Szene-01 レアルプドルフ、東西街道
警備範囲を指示された見習い剣士たちは、みな与えられた配置へと向かう。
土地勘も必要であるため、見習い剣士の自宅から近い場所とされた。
エールタインたちは、集まったばかりの町役場前から、まるで帰宅するかのように警備場所へと向かう。
町役場からダン家までは、まず東西街道に出て街道交差点を経由して南北街道を北上する。
三番地区の中ほどにある道へと入り、地区の奥へ進むにつれ、町壁の存在感が増していく。
町役場前に行く前通った道を戻るエールタインとティベルダは、初任務の実感があまりないまま会話を弾ませる。
「このまま家に帰っちゃいそうだね」
「そうですね……ダメですよ! ちゃんと警備しないと」
ティベルダは、目を見開き、胸の前で小さな拳を握って気合を入れる仕種をする。
「え? 冗談だよー。初仕事だから、ティベルダが緊張しているかもと思ってさ」
「緊張しています!」
「そんなに緊張していると、肩に力が入りすぎちゃうよ。前線ではないんだから、気楽にいこう」
「緊張しています!」
「……そ、そうなんだ。手をつなぐ?」
ティベルダは、見開いている目の輝きを増し、エールタインへ振り返る。
「つなぎます!」
手をつなぐことが、日常茶飯事となっている二人。
ティベルダは、歩きに合わせて前後に動いている主の手を、即座につかんで握る。
エールタインが握り返したことで、ティベルダの顔は緩んだ。
「うふふふ」
「ティベルダ? 記念すべき初仕事だからね。だけどボクたちはデュオとして何も修練できていない。ぶっつけ本番なんてものじゃないんだ」
「はい」
「ちゃんと修練をしてからがよかったな」
「魔獣は待ってくれませんよ。大丈夫です! エールタイン様はお強いですから!」
話を弾ませている二人の後ろから、コツッコツッと足音が近づいてきていた。
「やっと……やっと会えたわ」
エールタインとティベルダは足を止め、つないでいる手の方から同時に振り返った。
「はあ……すてき。間近で見ると、もう――」
「ルイーサ様、落ち着いてください」
「はっ! そうね……わ、わ、わたくしは、その、る、るい、はわわわ」
振り返ったままのエールタインとティベルダが同時に首を傾げた。
すると、互いの頭がぶつかり、ゴツっと鈍い音を発した。
「いったぁ!」
「痛っ!」
「ごめん、大丈夫?」
「ご主人様からの初頭突きですから大丈夫です!」
「あのさ……全肯定過ぎて戸惑うんだけど」
ティベルダは、頭をさすりながらもニコニコとしている。
「エールタイン様が私にされることは、全てご褒美なのです」
「こーら。嫌なことがあったらちゃんと言いな。……じゃないと無理させちゃうから」
「やさしさをいただきました! やっぱりご褒美じゃないですか。エールタイン様、大好きです!」
つないでいる手を頬まで持ち上げ、エールタインの手に頬ずりをする。
「まったくこの子は……ここまで好いてくれるなんてね」
エールタインは、ティベルダの頬の感触に負けたようだ。
満面の笑顔で頬ずりをしている少女は、エールタインにとって最強だった。
「んん、コホン。名前がエールタインと言うのはわかったわ」
声をかけたルイーサは、完全に無視されている。
そろそろ待つのも限界のようだ。
「えっとごめんなさい。何かありましたか?」
「あ、あの……あなたに興味があるのよ……え、いや、そうじゃなくて」
「きょうみ?」
再び首を傾けようとしたエールタインは、動きを止めてティベルダを見る。
ティベルダも傾けかけたが、主と同じ考えに至っていたことを察し、笑顔を絶やさないでいる。
「大丈夫だったね」
「はい!」
「私の話を聞いてもらえるかしら?」
ルイーサの突っ込みに、そうだったと口には出さず、ティベルダにウインクをした。
ティベルダは、髪の毛がふわりと立つほど衝撃を受けたようで、エールタインの背後へ回り、がっちりと抱きついた。
「興味、でしたっけ? ボクのことを知っているということ?」
「み、見かけただけよ。それからずーっと探していたの」
「はぁ」
理由のわからないエールタインの目線は、元の帰り道へ向こうとしている。
「私はルイーサ。二番地区にいるわ。あなたは?」
「ボクは三番地区です。あの、二番地区なら、そちらに向かわないといけないんじゃないかなあなんて」
「少しぐらいいいじゃない。では手短に。私と、と、と、友達から初めてみない?」
エールタインは人差し指をアゴに当て、空を見上げる。
「どういうことですか?」
「だ、だから……そういうことよ」
ルイーサの後ろ、一人分空けて待機しているヒルデガルドは、ティベルダと目が合った。
ティベルダはその瞬間、顔をエールタインの背中に隠した。
「いきなり友達と言われても……」
「それなら空いている日に一度お話をしましょう。会える日を教えてもらえるかしら」
「そうだなあ、修練が終われば空くから明日……午後の鐘頃なら大丈夫ですよ」
「そ、それでは明日の午後の鐘が鳴る頃に、二番地区の泉広場でいいかしら?」
「かまわないですよ。ルイーサさんも初仕事ですか?」
ようやく念願が叶ったルイーサは、棒立ちになってしまったが、なんとか口だけは動かし、エールタインとの話が途切れないようにする。
「そ、そうよ」
「なら一緒ですね。お互いの無事を祈っています」
任務に戻るため、後ろに隠れていたティベルダと改めて手をつないだエールタインは、踵を返して去っていく。
他の見習い剣士たちも散らばっている中で、任務の場所ではない地区で立ち尽くすルイーサ。
主人に動く様子がないため、ヒルデガルドが声をかける。
「ルイーサ様、私たちも向かいましょう」
「わかっているわよ……あ、脚が動かないの」
「……では失礼して」
ヒルデガルドは、主人のひざ裏へ絶妙な力加減で刺激を与えた。
倒れかけた主人を支えて、静かに下ろす。
「ありがとう。ヒルデガルド、約束しちゃった」
「しちゃった……かわいい。は、はい! ようやく会うことができて良かったですね」
見習い剣士たちが散らばり、静寂が戻った東西街道を尻目に、一組の見習いデュオは、完全に出遅れていた。