Szene-01 街道交差点、三番地区前
レアルプドルフに、昼の休みを告げる鐘の音が響き渡った。
それはちょうど、エールタインとティベルダが街道交差点に差し掛かるときだった。
「こんなにはっきりと鐘の音を聞いたのは初めてです」
「そっかあ。ブーズの人は、剣士とデュオになるか、家業の仕事でもないと町に来ないって聞くものね。ティベルダは、助手の鍛錬をしていたから、ブーズを出たことないんだね」
「はい」
「これからは気にならなくなるくらい聞くことになるよ」
「まだ想像がつきません」
交差点周辺は繁華街の中心。
街道沿いには座ることが出来るように、どの建物にも段差が作られている。
それは同じ高さなので横一文字の装飾にもなっており、レアルプドルフにいると実感する光景の一つだ。
「今日はティベルダの防具と、良いのがあれば武器も買おうと思うんだ」
「緊張します。ほんとにエールタイン様の助手をするんですね」
「まだお互いにどんな動きをするかもわからないけどさ、何も無いんじゃ試すことも出来ないからね」
「エールタイン様の戦う姿を早く見てみたいです」
「なんだか恥ずかしいなあ。まだ見習いだし」
「私も見習いです。実戦はしたことないのでいっぱい教えてください」
ティベルダは、座っている間でもエールタインの手を離さず、ひざの上に乗せて両手で握っている。
「ほんとにさ、ティベルダがボクを気に入ってくれて良かったよ。最高のデュオになろうね!」
「はいっ!」
元気よく返事をしたティベルダは、膝から胸の前へと手を運び、大事そうに抱きしめる。
「はあ、身体に温かいものが入ってくるようですごく気分が良いなあ。ティベルダとは相性がいいのかな」
「それなら私は幸せです。エールタイン様が助かるように頑張りますね」
「うん。でも、無理したら駄目だからね。どんなことでもすぐボクに伝えること。これは絶対に約束ね!」
Szene-02 泉広場
町には、休憩終了を告げる鐘が鳴り響いた。
休んでいた人たちは、すぐに動き出す者と、時間をおいてから動き出す者とに分かれる。
ルイーサとヒルデガルドは、前者であった。
「さあ、行きましょ」
「はい、ルイーサ様」
改めて軽快な足音を響かせて、とある人を探すルイーサ。
ヒルデガルドも再び絶妙な距離を保ちながら、主について行く。
「あまり町に来ないのかしらね」
「ルイーサ様が一目ぼれされた時の一瞬しか情報が無いですから、見つけるのは難しいですね」
「あん、一目ぼれとか……顔が熱くなること言わないで」
「ルイーサ様、可愛いです」
「もぉ」
目的地を決めず一日中人探し。
ほんのり顔を赤くしたルイーサは、地面を見ながらひたすら歩く。
ヒルデガルドは、主のかわいらしい姿を見られて満足気だ。
そんな二人が街道交差点に差し掛かったころ、斜向かいをエールタインたちが歩いていた。
Szene-03 街道交差点、南北街道沿い
「ここは生地のお店。あとで寄ろうね」
「生地ですか?」
「そうだよ。ティベルダの服を色々と用意しないと。ヨハナたちが作ってくれるからね」
「うれしいです! 想像していた生活とは違っていて、びっくりしています」
「まだ普段の生活に必要な物を揃えるだけだから。買い物には何度も来るよ」
ティベルダが驚くのも無理はない。
てっきり、与えられるものは武器の類だと思っていたが、ブーズではあまり経験のない、日用品の買い物をしているのだから。
事実、レアルプドルフの剣士の多くは、助手を迎えて最初に与えるものとして、戦闘重視な物ばかりである。
徐々に、助手を家族として迎える風潮になりつつあるが、まだ浸透しきっていない。
ダンやエールタイン、ルイーサのように、助手を家族として扱う家に迎られた者は、幸運だと言える。
ティベルダは鍛錬中の教えとして、町での生活は厳しいものであると、あえてすり込まれたのだろう。
「なんだかボクも楽しくなってきたよ。ティベルダとこうして歩いているとさ、すごく癒やされるんだ。不思議だね」
「そうですか? お役に立てているのならうれしいです」
交差点の手前で南北街道を渡る。
時々運び屋が、人込みを上手に避けながら荷物を持って走り過ぎてゆく。
「ここを上がっていくよー」
道を渡り切ると細い路地へ入る。
店と民家が乱立している間を、上り階段がくねくねと曲がっていた。
道幅は、行き交う者が、それぞれ肩を引いてようやくすれ違うことができるほどしかない。
多くの荷物を持った人が現れるとすれちがいにくいため、建物のすきまに入って道をゆずる。
「階段上るのになれていないと危ないから手はしっかりつないでいてね」
「絶対に離しません!」
「と言いつつ、寄る所はここなんだ」
「へ?」
ティベルダがさらににぎりを強めたのは、目的の武具屋前だった。