー、だって、ポジション大事でしょう。野球だって、ライトレフトってありますし、私はセンターで。って、アイドルみたいだから、野球関係ないかぁ……ハハハ」
上機嫌の1年
「アイドルみたいになれるんじゃない? ダンスしちゃったりして?」
ノリノリの部長は、優奈の話に乗っかった。
ムードメーカーの部長で雰囲気は柔らかくなる。楽しくできるのは、部長がいてこそだった。
「んじゃ、練習始めるよ。それぞれ、自分の楽器準備して、演奏会の曲を吹けるようになってください」
手を叩いて、仕切りなした。それぞれの楽器で練習が始まった。もちろん、星矢もフルートを準備して、1曲吹けるように何度も練習した。
いつもより、綺麗に吹くことができて、嬉しかった。
数時間後、部長に声をかけられた。
「工藤くん、今日はどうするの? 練習してく?」
「練習してもいいですか?」
「もちろん、鍵は忘れずに職員室に返してね」
星矢は部長から音楽室の鍵を預かった。他の部員たちはゾロゾロと帰っていく。
1人になって、ふーっとため息をつく。
人が多い空間にいるとどっと疲れてしまう。1人になってからの方が落ち着いて練習できる。
「さてと。綺麗に吹けるようにならないと__」
昨日と同じように何度も同じ曲を吹いた。
力を入れすぎて、音が外れることもある。
「あ……」
15分くらい練習すると、ガヤガヤと外が騒がしくなっていた。
窓の外を見る。デジャブだろうか。
昨日と変わらない景色が見える。
翔太がまたこちら側の方へ歩いてくる。でもここは2階の音楽室。
窓から下を覗くと、翔太が手を振って、笑顔を見せていた。さっきまで一緒にいた部員たちは反対方向の校門へ向かっていて、キャプテンである翔太しかいない。
グラウンドの鍵を持っていた。
「工藤だよな? 今日も練習?」
「はい、そうです」
「もう、練習やめるのか?」
「あと1回くらいしたら、帰ろうかと。」
「そうか。聞いてもいいか?」
「あ、はい。どうぞ。今やりますね」
星矢は、花壇をベンチ代わりに座って、目をつぶる翔太のためにフルートを吹いた。何度も練習していたから昨日よりは上手く吹けていた。
きっと瞑想していたんだろう。
天を仰いでいた。
「うん。良かった」
「ありがとうございます!」
「おう、んじゃ、そろそろいくな」
「あ、ちょっと待ってください。その鍵って職員室行くんですか?」
「ああ、そうだけど」
「僕も、ここの鍵持っていくので一緒に行ってもいいですか?」
「……ああ、もちろん」
翔太はえくぼを見せて笑っていた。
2階の音楽室から駆け降りて、翔太のいる
外の駐車場に出た。
初めて、近くに向き合った。
星矢は薄暗い中、筋肉質な翔太に
ドキッとした。制服に着替えている翔太を
間近に見るのはドキッとした。
星矢は、小柄で肌が白い。
華奢だった。
「初めて近くで見るけど、女の子みたいだな」
「え、いや。まぁ、よく言われますけど、男子ですよ」
「わかってるって。ほら、行くぞ」
翔太は星矢の背中に触れた。星矢は、その仕草だけで心臓が尋常じゃなかった。
隣同士、電灯の下で、外の渡り廊下から職員室に向かう。
ほんの一瞬の出来事だったが、お互い居心地が良かった。
三日月が空にぼんやりと出ていて、雲のない夜空に星がキラキラと輝いていた。