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第11話 生地屋にて

Szene-01 南北街道東側、生地屋


 エールタイン一行が次に入った店は生地屋。

 街道が交わる町ということで、色々な物が充実している。

 その中でも人気なのは、剣士御用達の店は別として、一般の民の間では雑貨屋と生地屋だ。

 今回はヨハナとヘルマがティベルダ用の衣類を作るということで訪れた。

 しゃれた物だけでなく、遠距離移動などの過酷な状況に対応できる素材もある。

 扉を開けると、生地特有のにおいに包まれる。


「いらっしゃいませ。ごゆっくりどうぞ……エールタイン様?」

「そうだよ。ダンがいないから珍しいでしょ」

「お一人、ではなさそうですね」

「うん。十五になったからさ、その、ボクのところへ来てもらったんだ」


 店主は、目を見開いてから笑みを浮かべると、早歩きでエールタインのもとへと近づいた。

 初めて訪れた場所のため、エールタインの後ろに隠れていたティベルダに気づいたようだ。

 エールタインの背後をのぞくようにして、ティベルダの顔を拝もうとするが、ティベルダはうつむいて顔を隠した。


「あらまあ。いよいよ剣士エールタイン様の誕生が近づいたのですね」

「なんだか照れちゃうな。せっかくだから紹介するね。ボクの相棒、ティベルダだよ」


 エールタインにやさしく背中を押され、顔を見せるようにうながされるティベルダ。

 主人の指示とあれば話は変わる。すぐに一歩前に出て姿を見せた。


「ティベルダと申します。よろしくお願いします」


 ティベルダは、深々とお辞儀をした。


「ちょっとエールタイン様、また可愛い子を見つけましたね」

「でしょ? 見るからによく鍛えられている子もいれば、可愛い子もいっぱいいたから悩んだけど、ティベルダとは何かが通じた気がしたんだ」

「出会いはそういうものですよ。命にかかわることをするのですから、相性は一番大事だと思います。さすがエールタイン様です」

「別に特別なことをしたわけじゃないんだから、そんな風に言われると照れるってば」


 ティベルダの首に腕を掛けて軽く抱き寄せ、照れかくしをしようとする。


「仲がよろしくてほほえましいわあ」

「……あ、いや、これは……あはは、は」


 すでに真っ赤な顔をしているティベルダに続いてエールタインも赤くなった。

 エールタインは、ティベルダを抱き寄せたことで、墓穴を掘ってしまったようだ。

 そんなエールタインに気を遣ったかどうかは定かでないが、店主は別の話を振った。


「そういえばその服、ヨハナのではないですか?」


 店主はティベルダの着ている服を見て言った。


「そうなんだ。どうやらヨハナがこの子に何かしてあげたくなったらしくてさ」

「ということは、ヨハナもすでにお気に入りってことかしら」

「そうみたい。ダンとボクがいないとさ、ヘルマと一緒にかまってばかりみたいだよ」

「相当な歓迎ぶりですね。あの二人にとって後輩は初めてだから、エールタイン様と同じような気持ちなのかもしれませんね」


 エールタインの袖をつかんでいたティベルダが、生地の置いてある棚を見回している。

 それに気づいたエールタインは店に来た趣旨を思い出したようだ。


「それで、二人がこの子の衣類を作りたいって。色んな種類が必要なのは確かだし、動きやすい服はいくらあっても困らないからね」

「わかりました。さっそくおすすめを出してみますね」


 店主は張り切り過ぎて一つの特設売り場のように生地を並べた。

 結局、素材の種類ごとにティベルダが気に入るもので決め、それらをすべて買った。


「思っていたよりすごい荷物になっちゃったな」

「ごめんなさい。私もつい力が入ってしまって」

「とても良い物を出してもらったから助かったよ。初めてのことだし、こんなもんでしょ」


 きれいに重ねて一つに束ねられた生地を脇に抱えるエールタイン。

 床に置いてあった武具屋での買い物をティベルダが持ち上げた。


「持てる?」

「物を持つことは最初に鍛えられましたから。これができなければ話にならないからと――」

「そ、そうだね。ボクより大変な修練を積んできたみたいだ。負けられないな」

「いい刺激になりそうですね。可愛いのにとても頼りになりそう」


 剣士を支援するための能力を身に着けたからこそ町に出てきた子。

 剣士見習いが場数を踏んで能力を高めるまで、奴隷の能力の方が勝っているのはよくあることだ。

 そこで主による性格が現れるのだ。

 負けていることが許せなくて当たり散らす者や、エールタインのように互いに高め合おうとする者。

 助手として支援したいと思う主を、自分たちが選ぶことができればいいのにと、ブーズではよく話題になっている。

 エールタインとティベルダは、店主に見送られながら、荷物を抱えてゆっくりとした足取りで帰路に就いた。


「エールタイン様、ご主人様とお呼びしなくてもよろしいのですか?」

「ん? そっか、ヘルマもダンをそう呼ぶことがあるね。ボクはどちらでも気にしないよ。でも、できたら名前で呼んでくれた方が身近に感じられるからうれしいかな」

「では、お名前でも大丈夫ですか? 私、ご主人様と呼ぶようにと習ったのに出来ていなくて」

「それなら……身内の前では名前、他の人たちの前ではご主人様としておこうか。呼び方にうるさい人もいるからさ」

「はい! エールタイン様」


 ふふふ、と二人で笑い合い、南北街道を北へと足を進めた。


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