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第20話 初仕事、開始

Szene-01 レアルプドルフ、東西街道


 警備範囲を指示された見習い剣士たちは、みな与えられた配置へと向かう。

 土地勘も必要であるため、見習い剣士の自宅から近い場所とされた。

 エールタインたちは、集まったばかりの町役場前から、まるで帰宅するかのように警備場所へと向かう。

 町役場からダン家までは、まず東西街道に出て街道交差点を経由して南北街道を北上する。

 三番地区の中ほどにある道へと入り、地区の奥へ進むにつれ、町壁の存在感が増していく。

 町役場前に行く前通った道を戻るエールタインとティベルダは、初任務の実感があまりないまま会話を弾ませる。


「このまま家に帰っちゃいそうだね」

「そうですね……ダメですよ! ちゃんと警備しないと」


 ティベルダは、目を見開き、胸の前で小さな拳を握って気合を入れる仕種をする。


「え? 冗談だよー。初仕事だから、ティベルダが緊張しているかもと思ってさ」

「緊張しています!」

「そんなに緊張していると、肩に力が入りすぎちゃうよ。前線ではないんだから、気楽にいこう」

「緊張しています!」

「……そ、そうなんだ。手をつなぐ?」


ティベルダは、見開いている目の輝きを増し、エールタインへ振り返る。


「つなぎます!」


 手をつなぐことが、日常茶飯事となっている二人。

 ティベルダは、歩きに合わせて前後に動いている主の手を、即座につかんで握る。

 エールタインが握り返したことで、ティベルダの顔は緩んだ。


「うふふふ」

「ティベルダ? 記念すべき初仕事だからね。だけどボクたちはデュオとして何も修練できていない。ぶっつけ本番なんてものじゃないんだ」

「はい」

「ちゃんと修練をしてからがよかったな」

「魔獣は待ってくれませんよ。大丈夫です! エールタイン様はお強いですから!」


 話を弾ませている二人の後ろから、コツッコツッと足音が近づいてきていた。


「やっと……やっと会えたわ」


 エールタインとティベルダは足を止め、つないでいる手の方から同時に振り返った。


「はあ……すてき。間近で見ると、もう――」

「ルイーサ様、落ち着いてください」

「はっ! そうね……わ、わ、わたくしは、その、る、るい、はわわわ」


 振り返ったままのエールタインとティベルダが同時に首を傾げた。

 すると、互いの頭がぶつかり、ゴツっと鈍い音を発した。


「いったぁ!」

「痛っ!」

「ごめん、大丈夫?」

「ご主人様からの初頭突きですから大丈夫です!」

「あのさ……全肯定過ぎて戸惑うんだけど」


 ティベルダは、頭をさすりながらもニコニコとしている。


「エールタイン様が私にされることは、全てご褒美なのです」

「こーら。嫌なことがあったらちゃんと言いな。……じゃないと無理させちゃうから」

「やさしさをいただきました! やっぱりご褒美じゃないですか。エールタイン様、大好きです!」


 つないでいる手を頬まで持ち上げ、エールタインの手に頬ずりをする。


「まったくこの子は……ここまで好いてくれるなんてね」


 エールタインは、ティベルダの頬の感触に負けたようだ。

 満面の笑顔で頬ずりをしている少女は、エールタインにとって最強だった。


「んん、コホン。名前がエールタインと言うのはわかったわ」


 声をかけたルイーサは、完全に無視されている。

 そろそろ待つのも限界のようだ。


「えっとごめんなさい。何かありましたか?」

「あ、あの……あなたに興味があるのよ……え、いや、そうじゃなくて」

「きょうみ?」


 再び首を傾けようとしたエールタインは、動きを止めてティベルダを見る。

 ティベルダも傾けかけたが、主と同じ考えに至っていたことを察し、笑顔を絶やさないでいる。


「大丈夫だったね」

「はい!」

「私の話を聞いてもらえるかしら?」


 ルイーサの突っ込みに、そうだったと口には出さず、ティベルダにウインクをした。

 ティベルダは、髪の毛がふわりと立つほど衝撃を受けたようで、エールタインの背後へ回り、がっちりと抱きついた。


「興味、でしたっけ? ボクのことを知っているということ?」

「み、見かけただけよ。それからずーっと探していたの」

「はぁ」


 理由のわからないエールタインの目線は、元の帰り道へ向こうとしている。


「私はルイーサ。二番地区にいるわ。あなたは?」

「ボクは三番地区です。あの、二番地区なら、そちらに向かわないといけないんじゃないかなあなんて」

「少しぐらいいいじゃない。では手短に。私と、と、と、友達から初めてみない?」


 エールタインは人差し指をアゴに当て、空を見上げる。


「どういうことですか?」

「だ、だから……そういうことよ」


 ルイーサの後ろ、一人分空けて待機しているヒルデガルドは、ティベルダと目が合った。

 ティベルダはその瞬間、顔をエールタインの背中に隠した。


「いきなり友達と言われても……」

「それなら空いている日に一度お話をしましょう。会える日を教えてもらえるかしら」

「そうだなあ、修練が終われば空くから明日……午後の鐘頃なら大丈夫ですよ」

「そ、それでは明日の午後の鐘が鳴る頃に、二番地区の泉広場でいいかしら?」

「かまわないですよ。ルイーサさんも初仕事ですか?」


 ようやく念願が叶ったルイーサは、棒立ちになってしまったが、なんとか口だけは動かし、エールタインとの話が途切れないようにする。


「そ、そうよ」

「なら一緒ですね。お互いの無事を祈っています」


 任務に戻るため、後ろに隠れていたティベルダと改めて手をつないだエールタインは、踵を返して去っていく。

 他の見習い剣士たちも散らばっている中で、任務の場所ではない地区で立ち尽くすルイーサ。

 主人に動く様子がないため、ヒルデガルドが声をかける。


「ルイーサ様、私たちも向かいましょう」

「わかっているわよ……あ、脚が動かないの」

「……では失礼して」


 ヒルデガルドは、主人のひざ裏へ絶妙な力加減で刺激を与えた。

 倒れかけた主人を支えて、静かに下ろす。


「ありがとう。ヒルデガルド、約束しちゃった」

「しちゃった……かわいい。は、はい! ようやく会うことができて良かったですね」


 見習い剣士たちが散らばり、静寂が戻った東西街道を尻目に、一組の見習いデュオは、完全に出遅れていた。

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