目次
ブックマーク
応援する
8
コメント
シェア
通報
逆ゼロ - The Other Fragments
逆ゼロ - The Other Fragments
八月朔日
恋愛現代恋愛
2025年03月10日
公開日
1,329字
連載中
「逆プロポーズではじまる交際0日婚!」の、蓮さん視点の「習作」です。
こちらだけでもお読みいただけます。

逆ゼロで最初のRシーンを書いたとき、読者の方から蓮さん視点のリクエストをいただき、そのときに頑張って書いたものです。
小説自体、逆ゼロが初めてだったのですが、男性目線だと随分雰囲気が変わるものだなと勉強になりました。
そっと削除しようかとも思いましたが、せっかく描いたのだし、作家仲間さんから読みたい!と言ってもらえたので、ひっそり公開させていただきます(汗)。

Perspective Study #1

 薫の唇が触れた瞬間、熱が全身を駆け巡った。理性が警鐘を鳴らすが、そんなものはもう意味をなさない。抗いがたい衝動が込み上げ、彼女の頬を包み込むと、迷いなく背中へと手を回した。


 ──逃がさない。


 唇を重ねるたび、薫の息遣いが甘く震え、吐息が肌をかすめた。その感触に、さらに理性の輪郭が曖昧になっていく。首筋に指を這わせると、彼女が微かに身じろぎ、しがみつくように俺の背に腕を回した。……愛おしすぎて、おかしくなりそうだ。


 ゆっくりとまぶたを開いた彼女の瞳は、熱に潤み、すがるように俺を見つめていた。今この瞬間、彼女のすべてが俺だけに向けられている。こんなふうに求められたら、もう抑えが利かなくなる。


 堪えきれず、彼女の下唇を舌先でなぞった。薫の肩がわずかに揺れ、小さく息を呑むのがわかった。そして……迷うように、ゆっくりと口を開いた。


 熱に突き動かされ、深く口づける。絡めとり、逃がさないように抱き寄せると、甘く痺れるような感覚が全身を駆け巡った。薫の腕が背中に回り、さらに強く引き寄せられる。ただ必死にしがみつく彼女を、求めずにはいられなかった。


 時間の感覚さえも曖昧になっていく。ただ、彼女の存在だけが確かなものだった。


 やがて、薫は俺の腕の中で力を抜いた。唇を離し、荒い息を整える。彼女の潤んだ瞳が俺を見つめ、また胸が締めつけられた。


「……いい?」


 気がつけば、俺の声は熱を孕み、かすれていた。


 薫の手が、シャツの生地をぎゅっと握る。戸惑いがちにまつげを伏せ、そして静かに頷いた。それだけで、最後の理性が危うくなる。


 彼女を抱き上げ、寝室へと運び、ベッドに横たえる。唇を重ねながら、ネクタイを緩め、シャツを脱ぐ。もどかしさで指先が震えた。


 そのとき、薫の手がそっと俺の脇腹に触れた。そこにある古い傷を、指先で確かめるように撫でる。それから彼女はふいに顔を寄せ……傷跡に、優しく口づけた。


 瞬間、胸の静かな熱が広がるのがわかった。まるで、過去の痛みさえも溶かしていくような、温もりだった。


「薫……」


 抑えきれない想いが溢れ、彼女を強く抱き寄せる。そしてもう一度、深く口づけた。貪るように、そのすべてを感じながら。


 指先が、彼女の肌の温もりを求める。そっと胸元へと伸ばし、ボタンをひとつ外した。その瞬間、薫の手がそれを押しとどめた。


「蓮さん、ごめん……ちょっと、待って」


 少し怯えたような声だった。彼女は自分の胸に手を当て、鼓動を抑えるようにしながらきつく目を閉じる。そして、躊躇ためらいながら小さな声で囁いた。


「……あの、ですね……私、まだ……経験が……」


 その言葉に、思考が一瞬止まる。そして次の瞬間、胸の奥から、強烈な愛しさが込み上げた。


 強くて、優しくて、まっすぐで、そして……誰よりも大切にしたい人。


 衝動を抑えながら、薫の耳元へ顔を寄せる。そして、小さな耳たぶにそっと歯を立て、かすれる声で囁いた。


「優しくするから……やめてとは言わないで」


 その言葉に、薫の瞳がさらに潤む。指先が、ゆっくりと俺の胸に触れた。


 何かを言いかけた彼女の唇を、もう一度奪う。どれほどキスをしても、足りそうになかった。


 薫の吐息が、俺の中で静かに溶けていく。


 愛しいこの温もりを壊さぬように──深く、そして優しく抱きしめた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?