Szene-01 鐘楼前広場
伝令から連絡を受けた役人が、見習い剣士たちに注目を促した。
女性役人の表情の硬さからすると、どうやら重大な連絡が入ったと思われる。
ただならぬ空気を感じ取った見習いデュオたちは、口をつぐみ、場は音一つない静寂に包まれた。
従者は主人の背後で動きを止め、剣士は手を剣へと伸ばして相棒の存在を確かめる。
皆、表情を強張らせ、受付係を務める女性を刮目した。
「ただいま伝令から連絡がありました。剣士様たちが森の中で大型魔獣を発見したそうです」
見習いたちがざわめきだし、静寂は一瞬にしてその場から去った。
他の見習い剣士たちと同様に、エールタインも一気に暗い表情へと変わる。
エールタインと手つなぎで同調しているティベルダは、主人の心の動きを案じて声をかけた。
「エール様」
「嫌な予感が的中しちゃったよ。なんだか胸騒ぎがしたんだ」
ティベルダは、エールタインの手をギュッとにぎりしめて言う。
「魔獣を発見したという報告だけですよ? ダン様たちはご無事です」
「……そうだね。ごめん、弱気になっていたよ。こんなときこそ、しっかりしないとね」
エールタインは、ティベルダの手をにぎり返すことで、気を持ち直したことを伝えた。
女性役人は、見習い剣士たちの動揺が静まるとともに、場を支配するざわめきが収まると、報告の続きを淡々と告げた。
「そこで、見習い剣士さまのお力をお借りしたいとのこと。もしもの事態に備えてなので、後衛の依頼です」
見習い剣士たちから、再びどよめきが起こった。
町壁の状態確認とは違い、魔獣討伐への参加となるため、戦闘になる可能性は高いからだ。
実戦経験の無い見習い剣士たちのほとんどは、尻込みしている。
「参加するということは戦闘もありえます。町としては無理をさせたくありませんし、剣士様も考えは同じはず。それを踏まえた上で力を貸していただきたい! どなたかいらっしゃいませんか?」
全員が、これから剣士になろうとしている身。
戦闘に参加するのが剣士と考える者もいれば、まだ剣士ではないのだから、足手まといになるだけだととらえる者もいる。
ある程度想定していた見習い剣士たちの反応に、女性役人は一つの提案をする。
「みなさん、戸惑うのは仕方がありません。しかし、剣士様も加勢を望んでいます。時間に猶予がありません。申し訳ないのですが、こちらから勝手ながら指名させていただきます」
魔獣を前にしている剣士たちにしてみれば、にらみ合いという状況は戦闘中と言える。
時間に猶予などあるはずがなかった。
見習い勇者の決断を待つより、役人が指名をするのは、やむを得ないであろう。
Szene-02 東西街道西門前
森に入り込んでいる剣士たちの後方となる街道上に、選ばれた見習い剣士が等間隔に並ぶ。
といっても、剣士たちが見えるような近い距離ではない。
魔獣とのにらみ合いで静かにしているからか声一つ聞こえず、証石の光も全く見えないほど離れている。
選ばれた見習い剣士は五人で、奴隷を入れると十人だ。
町で唯一となった剣聖であるダンの弟子、エールタインが一番に選抜された。
残る四組は、上級剣士の中でも十年前の戦いにおいて、特に活躍したとされる人物の弟子が選ばれている。
その中にはルイーサ組もいて、これ幸いと、エールタインの横の位置を獲得。
距離はずいぶんと離れているが、ルイーサは満足げだ。
「さすがに話ができる距離ではないですね」
「いいのよ。こうしてエールタインさんと一緒に任務をこなすことができているのだから」
ルイーサにしてみれば、出会いを求めて出会え、見習いではあるが、剣士として一緒に任務をこなすことができるなど、募る想いを後押しするように願いは叶っている。
「ヒルデガルド、用意はしているわね?」
「いつでも出せるようにしています。ご安心ください」
「実戦でどこまで通用するか、試させてもらうわ。けれど、私たちが戦う状況にならないよう祈らないといけないのね」
ヒルデガルドも、自身の持ち物を確認してルイーサに一歩近づく。
「そうですね。ここまで魔獣が来たら町はすぐそこ。現れることは最悪を意味します」
前衛の精鋭が負けた相手と、実戦経験のない見習い剣士が戦うことになるのだ。
子供だましにすらならない可能性もある。
そんな見習い剣士も含めて、全町民は事態が無事に終わると信じて待っていた。