誰もいない、私しかいない色褪せた部屋。その中で唯一鮮やかな色彩を放っている物があった。
白い丸皿に置かれているショートケーキ。
自ら光を放っているかのような真っ白な生クリームを纏った二等辺三角形の形、その上には鮮やかで、色褪せた世界に映える赤色。
炎のように燃える赤が、私の視覚から入り込み、心をぽっと温かい火を灯してくれる。じんわりと、じんわりと熱が身体中に広がり、ケーキを見ている間は嫌なこと忘れられて、穏やかな気持ちになれる。
小さなフォークを手に持ち、まずはスポンジ部分から切り崩す。
白いショートケーキのスポンジは柔らかい黄色で、そのスポンジがイチゴと生クリームを間に挟んでできている。切ったことにより、私の見える景色が更に鮮やかになる。
そっとフォークを差し込んで口に運ぶ。
甘い生クリームの中のスポンジは、ふわっと柔らかく、イチゴのさっぱりとした酸味が生クリームの甘さがしつこくなる前に流してくれる。
そうやって幸福に心を埋められると感情がせり上がり、私は目元が熱くなって手で拭う。
濡れてしまった手を見ると、溢れたものは止められず視界が滲んで呼吸が苦しくなる。
吸う空気よりも吐く空気の方が多くなって、苦しくなって、でもケーキを口に運ぶ。空いた心に必死に幸福を詰め込むように。
とめどなく流れる涙が視界を遮るけど、それでもイチゴだけは私の目に届く。
迷わず、私はそのイチゴをフォークで刺して口に入れる。
甘酸っぱくみずみずしいイチゴが、涙で失った心を補ってくれる。
嫌なことを涙で流して、空いた心に幸福を流し込む。
そうすれば明日も、少しは頑張れる気がするから。