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第24話

Szene-01 レアルプドルフ西側、東西街道沿い森の中


 剣聖や上級剣士たちを頭に組まれた小隊は、町からほど近い森中で魔獣探索を続けていた。

 最近付けられたものと思われる足跡や、木に付けられた傷など、魔獣がいる証拠は見つかっていた。


「魔獣がこの辺でうろついているのは確か。あいつらは、夜になると動きが活発になる。ここからは、証石の光を灯して行動しよう」


 ダンの指示に従い、剣士たちは首から下げている証石を袋から取り出した。

 証石は、町の外に広がる山中などで生息している魔獣が、息絶えたあとに成り代わる光石だ。

 よって、証石の光を灯すと、小型の魔獣は恐れて逃げ隠れ、大型になるにつれて引き寄せられる。

 魔獣の住む森や山に接したレアルプドルフは、魔獣との共存を確立している。

 日常生活において、光石に触れつつ流れる川の水を飲み、光石の力を使う術を持っている民。

 小さな町でありながら、大国に潰されるどころか、対抗して独立した。

 魔獣を力の源にしている剣士は、戦いにおいて並外れた力を発揮する。

 各国から、剣士の町として警戒されるようになるのは必然といえる。

 強さだけをみると、あたかも魔獣を手中に収めているように感じられるが、そう甘くはない。

 小型から中型までは一般の獣と同じように対処できるが、大型となると話は変わる。

 やはり魔獣と呼ばれるだけの底知れぬ力を持った獣であり、人にとっては天敵となる。

 それでも人は、魔獣の力を利用して共存を可能にする術で生き抜いている。

 行商人の事件は、天敵である大型魔獣が現れた可能性を示すため、剣士たちは集まった。

 全員の証石がそれぞれの階級色で光り、暗闇に包まれていた東西街道が色彩の帯となって現れた。


「この光景を眺めているだけなら気分がいいんですがね」


 一人の上級剣士が、混じり合う煌めきを瞳に映してつぶやいた。


「悲しいことにこの状況は戦闘時である証拠。だが、これのおかげで士気も上がる。好ましくないってことでもないんだよ」

「そうですね。レアルプドルフの一人なんだと勇気づけられます」

「さあ、これからさらに気合を入れていくぞ。冷静さも忘れずにな。引き続きどんな小さな情報でもかまわんからその都度伝えてくれ」


 潜んでいる魔獣を刺激しないよう、声を上げる代わりに拳や腕を当て合うことで、剣士たちは互いを鼓舞した。

 皆不安を感じているはずだが、反面、どこか楽しんでいるようにも見え、剣士としての血はわき立っているようだ。


Szene-02 レアルプドルフ、鐘楼前


 鐘楼前では、町壁の調査を終えた見習い剣士たちが戻っていた。

 町壁は、一部強化工事が必要ありの報告があったものの、おおむね問題はないという結果となった。

 安堵する見習いたちが、それぞれの従者や知り合いとの間で話を弾ませる。

 その中には、エールタインやルイーサたちも混ざっていた。


「大きな問題は無さそうでよかったね。あとはダンたちだけど、まだ戻ってきていないのかな」

「ダン様とヘルマさんは魔獣を探しに行っているのですから、心配ですね」

「戦うことが前提だからね」


 剣士総出で向かっていることが、魔獣の恐ろしさを物語っている。

 これまでの経験上、大型の魔獣相手には総攻撃が必要であると刷り込まれてきた町だ。

 気の抜けない状況なのである。


「いずれはその仲間になるんだ。強くなってみんなの力になろうね」

「エール様となら私も強くなります! ですからエール様、いっぱい甘えていいですか?」

「ん!? あ、甘えるの? そんなのいつでもしなよ。甘えてくれた方がボクもうれしいし」

「やった!」


 その場で小さくはねるティベルダを見て、横にいた他の従者は目を見開いている。

 奴隷の扱いが家族型になってきているものの、戦闘の支援者としてしか扱われていないのが実状だ。

 従者は、常にぬかりがないようにという緊張感がある。

 しかし、ティベルダはキャッキャッと喜んでいるのだから驚くのも無理はない。

 おまけに主人も手をつなぎながらほほえんでいるのだから。


「お疲れ様、エールタインさん」


 遅れて到着したルイーサは、珍しくエールタインたちをすぐに見つけることができたようだ。


「お疲れ様。ええっと、る、る、る?」

「エール様、ルイーサ様ですよ」


 ティベルダの小さな声がエールタインの耳に届くと、口をぽかんと開き、記憶があいまいであることをあからさまに見せた。


「あ、そうそう、ルイーサさん」

「んー、いいわ。細かいことは気にしないの。そちらは問題無かったのかしら?」

「何もなかったですよ。安心しました。自分の目で見ることが大事ですよね。そちらは?」

「そ、そうね。こちらも大丈夫よ。ね、ヒルデガルド」


 急に振られることに慣れているヒルデガルドは、すぐに返事をする。


「はい。それなりの経年劣化は見られますが、問題と言えるような箇所はありませんでした」

「私も実際に見て安心したわ」

「この町の壁はすごいですよね。改めて守られているなあって思いました。早く剣士になって、あの壁のように町を守らないと」


 ティベルダの頭をなでながら、よそよそしい言い回しで決意を語るエールタイン。

 ルイーサは、そんな顔に見とれながら少し表情を曇らせた。


「あの……同じ見習い剣士同士なのだから、堅苦しい口調はやめましょう。今後色々と情報交換やお話をしていくのだから」

「え。でもまだ会ったばかりだから」

「あら、もうずいぶん会っている気になっていたわ。五回目だったかしら」

「二回目です」

「あん、まだそれだけなの!? そう、仕方ないわね。では何度も会いましょう。よろしくて?」

「ああ、まあ、よくわからないけど、剣士を目指す方とお話するのは興味があるので、よろしくお願いします」


 ルイーサの圧に負ける形で、エールタインは渋々返事をした。


「では明日を楽しみにしているわね」


 思わずほころんでしまう顔を必死で隠すルイーサだが、ヒルデガルドには気付かれている。


「外回り組が何事もなければいいんだけど。それさえなければ会えますね」


 エールタインは、ダンたちのことが気になっているために、ルイーサとの話に身が入らない。

 それとは逆に、ルイーサは喜びを隠せないようで、ヒルデガルドの腕をつかんで表情に出ないようにこらえている。

 見習い剣士たちの話し声が大きくなってきたころ、伝令が役人の所へ情報を伝えに来た。


「剣士様からの報告です。ただいま大型魔獣を発見し、にらみ合いが続いている模様。魔獣の動きによっては戦闘になるとのこと」


 できるだけ、役人にのみ聞こえるよう、小さな声で伝える。


「場所は?」

「街道北側の森の中。道から見えないほど奥のようです」

「剣士様からの要望はありますか?」

「念のため、後衛として見習いを選抜して街道に配置して欲しいそうです」


 連絡を受けた女性の役人は、表情を険しくし、見習い剣士たちに声を掛けた。


「みなさん、連絡がありますのでお静かに願います!」

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