Szene-01 レアルプドルフ二番地区、西門南側
ルイーサは、ヒルデガルドに手を引かれる形で調査中。
ようやく任務範囲の端、西門南側に到着した。
「ルイーサ様、ここで終わりです。壁は目立った傷みはありませんでしたし、よかったですね」
「ええ。この町の壁は頑丈に造られているのだから、そう簡単には壊れないでしょう」
「頑丈なはずの壁が傷んでいると計り知れない恐ろしさがあります。慢心しないように見ておくのも大切ですよね」
「そ、そうよ。改めて言うまでもないわ。問題の無いことを確認するのが今回の任務でしょ?」
自信があるように話しているが、ヒルデガルドにたずねるような口調のルイーサ。
ヒルデガルドは、まったく気づいていないように振舞う。
「西門に着きましたね。剣士様たちは……広範囲に散らばっているようです」
「いずれあの一員になるのね」
ルイーサは、自分の両頬をパチンと平手打ちする。
「真剣に修練しないと」
「あのお方が先に剣士になられるかもしれません」
「ああ……やはりステキだったわ。そう、私は同期の剣士になりたいのよ! 剣士になるまで邪念を捨てます。ヒルデガルド、手伝ってね」
「当然です。そのために私はおそばにいるのですから」
多くの剣士たちを見たことで、忘れかけていた目標を思い出したようだ。
「剣士になるまでは私で我慢してください」
「……あなたはあの……エ、エールタインさんを知る前から私のお気に入りだから……ヒルデガルドがいなくなったら、我慢なんてできない」
ヒルデガルドは、主人から熱い思いを伝えられ、胸の前で両手を組んで目を潤ませた。
「そのようなことをおっしゃると、ルイーサ様を……いえ、何でもありません」
「ちょっと! こちらはその先の言葉を待っていたのに……まあいいわ。言わなくても知っているんだから。あなたのことは何でもわかってしまうの」
頬を赤くしながら、ぷいっとそっぽを向いてしまったルイーサ。
ヒルデガルドは思わず顔をほころばせていた。
Szene-02 ダン家前
エールタインが、ティベルダの肩越しに、後ろから両腕を巻き付けたまま戻って来た。
二人は任務中とは思えない、ゆるんだ顔をしている。
「あ! ヨハナさん」
「あなたたちはずっとそんな感じね。緊張感は持ってくださいね」
「はーい」
二人一緒にゆるい返事をして、家の前を通り過ぎてゆく。
「壁の状態は良かったのよね……ちゃんと見たのかしら。二人の関係より、仕事を心配してしまうわ」
ヨハナは、妙な心配を吐き出すようにため息をつき、エプロンのしわを直して家に戻った。
Szene-03 三番地区沿い、南北街道
陽が沈み、薄暗くなったレアルプドルフ。
町では、特に連絡が飛び交うこともなく、静かに鐘楼へ向けて戻る見習い剣士たちが見える。
その様子も見づらくなるにつれ、灯りが移動していく様へと変わる。
「そろそろ歩きにくくなってきたね。ランタンを用意してくれる?」
「はい」
ティベルダは、腰にぶら下げていたランタンを外して手に持った。
オイル式のランタンを地面に置き、鞄から火打石を出して火を灯す。
ティベルダの片手はランタンに支配されたため、主人との触れ合いは、手つなぎへと替わった。
「剣士になれたら
「私も見てみたいです!」
「うん、もちろん見せるよ。ダンに見せてもらったことがあるんだけど、剣聖は青い石でね、とっても眩しくてかっこよかったんだ。でも、剣士の黒い石は役場でちらっと見ただけで、光るところは見たことなくてさ」
まだ首からぶら下げていない証石を、そこにあるかのように胸のあたりでつかむエールタイン。
石を手にしたときのことを思いながらであろうか、視線は暗闇に包まれた町へと向いている。
ティベルダは、時々主が見せるその横顔をほほえみながら見つめる。
初めて会ったときから、振り向くたびに見る主の横顔を気に入っているようだ。
ランタンの灯りがエールタインの白い首筋を照らし、日中とは違う魅力を放っていた。
エールタインが次の行動を起こすまで、ティベルダの目は、主の首筋にくぎ付けとなった。
ゆっくりと目をオレンジに変化させていくと、エールタインがそれに気づいた。
「あ……ヒール送ってる?」
エールタインは、問いながらティベルダへと目をやり、オレンジ色を確認した。
「ティベルダの気持ちがボクに向いているのか。今はボクを好きって思っているの?」
「いつも大好きですよ?」
「うーん。ヒールを流すのはどういうときなんだろう。これ、すごく気持ちいいからクセになりそう……いや、もうなっているかも」
ティベルダは、エールタインの手の甲にゆっくりと頬ずりをする。
「なんとなくなんですけど、エール様と、くっつきたくなると熱いものを送っている気がします。いつもくっつきたくなるので、どのくっつきたい気持ちなのかがわからないのですが……」
手にやわらかい頬をすりすりとされながら、ヒールを送り込まれているエールタイン。
その感覚にのみ込まれてしまっているようで、立ち尽くしてしまっている。
「いけない! これではエール様が動けませんね。私が離れないと」
気持ちが高ぶってヒールを制御できなかったときとは違い、目は瞬時に青色へと戻ったティベルダは、慌てて頬と手を離した。
「あん、心地いいのが止まっちゃった。離れると余韻もなく終わっちゃうんだね。でも、自分で抑えることができたね。えらいよ」
エールタインは、少し残念そうな顔からうれしそうな表情へと変え、ティベルダの頭を撫でてあげた。
「あは。これ好きです。私にとってのヒールは、エール様にかわいがってもらうことですね!」
「お互いにヒールを送りあえていることになるのかな。いつもしていると何もできなくなりそうだ。使い過ぎないようにしないと……でも普段一緒にいるから難しいね」
「エール様も調節の練習をするのですか?」
「ははは。それじゃボクも練習するよ。ちょっとゆっくりしすぎたね。遅れると怒られちゃうから戻ろう」
手をつなぐことは欠かさないまま、二人は改めて役場に向け歩きだした。