目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第7話 鐘楼の音

Szene-01 三番地区前、南北街道


 エールタインとティベルダの二人は、仲良く手をつないで歩いている。

 南北街道に出ると、細い横道に差し掛かった。


「ティベルダ、ここの先にボクの生まれた所があるんだ」

「そうなんですか!? 見てみたいです」

「そこにね、父親のお墓があるから、ダンたちと顔を見せに行くことになっているんだよ」

「父上様が……母上様はどちらに?」

「あっちだよ。ボクを産んだ時に行っちゃったみたい」


 エールタインは、空を指差して言った。


「……す、すみません」


 エールタインは、ティベルダの前に出て目線の高さを合わせ、頭を撫でてほほえんだ。


「ボクの事について身内のみんなは全部知っている。ティベルダはもう身内だよね?」

「はい」

「なら、ボクの事はよく知っておいてもらいたいんだ。助手になったのだからなおさらね」

「エールタイン様……」

「だから、何でも気兼ねなく聞いてよ。ボクもティベルダについて全部知っておきたい。これからいっぱい聞くから隠さずに教えてね」

「エールタイン様になら全てお話します。私はエールタイン様のモノですし」


 エールタインは、ティベルダを引き寄せて、ギュッと抱きしめる。

 ティベルダは、自分の腕ごと抱きしめられたため、腕を下ろせばよかったと、うれしさ半分、後悔半分が入り混じった表情を浮かべた。


「モノっていうのもなんか違うけどさ、大事な人になったのは確かだから。これから先、ずーっとよろしくね!」


エールタインの首筋に頬を乗せて、ティベルダはほほんだ。

そして、気持ちが瞳を刺激して、オレンジ色に光る。


「はあ、エールタイン様……」


そのままほおずりをするとエールタインが笑い出した。


「あはは、くすぐったいよ……ん? ティベルダの目って色が変わるの?」

「……私の目は青色ですよ」

「今違って見えた気がしたけど……うん、ティベルダの言う通り青色だね。気のせいだったみたいだ」


 エールタインは、くすぐったくて思わず離れた際に、一瞬だけ戻りかけの目色が見えたようだ。

 ティベルダの反応からすると、彼女は、目の色が変わることを知らない。

 これまでに、誰からも言われたことが無かったのだろう。もしかしたら、誰も目の色が変化することに気づいていないのかもしれない。


「きれいな目なのは確かだから、好きだよ」

「うれしいです。私もエールタイン様の金色の目も、とてもすてきです」

「ありがと。さーてと、時間がもったいないから行こっか!」


 改めて手をにぎり、繁華街へ向けて歩みを進めた。


Szene-02 レアルプドルフ、街道交差点


「はっ! 近くにいるような気がするのだけど」


 突然足を止めて、キョロキョロと周りを見渡すルイーサ。

 だがヒルデガルドは、主にぶつからないように距離感を保っているうえ、驚きもせずに答える。


「見える範囲にはいらっしゃらない様ですが」


 周りを見回していると、人々の動きが一斉に止まった。

 町中に、レアルプドルフ鐘楼からの鐘の音が響き渡ったからだ。

 これは昼の休み時を知らせるもの。

 町内、特に街道では多くの人が行き交っている。

 その中で町民が休みを取るために鐘を鳴らし、作業を中断させるのだ。

 街道を利用している外部の行商人や旅人も休まなければならない。

 町の警備を担当する剣士達が街道の交通を止め、町の出入りも制限される。


「あら、もう休み? ヒルデガルド、食事にしましょう」

「はい。どちらでお休みしますか?」

「そうね……人は多いけれど、泉の傍にしましょうか」


 二番地区の交差点に面している場所には、木々に囲まれた広場の中に泉がある。

 町民のほとんどが休憩場所にしているので、空いている場所を探すのは大変だ。

 しかし、一部だけ剣士用の場所が設けられているので、ルイーサたちは、迷わずそちらへ向かい、剣士たちの集まる空間に混ざった。

 剣士用の場所が設けられているのは、剣士の町レアルプドルフならではのこと。

 町に初めて訪れた者にとっては、必ずと言っていいほど他の町で話のネタにする光景だ。


「湧き水はずっと見ていられるわ」

「一度ルイーサ様には実家の近くにある湧き水も見てもらいたいです」

「ここよりきれいなのかしら?」

「はい……私が好きなものは全て見ていただきたいです……」

「あなた、可愛いわね」


 ヒルデガルドは真っ赤な顔をしてうつむいてしまった。


「ルイーサ様はドキドキさせるのがお上手ですね」

「あなたが私を好き過ぎるのよ」

「……その通りです」

「仕方のない子ね。あなたならずっと好きでいていいわよ」


 勢いよく顔を上げてルイーサへ振り向くヒルデガルド。


「でも、ルイーサ様はあの方がお好きなのでは?」

「それはそれ。あなたのことも私は好き。好きになるのは気持ちが勝手にさせていることだから、あの子のことを好きでも、あなたのことも好きなのよ。私が好きだと思うものは全て私のもの」

「気持ちに自信をお持ちの所が……その……大好きです」


 両手をギュッとにぎりしめてあふれる気持ちをおさえ込んでいるように見えるヒルデガルド。

 それを横目でチラッと見ながら、ルイーサは、空に浮かぶ雲へ目をやった。


「あなたも気持ちをそのまま口に出しているじゃない。そういうところ、好きよ。私は、回りくどい事が好きじゃないから」


 レアルプドルフの中心部にある泉広場の一角で、温かい空気が泉のように湧き出していた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?