Szene-03 ダン家、食卓
ヘルマとヨハナは、ティベルダを部屋へと案内している。
食卓では今後のことについてエールタインとダンが話していた。
「とりあえず着るものはそろえてあげたい。他にもここで生活し始めたら必要になるものが分かってくるはずだから、その都度買ってあげていい?」
「おいおい。可愛がることを前提に考えるな。いいか、まずは戦闘に関することをだな――」
「あの子は能力高いんだし、ダンとの練習を見せればボクにどう合わせるかがすぐに分かると思うよ」
エールタインは、ダンに対する絶対的な信頼から、自然体で思ったことを口にし、ヘルマの入れたハーブティーをグイッと飲み干す。
「……ふっ。考える事まで手っ取り早い。俺が言おうとしたことだが」
「おお! ボクも師匠と同じ考えが出来るようになったってこと? えらいな、ボク」
「こいつ……調子に乗るな。あの子の能力が高いのは確かだとは思う。出身がブーズの中でも東地区出身だからな」
「東地区だと何か違うの?」
「能力を持った子が生まれる確率が高いんだ」
「能力って、紹介リストの内容ではなくて?」
ティベルダの出身地ブーズとは。
貧困町民が町の郊外にある森に集まってできた村である。
そこでは農業や獣狩り、採石で生活をしているが、貧困から脱することが難しい。
そんな中、国家間や町村間での争いが激しい時期があった。
レアルプドルフは剣士の町であるが、戦いが激化すると人材が枯渇してゆく。
そして求められたのが剣士の助手だ。
ブーズに助手が出来る者を送り出すよう依頼が来る。
しかし大人はほとんどが衰弱や低運動能力。
急遽子供を剣士の助手として育成することとなった。
とはいえ、子供が育つまでには時間が掛かる。
それまでの年数を繋いでいた若者たちは男女関係なく駆り出されたが、ほぼ使い捨て状態となっていた。
その使い捨て状態の時期に、奴隷と呼ばれることが定着してしまう。
そして子供たちが送り出されるようになったのは、ダンの世代から。
よく教育されていたために、剣士たちの犠牲も減り、士気も上がった。
そんな子供の奴隷たちの中から、誰にも真似できない能力を発揮する子が登場し始める。
だが、能力を発揮する子達の出身は、なぜか全員がブーズの東地区であった。
一口ティーを舐めてからダンは答えた。
「ああ、特別な能力だ。俺たちがやっている剣術などとは違って、武器を使わないらしい」
「そんなことが出来る能力……あの子が持っているかも知れないんだね」
「可能性があるとしか今は言えんな。それを確認したいのもあるが、まずはエールを見習いから剣士に昇格させないとな。それも兼ねていつも通りの修練を見せよう」
「ボクが剣士にならなきゃティベルダもがっかりしちゃうよね。剣士の仕事もできないし」
Szene-04 ダン家、ティベルダの部屋
「今後必要になる物はエール様にそろえてもらいなさいね。」
「これまで使っていた物全てなのですが、足りませんか?」
「ええ。私たちも最初はこれぐらいだったわ。でもね、実戦となればブーズの頃では想像できなかった事ばかりに遭遇するの。それはエール様が教えてくださるから安心しなさい」
ティベルダの頭に手を置きながらヘルマが言う。
それに続いてヨハナもしゃがんでティベルダの髪の毛を触り出す。
「エール様はとてもやさしい方よ。勿論わからないことがあったら先輩である私たちに聞いてもいいからね。私たちは西地区出身だから特別な能力は出せないけれど、あなたは東地区出身なのよね。どんな力を持っているのかしら」
「ヨハナ。ティベルダの髪の毛を触りたかったんでしょ?」
「ヘルマだってなでたかったくせに」
「さすがエール様よね。可愛い子を連れてきてくれたわ」
主二人がそばにいないのをいいことに、ヘルマとヨハナはティベルダを愛でていた。
「あ、あの……私って可愛いんですか?」
「とーっても可愛いわよ。もしかしたらエール様は能力よりそちらが理由だったのかも」
「そんな風に、可愛いのか聞くところも面白くていい感じよ」
こっそりと大胆に新人を堪能した二人の奴隷。
立ち上がるとヨハナが服を差し出した。
「これね、私があなたと同じ背丈だった頃のものなのだけど、買い物に出かける時に着てちょうだい。たぶん親御さんが仕立ててくれたものなのでしょうけど、町民の中には少しのことで難癖つけてくる人もいるから。念のためね」
「はい。ありがとうございます」
ティベルダは服を受け取り、深々とお辞儀をした。