新しい家族を迎えて初めての朝食。
二人の先輩奴隷以外は眠気に負けていた。
「ティベルダはよく眠れた?」
「それが……ベッドがふかふかしているのが嬉しくて、眠れませんでした」
「あはは。それでは疲れが取れていないわね。初日だから、たぶんエール様も許してくださるとは思うけど――」
そのエールタインはこくりこくりと頭がゆれていた。
「ね、エール様!」
ヨハナがワザと大きな声を掛けた。
ハッとしたエールタインは、ピクリと肩を跳ね、キョロキョロと見渡してから答える。
「へ? あ、うん、おはよう……?」
「挨拶は食べ始める前に済ませましたよ? ティベルダは許してもらえるか、というお話ですが」
目覚め切らずにふわふわとしていたエールタインは、その言葉で目に力が戻ってきた。
「ん? 許すと言っても……ティベルダって何か悪い事したかな」
「ほら、大丈夫でしょ?」
「ふふ、ふふふ……」
ティベルダは思わず笑ってしまう。
「エール様、主がそんなことでは奴隷に飽きられますよ? しっかりしてくださいまし」
「あ、はい、ごめん。ところで、ティベルダは何をしたの?」
自分から言うようにヨハナが目で合図する。
「……ベッドが気持ち良すぎて、眠れませんでした」
「あはは。気持ち良かったなら今日からはゆっくり眠れるんじゃない? でも、体は大丈夫? 買い物に出かける予定だけど、辛かったら別の日にするよ」
「いえ、大丈夫です! エールタイン様とのお買い物、頑張ります!」
「いやいや、がんばる事じゃないからね。町の様子も見せておきたいし、買い物は何軒かお店を回るから一日中歩くことになるよ」
ヨハナがティベルダの腕を軽くつかんだ。
「ほらね。お優しい方だから、精一杯お返しするためにもしっかりと疲れを取るようにしなさいね」
「わかりました」
「えっと……なんだか主がヨハナみたいになっているね。ボクだから。ティベルダはボクのだから!」
「うふふ、私に嫉妬されましても。取ったりしませんよ?」
「ああ、ヨハナはボクで遊んだね? 遊んだよね? ふーん、そういうことするんだ」
椅子の背もたれに背中を押し付けて顔を背けるエールタイン。
ヘルマは、エールタインとヨハナのやり取りを見て、ずっとクスクス笑いっぱなしだ。
ティベルダは、主と先輩、どちらの言うことも聞きたいが、どうしたらいいのかわからない様だ。
「そういうことをしなくていいように、エール様自身もしっかりしなければいけませんし、ティベルダの面倒もしっかり見てくださいね」
「わかっているよ、大事な家族なんだからしっかり見るに決まっているさ」
ヘルマがヨハナに一声掛けた。
「それぐらいにしなさいな。私たちが言うべきことでは無くてよ」
「そうでした。エール様、申し訳ありません」
「ふむ。これでおあいこってことだね。どちらも未熟でしたっと。さあ気持ちを切り替えていくよ! ティベルダ、今はなぜかヨハナとヘルマにはさまれているけど、これからは常にボクのそばにいること。いいね?」
「はい!」
はっきりとした声で返事をしたティベルダ。
すぐに朝食を持てるだけ持ってエールタインの横に移動する。
最後に主の横へ椅子を並べると、うれしそうに座った。
「うーん、まだ主って何をすればいいかわからないや。今はまずそばにいてもらう事から始めてみるね」
話に区切りが着いた所でダンが船漕ぎから戻ってきた。
「ああ? 何かあったのか」
「なーんにもありませんよ、ご主人様」
「そうか、ヘルマがそういうなら大丈夫だ。おっと、飯を食べないといけねえ」
おもむろにスープをズルズルと飲み始めたダンを見て、全員がクスクスと笑った。
Szene-02 ダン家、ティベルダの部屋前
「おお! 可愛いのを着ているね」
「ヨハナさんからお借りしました」
「とても似合っているよ。ヨハナも何かしてあげたかったのかな」
エールタインはティベルダの頭を軽く撫でる。
すると、垂れ目になるほどにゆるんだ笑顔を見せた。
「頭撫でられるの、好き?」
「はい。今までされたことが無かったので初めは不思議な感じでした。でも皆さんが撫でてくださるうちに、とても嬉しくなったんです」
「そっかあ、小さい時に頭を撫でてもらえないのは寂しかったね。これからはボクがいっぱい撫でてあげるから」
そう言うと、何度も撫でてみせる。
エールタインは話す度にティベルダに対する好感度が上がっていくようだ。
「よし。そろそろ出発しようか」
「はい!」