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ユメの後味
ユメの後味
ドナタか
文芸・その他ショートショート
2025年03月10日
公開日
1,733字
連載中
歩き方がキモイ。うるさい。怒れ。委縮。目覚め。


 外を歩いていたら、唐突に暴言を浴びせられた。私はそれに恐れおののき、とたんに、その理不尽な暴力へ憤りを覚え、私はそれに果敢に言い返した。


「なんなんですか!?」

「お前の歩き方が見ていて気持ち悪いんだよ!」


 男は怒りながら言う。私はそんな彼とは、面識が全くなかった。だが、唐突に、そうやって暴言をなげてきたのだ。初対面の人にそういう風に暴言をいえる精神を私は理解ができなかったし、それに、私は別にふざけて歩いた覚えはまったくない。

 だから、とてもいい加減な言いがかりだと私は推察し、むきになる。

 だが、男はどうやら言葉が上手らしく、私にはまるで勝ち目がないような気がしてきたのは、そこから数分後の事であった。男はとても達者だった。あの手この手で私を悪者にしようと計画し実践。結果、傍から見れば、もしかすると、男の方に正義がある。と勘違いされかねないほど、私は追い詰められた。口が上手い相手は、苦手だった。


「お前らうるさいよ!」


 その瞬間、何故か目の前の建物の二階からいきなり人が出てきて、見上げるとそこに居たのは白髪で威厳のある老け方をした、老婆だった。

 一度見たら忘れないような強烈な怒り顔に私は尻込みすると、それに間髪入れず男は私が悪であると弁舌し、それで即座に、老婆の視線が私に向けられた。その時になると、私の歩き方が車の煽り運転のように、男の進行方向を意図的に塞ぎ邪魔をし、そして挙句の果てにはゴミを男に投げつけたという、何かと現実味がある嘘を吹かれて、にわかに私は絶望した。


 老婆は言葉巧みな男の言い分をすんなりと聞いて、私にその威厳のある恐ろしい顔を向けて来たので、咄嗟に、私も「ただ歩いていただけだ!」と勢い弱くいうと、老婆は言った。


「最近の若者は悪事を働いたあとの度胸がない。恥をしれ、恥を」


 身に記憶の無い言いがかりで叱られる。私は「違うんです!」と必死に弁明しようとするけども、「嘘仰い!」「何も違わない!」とそれはことごとく、無情に切り捨てられ、老婆はついに「そこで待っていろ!」といい頭をひっこめると、建物の中からドタドタと何かが駆け下りて来て、次の瞬間、白髪の鬼が怒髪衝天して飛び出し、その手に握っていた鋭いハサミをこちらに向けてきた。


 私はついに泣きべそをかき、身に覚えのないことを、醜くもなんとか伝えようとまた勢い弱く陳述するが、それも――一閃。全てを否定され、ついには、大粒の涙が右手に落ち、そして、二人の鬼が、私の人格をこれでもかと否定するような暴言を飛ばしてくる。とたん、警察の人がその間に入ってきて、私はにわかに安堵しかけたが、次の瞬間、警察もその口車に乗せられ、私を軽蔑の視線でみてきたときはもう頭がいっぱいになって、見ず知らずの罪の意識が芽生え、私は、何か本当に悪い事をしてしまったのではないかとさえ感じてきて、これまでそれにたてつこうとした私の陳述がとたんに信じられなくなり、そして、私は本当に罪を犯したかのような錯覚をおこし、気が付くと、伏眼になり、涙をすすりながらごめんなさいと、呼吸をやっとの思いでしながら、言っていた。


 私の全てはきっと間違いで、私はとんでもない犯罪者で、私は計り知れない極悪人なんだと信じ、へし折られた自尊心の瓦解を耳で覚えながら、私はその場で五体投地し、ついに、警察に何故か、手錠をかけられて、自分の胸の中で大事な尊厳が自責の海に飲み込まれたとき、はっと目を覚ました。



 朝陽が上り、目覚まし時計が鳴る。目を擦ると、薄く涙が浮かんでいて、痛烈に夢の出来事を思い出した。夢のようで夢ではなかったその出来事を、私はただ朧気に信じ込みながら、今日も、加害者にならないように生きようと、心で誓った。


 それでもそのあと、部屋を出たときに、親に殴られ、洗い物をしていなかったことと、テストの点数の結果についてこっぴどく叱られ、その次に学校で学力について笑われ、その次に、友達だと思っていた子に、いきなり何気ない皮肉を言われ、そして最後に、コンビニで飲み物を買おうとした時に「お釣りの計算が間違っています」と冷静に言われ。


 その瞬間に、私はこの世界も夢なのではないかと妄想したし、夢でくらい誰か私を肯定してくれと、切実に願うしかなかった。


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