ざわざわと賑わう3年の教室に竹下翔太は、肩にバックを背負って、1番後ろの席に座った。
「しょうちゃーん、おはよう!」
「おー、おっす」
「慎太郎くん、昨日駅前北口のコンビニにいた?」
隣の席の泉澤ヒカリ。竹下翔太と同郷で同中だ。
「え、ああ。そうだな。確かにそのコンビニにいた。肉まん買ってた」
「やっぱり。雑誌立ち読みしてたでしょう? あそこ通りかかったんだ」
「見かけたら声かければ良かっただろ」
「いやいや、声をかけられない用事があったのよ!」
「あーそう」
翔太はバックを机の脇にかけて腰掛けた。ヒカリはクラスメイトに知られたくない人とデートしていた。
「ちょっと、俺が先に声かけたのに割り込んでこないで、ヒカリっぴ」
「ひ、ピカリっぴ? 私はゲームのモンスターか?」
「ねえねえ!しょうちゃん、一緒に荒野フィールドする約束したっしょ。いつならできそう?」
慎太郎は、翔太の席の前に座った。
ガツガツと迫る。
「部活で忙しいからかなり夜遅いぞ? 帰ってからだと10時過ぎるからな。それでもいいのか?」
「う、うん。いいよ、それで。ラインにアプリ共有送っておくよ? スマホ容量大丈夫そ?」
慎太郎がガツガツと翔太にスマホを見せると席の持ち主がやってきた。
「桐島、ごめんな。ほら、避けろよ、慎太郎」
翔太が察して、慎太郎の背中を叩く。桐島は、黙ってお辞儀して席に座る。
髪をかきあげて、下を向いた。
「……」
「てか、避けて欲しいなら喋れよなぁ」
慎太郎はボソッと言う。翔太はキリッと慎太郎を睨んだ。黙っておけの合図だ。翔太は男女分け隔てなく、面倒見のいい性格だった。慎太郎は、人間関係は相性次第と言ったところ。苦手なのは、言いたいことがあるのを黙っている人だった。
頬をふくまらせて、ぶつぶつ言いながら、窓際の席に戻っていく。
授業始まりのチャイムが鳴った。
◻︎◻︎◻︎
「ねえねえ、TikTokで流行ってる歌って聴いた?」
「え、なになに? どの曲?」
1年の教室。少し騒がしい女子2人が今流行りの曲で何がいいかと
盛り上がっていた。その席から2つ離れた席に白いワイヤレスイヤホンを
つけた工藤星矢が1人でスマホ画面を見ながらお弁当を食べていた。
ぼっち飯だ。
人と関わるのが苦手で引っ込み思案。話しかけられれば話すが、ずっと1人で過ごすことが楽であった。
いさかいに巻き込まれることなく、1日を平和に過ごしたい。
そういう性格だった。
それでも、フルートに溺愛し、フルートの話をふればずっと話し続ける変わり者だった。
クラスメイトたちからは関わりにくいと避けられていた。
身なりは美容院でまめにカットしにいく。ビジュアルは、悪くない。
それでもオーラというか近寄りがたいものを持っている。
星矢は、話しかけられなくても苦ではない。
人間、合う人合わない人が存在することくらい知ってる。
そして、その中で仲の良い人と絡めばいいだけ。達観していた。
「あ、ごめん」
騒がしい女子は名前も知らなかったが、足で星矢の机を蹴ってしまった。
何も言わずに特に反応することはなかった。
学校の中庭、翔太の声がするまでは。
「慎太郎、今日の午後は、授業中寝るなよ?」
その声が中庭に響いた。それを聞いた星矢は、ハッと思い出して、窓の外をのぞく。
友達と仲睦まじい様子でランチタイムを楽しんでいた。筋肉質が制服の上からでもわかる。人気者の先輩である。それが誇らしかった。
星矢はうっとりと眺める。
その様子に気づいた女子2人は急に行動パターンを変えたことで気持ち悪がられる。
「あいつ、何やってるのかな」
「1人だから、本当何考えてるか意味不明」
その声も入ってこない星矢の耳。聞こえてくるのは、外で吹く風が吹きすさぶ音だけ。メンタルは強かった。
早く放課後にならないかと願った。