Szene-01 東西街道上、後衛部隊待機場
森の奥深くから、戦いの音が東西街道上まで届いている。
緊張した面持ちのルイーサは、ただ待っているだけの状況を耐えるように拳を握る。
街道上で配置についている見習い剣士たちは、緊張が作り出す張り詰めた空気に包まれていた。
「ルイーサ様、魔獣は多くの攻撃を受けて弱りつつあるようです」
従者からの報告に戸惑うルイーサは、強張った表情のままヒルデガルドを見る。
「なぜわかるのよ」
「アムレットが教えてくれました」
「……その子能力があるの?」
「魔獣ですし、この子にとっても大型魔獣は天敵。本能的に感じたみたいですね」
ヒルデガルドは、腰の小型カバンにやさしく手をそえながら答えた。
「ふーん。その子かわいいだけじゃないのね。もしかして他にも何かできるの?」
「そうですね……普段この子が他の子としていることですけど、連絡を取り合っているので、遠方の情報が入ったり、逆にこちらから情報を送ったりできます」
ヒルデガルドは、ルイーサや他の人の近くにいるとき、アムレットから情報を得ていた。
突然ルイーサに情報を伝えることがあるが、その理由はアムレットからの報告によるものだ。
アムレットから報告を受けるたびに、情報の取捨選択をしたうえで主人に伝えていた。
「他にも何かできそうなのですけど、なかなか試せていなくて」
「私たちの強い味方ってわけね。いい子だから帰ったらいっぱい撫でてあげるわ」
「ルイーサ様はアムレットと遊びたいのではないですか?」
「な、ち、ちょっと! そんな……別にかわいい子をかわいがっても……いいでしょ?」
ヒルデガルドはクスッと笑ってしまった。
「いっぱいかわいがってあげてください。ルイーサ様もこの子の主人ですから」
アムレットの話題をしているうちに、ルイーサの表情は和らいでいた。
主人を想うヒルデガルドに、うまく調整されたのかもしれない。
Szene-02 東西街道上、後衛待機場最東部
一方、普段は冷静なエールタインも、ただ待っている状況が不満だった。
育ての親であるダンと、ヨハナ同様に大好きなヘルマが戦っている状況で、自分が何もできていないのだ。
焦り始めるのも無理はない。
「エール様。待機も任務ですから……でも心配ですよね。いっそのこと、向かいますか?」
デュオとしてまともに修練をしていないにも関わらず、ティベルダはエールタインの気持ちを汲み、主人に付いて行く覚悟はあると、暗に伝える。
「ごめん……多分、いや絶対怒られるけど、加勢したい」
「私はエール様の奴隷。すべて受け入れます」
エールタインはティベルダの頭を一度、二度と撫でると、従者に一言伝えた。
「実戦をしながら、ボクたちデュオを形にできるいい機会だよね。無茶なことは承知でだけど、付いてきてくれる?」
「はい! エール様の思いを形にするために私はいます。どこまでもお付き合いします」
二人は、すでに戦闘態勢で待機しているので、改めて装備を確かめる必要はない。
それに、装備を確かめるような仕種をすれば、周りに行動を起こすと悟られてしまう。
エールタインは、視線を森に向けたまま、ティベルダにささやいた。
「いくよ」
「はい」
ティベルダは、燃料切れのように見せかけてランタンの灯りを消しており、二人は暗闇の中だ。
ゆっくりと森へ向けて足を進める。
街道の端にたどり着くと、草の音を最小限にするよう、慎重に茂みへと入ってゆく。
忍び足のまま、さらなる暗闇へと姿を消した。
だが、エールタインたちが森に入り込むと同時に、ヒルデガルドにはアムレットからの情報が届いていた。
「ルイーサ様、エールタイン様が動いたようです」
「どういうこと!?」
「おそらく加勢に向かったのだと思われます」
「あの子ったら……」
ルイーサは片手を顎へと持っていくと、一瞬悩む仕種をしたが答えはすぐに出た。
「ヒルデガルド」
「はい。いつでもどうぞ」
「周りは?」
「今なら行けるかと」
「帰ったら思いっきり抱きしめてあげるから付いてきて」
「楽しみにしています」
待機指示に背いた四人は、戦いの音がする森の中へと向かって行った。