薫の唇が触れた瞬間、熱が全身を駆け巡った。理性が警鐘を鳴らすが、そんなものはもう意味をなさない。抗いがたい衝動が込み上げ、彼女の頬を包み込むと、迷いなく背中へと手を回した。
──逃がさない。
唇を重ねるたび、薫の息遣いが甘く震え、吐息が肌をかすめた。その感触に、さらに理性の輪郭が曖昧になっていく。首筋に指を這わせると、彼女が微かに身じろぎ、しがみつくように俺の背に腕を回した。……愛おしすぎて、おかしくなりそうだ。
ゆっくりとまぶたを開いた彼女の瞳は、熱に潤み、
堪えきれず、彼女の下唇を舌先でなぞった。薫の肩がわずかに揺れ、小さく息を呑むのがわかった。そして……迷うように、ゆっくりと口を開いた。
熱に突き動かされ、深く口づける。絡めとり、逃がさないように抱き寄せると、甘く痺れるような感覚が全身を駆け巡った。薫の腕が背中に回り、さらに強く引き寄せられる。ただ必死にしがみつく彼女を、求めずにはいられなかった。
時間の感覚さえも曖昧になっていく。ただ、彼女の存在だけが確かなものだった。
やがて、薫は俺の腕の中で力を抜いた。唇を離し、荒い息を整える。彼女の潤んだ瞳が俺を見つめ、また胸が締めつけられた。
「……いい?」
気がつけば、俺の声は熱を孕み、かすれていた。
薫の手が、シャツの生地をぎゅっと握る。戸惑いがちにまつげを伏せ、そして静かに頷いた。それだけで、最後の理性が危うくなる。
彼女を抱き上げ、寝室へと運び、ベッドに横たえる。唇を重ねながら、ネクタイを緩め、シャツを脱ぐ。もどかしさで指先が震えた。
そのとき、薫の手がそっと俺の脇腹に触れた。そこにある古い傷を、指先で確かめるように撫でる。それから彼女はふいに顔を寄せ……傷跡に、優しく口づけた。
瞬間、胸の静かな熱が広がるのがわかった。まるで、過去の痛みさえも溶かしていくような、温もりだった。
「薫……」
抑えきれない想いが溢れ、彼女を強く抱き寄せる。そしてもう一度、深く口づけた。貪るように、そのすべてを感じながら。
指先が、彼女の肌の温もりを求める。そっと胸元へと伸ばし、ボタンをひとつ外した。その瞬間、薫の手がそれを押しとどめた。
「蓮さん、ごめん……ちょっと、待って」
少し怯えたような声だった。彼女は自分の胸に手を当て、鼓動を抑えるようにしながらきつく目を閉じる。そして、
「……あの、ですね……私、まだ……経験が……」
その言葉に、思考が一瞬止まる。そして次の瞬間、胸の奥から、強烈な愛しさが込み上げた。
強くて、優しくて、まっすぐで、そして……誰よりも大切にしたい人。
衝動を抑えながら、薫の耳元へ顔を寄せる。そして、小さな耳たぶにそっと歯を立て、かすれる声で囁いた。
「優しくするから……やめてとは言わないで」
その言葉に、薫の瞳がさらに潤む。指先が、ゆっくりと俺の胸に触れた。
何かを言いかけた彼女の唇を、もう一度奪う。どれほどキスをしても、足りそうになかった。
薫の吐息が、俺の中で静かに溶けていく。
愛しいこの温もりを壊さぬように──深く、そして優しく抱きしめた。