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第27話 魔獣討伐Ⅱ

Szene-01 東西街道上、後衛部隊待機場


 森の奥深くから、戦いの音が東西街道上まで届いている。

 緊張した面持ちのルイーサは、ただ待っているだけの状況を耐えるように拳を握る。

 街道上で配置についている見習い剣士たちは、緊張が作り出す張り詰めた空気に包まれていた。


「ルイーサ様、魔獣は多くの攻撃を受けて弱りつつあるようです」


 従者からの報告に戸惑うルイーサは、強張った表情のままヒルデガルドを見る。


「なぜわかるのよ」

「アムレットが教えてくれました」

「……その子能力があるの?」

「魔獣ですし、この子にとっても大型魔獣は天敵。本能的に感じたみたいですね」


 ヒルデガルドは、腰の小型カバンにやさしく手をそえながら答えた。


「ふーん。その子かわいいだけじゃないのね。もしかして他にも何かできるの?」

「そうですね……普段この子が他の子としていることですけど、連絡を取り合っているので、遠方の情報が入ったり、逆にこちらから情報を送ったりできます」


 ヒルデガルドは、ルイーサや他の人の近くにいるとき、アムレットから情報を得ていた。

 突然ルイーサに情報を伝えることがあるが、その理由はアムレットからの報告によるものだ。

 アムレットから報告を受けるたびに、情報の取捨選択をしたうえで主人に伝えていた。


「他にも何かできそうなのですけど、なかなか試せていなくて」

「私たちの強い味方ってわけね。いい子だから帰ったらいっぱい撫でてあげるわ」

「ルイーサ様はアムレットと遊びたいのではないですか?」

「な、ち、ちょっと! そんな……別にかわいい子をかわいがっても……いいでしょ?」


 ヒルデガルドはクスッと笑ってしまった。


「いっぱいかわいがってあげてください。ルイーサ様もこの子の主人ですから」


 アムレットの話題をしているうちに、ルイーサの表情は和らいでいた。

 主人を想うヒルデガルドに、うまく調整されたのかもしれない。


Szene-02 東西街道上、後衛待機場最東部


 一方、普段は冷静なエールタインも、ただ待っている状況が不満だった。

 育ての親であるダンと、ヨハナ同様に大好きなヘルマが戦っている状況で、自分が何もできていないのだ。

 焦り始めるのも無理はない。


「エール様。待機も任務ですから……でも心配ですよね。いっそのこと、向かいますか?」


 デュオとしてまともに修練をしていないにも関わらず、ティベルダはエールタインの気持ちを汲み、主人に付いて行く覚悟はあると、暗に伝える。


「ごめん……多分、いや絶対怒られるけど、加勢したい」

「私はエール様の奴隷。すべて受け入れます」


 エールタインはティベルダの頭を一度、二度と撫でると、従者に一言伝えた。


「実戦をしながら、ボクたちデュオを形にできるいい機会だよね。無茶なことは承知でだけど、付いてきてくれる?」

「はい! エール様の思いを形にするために私はいます。どこまでもお付き合いします」


 二人は、すでに戦闘態勢で待機しているので、改めて装備を確かめる必要はない。

 それに、装備を確かめるような仕種をすれば、周りに行動を起こすと悟られてしまう。

 エールタインは、視線を森に向けたまま、ティベルダにささやいた。


「いくよ」

「はい」


 ティベルダは、燃料切れのように見せかけてランタンの灯りを消しており、二人は暗闇の中だ。

 ゆっくりと森へ向けて足を進める。

 街道の端にたどり着くと、草の音を最小限にするよう、慎重に茂みへと入ってゆく。

 忍び足のまま、さらなる暗闇へと姿を消した。

 だが、エールタインたちが森に入り込むと同時に、ヒルデガルドにはアムレットからの情報が届いていた。


「ルイーサ様、エールタイン様が動いたようです」

「どういうこと!?」

「おそらく加勢に向かったのだと思われます」

「あの子ったら……」


 ルイーサは片手を顎へと持っていくと、一瞬悩む仕種をしたが答えはすぐに出た。


「ヒルデガルド」

「はい。いつでもどうぞ」

「周りは?」

「今なら行けるかと」

「帰ったら思いっきり抱きしめてあげるから付いてきて」

「楽しみにしています」


 待機指示に背いた四人は、戦いの音がする森の中へと向かって行った。

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