Szene-01 一番地区、武具屋
手を固くつないだまま店に入るエールタインとティベルダ。
店内は、左右の壁の上半分に武器と防具が並び、下半分の棚には、小道具が置かれている。
単に武具を売る店というだけでなく、修理や加工まで行う店だ。
「お邪魔するよー」
店の奥からあごひげをたくわえた初老の店主が現れた。
「いらっしゃい……なんと! エールタイン様じゃあないですか。大きくなられて」
「そんなに大きくないよ? 久しぶりだね、おじさん」
「ダン様と一緒ではないので?」
「うん。とうとう自分でこの店に来ることになったんだ」
店主はカウンターに両手をつくと、拳を握りしめて唸るように感激の声をあげた。
「くぅ、そうでしたか! もうそんなお歳に……。アウフ様も喜んでおられるのでしょうな」
「そんな大げさに言わないでよ。近いうちにさ、ダンたちと父さんに顔を見せに行く話になっているよ」
「うんうん、それはいい! 泣きながら起きてくるやもしれませんな」
「それはうれしいような怖いような。たぶんおどろいて固まっちゃうよ」
「あっはっは! いやあめでたい。そうでしたか。エールタイン様が、ほうほう」
困った顔をするエールタイン。
ティベルダは初めて見る店に驚きつつ、自分の主人が話している姿を眺めていた。
「おや? もしやその子がエールタイン様の奴隷……いや、助手でしたかな」
「そ。ティベルダって言うんだ。十二歳だよ。これからはボクと一緒にいっぱい来るからね」
「十二歳ですか。まだこの歳の奴隷……いや助手を使わねばならんのですかなあ」
「無理しなくていいよ。奴隷と言っても気持ちが違っていれば大丈夫。おじさんはボクの意見に賛成なんでしょ?」
「戦ばかりだったころにしみついちまったんで、抜けませんな。でも、時代は変わるべきもの。エールタイン様のおっしゃることには賛成ですぞ」
Szene-02 街道交差点、東西街道側
「ルイーサ様、間違いかも知れないのですが、あちらでちらっと銀髪を見たような気がしました」
「あちら? 南北街道の方ね。見当がつかない今は間違いでもかまわないわ。あちらへ行ってみましょう」
「かしこまりました」
ヒルデガルドの目にちらりと入り込んだと思われる銀髪。
果たして探し人なのだろうか。
Szene-03 武具屋、カウンター
エールタインと武具屋の主はすっかり話し込んでいた。
ティベルダはエールタインから指示された武具を一つずつためしている。
「そうそう。最近、外では魔獣がうろついているらしく、運び屋が数人やられていると連絡がありやした」
「魔獣? 光石の元ってことと、やたら強くて被害に遭う人が多かったって話は聞いていたけど。最近は無かったよね?」
「ええ。どうも戦いが激しかったせいで隠れていただけの様でしてな。戦いが静まっている今、また出てきたとのこと。近いうち、剣士たちに依頼が来るかと」
持久力の上がる成分が入っていると言われるお茶を飲むエールタイン。
店主との会話が弾むと出される謎の飲み物だ。
店の隅ではティベルダが、革のブーツを必死に脱ごうとしている。
「運び屋さんたちが襲われるのは困るね。ボクも早く剣士に上がらないと」
「見習いでも、ダン様と共になら狩りに出るかもしれません。やはり人数が必要ですからな」
「ティベルダとの連携を急いで形にしないといけないね」
「期待していますぞ。協力は惜しみなくさせていただきますんで」
「ありがと。ティベルダ、気に入った品はあった?」
エールタインに振りむいたティベルダは、盾を持って眉間にしわを寄せていた。
「あはは! かわいいなあ。その様子だと、決められていないみたいだね」
「……はい」
「よしよし。一緒に探そう」
「仲がよろしくていいですな」
「うん! なんだかね、相性がすごくいいみたい」
結局エールタインが見繕っていき、選んだものがカウンターに積まれてゆく。
その様子をほほみながら店主は眺めていた。