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第7話 彼女に踊らされ…


「椿くん、その、2人で話したいな」

「えっ? 別にここでもいいじゃないですか?」

「違うの、大切な話だから2人で話したくて」

「でも俺は小花衣さんとそんなに話したこともないし、大切な話をされても困るのでいいです」

「……」


 無言の圧力を感じる。

 まるで、話に乗れと言われているようだった。


 だが、俺はそれに気が付かないフリをして、小花衣さんの会話をかわした。作戦名は鈍感、鈍感な主人公になりきり行動するという作戦だ。

 そのおかげもあり、小花衣さんは何度も俺に話しかけるが、見事に撃沈していた。


「……」


 まぁ、笑顔でずっとこっちを見ていて怖いが。


「(ふっふっふ、見たか小花衣さん。俺だって小花衣さんに勝てるんだ!)」


 気分がとてもいい。

 数日前、小花衣さんに堕とされるんじゃないかとビクビクしていたのが嘘のようだ。この調子で3ヶ月を乗り切ろうと思った。




 それからも俺はうまく会話をかわし続け、小花衣さんに勝てる気でいた。

 だからたまにはと、お昼の時間帯食堂へと向う。


「(食堂でお昼のを食べるの久しぶりだな)」


 食堂は人が多くて滅多に利用しない。が、祝いの気持ちも込めて行くことを決めた。


 食堂に行き、俺は唐揚げ定食を注文。

 そして、気分がいいまま席を探しに行った。


「(うーん、空いてる席がないな)」


 しかしお昼の時間帯で、生徒たちがごった返し、空いてる席が見つからない。

 空いていてもすぐ他の生徒に取られるし。陰キャにはかなりきつかった。


「(うぅ、調子に乗って、食堂に来なきゃよかった)」


 なんて後悔をしながら席を探す。

 探すこと5分。

 するとようやく1席空いている場所を見つけた。


「(よし、今度こそ空いてる席を取るぞ! とりあえず前に座ってる人に話をしなきゃ)」


「すみません。空いてる席、座ってもいいです……」


 パッと顔を上げて声をかけた時、俺はピシリと固まった。


「か」

「いいよ。良ければどうぞ」

「な、なんで」

「なんで? それは食堂で食事をしてたからからだよ、椿くん」


 なんと話しかけたのは、まさかの小花衣さんだった。どうやら俺は運悪く小花衣さんに声をかけてしまったようだ。


「(しまった! 小花衣さんは食堂組だったか。小花衣さんが居たことに気が付かなかった)」


 声をかけてしまってはもう遅い。


「椿くん、席に座りなよ」

「あっでも」

「もう、椿くん。そこに立っていたら他の人の邪魔になっちゃうよ」


 そんなこと言われたら、小花衣さんの目の前に座るしかなかった。


 意を決して、小花衣さんの前に座る。


 チラリと小花衣さんを見ると、小花衣さんはニコニコと笑顔を浮べていた。


「嬉しいな、椿くんに会えて」

「あ、あはは、教室でも会ったじゃないですか」

「ううん、それだけじゃ足りないよ」


 小花衣さんの言葉をうまくかわす。作戦名:鈍感。しかし、なぜか食いついてくる小花衣さん。


「そ、そうですか。あっ唐揚げが冷めちゃうんで食べますね」

「うん、いいよ」


 なんか嫌な予感がして話をすり替え、俺は唐揚げを食べる。唐揚げは味がしっかりとついていて美味しかった……美味しいんだよ? でも小花衣さんがジッとこちらを見てくるのでめちゃくちゃ食べづらい。


「あ、あの、小花衣さん」

「ん? 何かな」

「その、見られていると食べづらいのですが」


 すると小花衣さんは俺の頬に手を伸ばしーー


「衣ついてるよ」

「え」

「ふふ、とれた」


 口元についた衣をとってくれた。とってくれたのだが。

 そのとってくれた時の優しい笑顔に、キュンとしてしまう。


「(って何がキュンだよ! キュンとするな俺!! これは罠だ!!)」


 バクバクと脈打つ心臓を抑える。なんとか平常心を保ちながら、顔を向ける。


「あ、ありがとうございま……」


 そこまで言った時。


「ペロリ」

「……こ、小花衣さん。何を」

「何って食べただけだよ? 勿体ないし」


 なんと小花衣さんは俺の口元についた衣をペロリと食べたのだ。まさか食べられるとは思わなかったので、絶句してしまう。


「(漫画であるシチュエーション!???)」


 まさか漫画のようなシチュエーションをされるとは思ってもみなかった。もう俺は瀕死状態だったし、対して小花衣さんはめちゃくちゃ元気そうだった。


「ねぇ、椿くん」

「なんですか」

「好きだよ」

「ん?」

「だから、好きだよ」


 小花衣さんから出た言葉。一瞬、聞き間違えかと思った。しかし、2度目も言われてしまう。  その言葉に、周りにいた生徒たちも驚いたように、俺たちを見ている。


「(こ、これは、かわさないと!)」


 やられたと思った俺は、慌てて言葉を重ねる。


「俺も好きですよ、クラスメイトとして」


 当たり障りない会話で誤魔化す。きっと小花衣さんもうまく返事ができ……


「違うよ。異性として好きなの。ライクとラブならラブの方だよ」

「ぇ」

「ふふ、言っちゃった」


 ないと思っていた。

 きっと小花衣さんは普段の表の顔があるから、積極的なことは言ってこないと思っていた。

 勝手に俺が思っていたのだ。


 しかし、俺の予測は外れ……他の生徒がいる前で告白+ハッキリと好きと言われてしまった。つまり、逃げられないのだ。


「あ、いや、その」

「答えはいつでもいいよ、待ってるから」

「ちがっ」

「ふふ、椿くんは照れ屋なんだから」


 なんとか言葉を発しようとするも、うまく誘導させられる。

 俺は悟る。どうやらまんまと小花衣さんの罠にハマったことを。


 周りが騒いでる声が聞こえる。しかし、うまく聞き取れない。だって、目の前で小花衣さんが笑ってるから。


「残念でした」


 小さく聞こえた声。

 俺は彼女の手のひらの上で、踊らされていたことを知った。





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