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六日目②

 ここから先の話を事細かに記す事は避けさせてもらう。これが物語であれば、その時の私は主人公ではなく、登場人物の一人にすぎなかった。主人公の名前を上げるとすれば、それは魔王の使徒である少女――紫野原翠だ。あの後私は彼女をスティルに会わせる為に地下へ行ったのだが、何と言うか……それからの私は醜態を晒してばかりいた。だから、詳細に記したくはないのだ。


 紫野原翠の活躍により、スティルが待ち望んでいた魔王ディサエルもこの教会に現れた(その時私は床で伸びていたし、魔王のせいで身体が石の様にもなった)。ディサエルは魔王と呼ばれているせいで殆どの絵画では恐ろしい姿で描かれているが、実際に見てみると想像よりも幼かった。スティルの双子の姉であれば、彼女と同じく見た目だけなら十五歳の少女である事くらいよく考えれば当たり前の事であった。しかしスティルとは違って髪も肌も服装も黒く、けれども瞳だけはスティルと同じ赤色だった。


 それからスティルとディサエルの双子は、スティルを守らんと迫ってくる騎士達を薙ぎ払い(この時私が大いに活躍した。活躍の仕方は伏せる)、私達はスティルの部屋を出て地上へと向かった。


 こういう時、必ずと言っていい程邪魔者が現れるものだ。今回の場合はスティルを捕らえたままにし、かつ魔王をも捕らえたい者――カルバスだ。階段を上った先の広間では、カルバスが騎士を従え待ち構えていた。


「遅いッ‼ いつまで俺を待たせる気だ⁉ 俺がここにいると分かっていてずっと扉を開けずにいただろう!」


 実際その通りだったから、当然のようにカルバスは腹を立てていた。


「部下の前でヒステリー起こすの止めた方がいいよー。職場内に怒鳴る人がいると、仕事のパフォーマンスが下がっちゃうんだって。あ、前じゃなくて後ろか」


 そんなカルバスに向けて、スティルが馬鹿にしたように笑いながら言い放った。


「俺は女みたいにヒステリーなんぞ起こさな……おお! これは我が妻、スティルではないか! 忠告ありがとう! 次からは気をつけるとしよう!」


 しかし馬鹿にされたとは露知らず、カルバスはスティルに笑みを向けてきた。おめでたい奴だ。彼女の舌打ちにも気づいていないのだろう。こんなのに付きまとわれたとあっては、奴にとって最悪の形で打ちのめしてやりたいという気持ちもよく分かる。


 カルバスは私や翠にも文句を言ってきたのだが、このカルバスという男は、一夫多妻制の時代の、しかも王族の生まれだ。女性が相手なら老いも若きも口説くのが礼儀だと思っているような迷惑な奴である。文句を言ったその口で、翠に対し側室にしてやろうと言い出した。


(この節操無しが)


 これに対し彼女はどう出たか。なんと声を震わせながらも己が側室にならない事も、スティルが奴の正室ですらない事も言ってのけた。否定されると思ってもいなかった愚か者共はざわめきだしたが、彼女のその言葉すら、カルバスは魔王の洗脳だと一蹴した。カルバスは騎士達に命令して私達を捕らえようとしたが、ここでもまた驚かされた。


「散れ!」


 彼女が懐から杖を取り出しそう叫ぶと、その先にいた騎士達が押し退けられ、彼女の前にはカルバスへと続く道が出来た。


「キミ意外とやるな」


「あ、えと……」


 彼女自身もまさかこうなるとは予想していなかったのか困惑していた。それもそのはず、今彼女の杖から放たれた魔法には、彼女のものだけでなく、双子の魔力も含まれていた。


(なるほどな)


 スティルはカルバスの悔しがる様を見て楽しみたいと言っていた。確かにこれは悔しがるだろう。大した魔力も持たない少女に倒されるとなれば。きっとそうした事まで含めて考えて、この双子はこの世界に来たのだろう。


 結果、その通りになった。


 紫野原翠という、この世界に住まう少女の、双子の神の使徒の、「カルバス達を元の世界に送り返す」という願いを叶える形で、スティルの願いもまた叶えられた。


 だからこの時の主人公は私ではなく、紫野原翠だったのだ。


 ……別に、私が主人公になりたかった訳では無い。


 因みに奴らが本当に元の世界に送り返されたのかは不明だ。私自身が元の世界に戻っていないから確認のしようがない。確認する為だけに戻る気も無い。元の世界に戻されたからと言って、団員全員が同じ場所にいない場合、全員一緒に元の場所、元の時間軸に戻っているとも限らないのだ。この注意事項は飽きる程副団長から聞いた。それに、あの悪戯好きの双子が全員を同じ時間と場所に戻すとは考え難い。

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