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第6話 ラウンド1

 小花衣さんと期限付きの戦いをすることになった。俺が勝てば小花衣さんは俺のことを諦めてくれるらしい……もし、もしも負けたら? 


「椿くん、何が欲しいの?」

「あぅ」

「自分の口で言わないと分からないよ? ほら」

「小花衣しゃま……♡」


 そこまで想像して、ぶんぶん頭を横に振る。

 自分のM堕ちした姿を想像し、鳥肌が立つ。


「(俺はリードできるようなかっこいい男になるんだ! M堕ちしない!!)」


 自分に言い聞かせるように何度も何度も心の中で呟き、そして勝つための方法を考える。


「(小花衣さんに勝つ方法。小花衣さんに勝つ方法……)」



「にぃに、朝ごはんできたよ……って何してるの?」

「……イメージトレーニング中」

「なんの?」


 不思議そうな顔をする香澄を無視し、うーんと頭をひねる。が、何も浮かばない。


「もぅ、冷めちゃうよ。ほら、早くー」

「わっちょっ、引っ張るなって!」

「今日は卵焼き上手くできたから、にぃにに食べて欲しいの!」


 ぷくーっと頬を膨らませた香澄が俺の腕を強く引く。

 こうなった香澄を放置すると、後々めんどくさくなる。香澄の機嫌を損ねないためにも、立ち上がるしかない。


「あのねー卵焼きをくるっとしてね」

「ほー」

「もう、ちゃんと聞いてる?」


 グイグイ香澄に引っ張られながら、リビングへと向かう。


「でねー」


 楽しげに話す香澄の声を聞きながら、ボーっと小花衣さんについて考える。


「卵をかわして」

「かわすか」


 卵をかわす……かわす……卵を。


 その時、俺は閃いた。


「(俺はずっと攻められることを考えていたけど、

攻められないように、かわせば良いのではないか?)」っと。



「香澄!」

「わっ、な、なな何にぃに!? いきなり抱きついて」

「いや、香澄に感謝の気持ちを込めて抱きしめたくなったんだよ! 本当にありがとう!!」

「? 変なにぃに」


 香澄は呆れた顔をしながらも、俺の頭をよしよしと撫でてくれる。香澄に頭を撫でられながら、俺はさらに作戦を考える。


「(見てろよ小花衣さん! 絶対に負けないぞ!)」



「ふふふ」


 今日の俺は朝考えた秘策のおかげで気分が良かった。朝礼が始まるまでの時間、つい鼻歌を歌ってしまう。


「何あれ」

「キモ」


 まぁっクラスメイトたちからは、ヤバい奴を見るような目でみられたけどな。でも、気分がいいからしょうがない。


「ふふふーん」

「あっ椿くん。今日はなんだか楽しそうだね」

「そりゃあ……って小花衣さん!?」

「あはっ、びっくりした?」


 いきなり俺の顔を覗き込んできた小花衣さん。めちゃくちゃ顔が近くて、ドクドクと心臓が鳴る。それになんかいい匂いもした。


「(落ち着け自分、負けるなー)」


 なんとか自分を鼓舞し、不器用ながら笑顔をつくる。


「び、びっくりしましたよ。いきなり、どうしたんですか?」

「ん、ただ椿くんの顔を見たかっただけ」

「っつ!?」

「そのっ、椿くんかっこいいからさ」


 頬を赤く染め、照れ笑いする小花衣さん。その姿は本当に可愛らしくて、俺だけでなくクラスメイトたちも見惚れてしまうくらいだった。


「(小花衣さん可愛いな……はっ!? つい見惚れてしまった!! 小花衣さんのことだ、きっとこれも俺を堕とすための作戦だ!)」


 心の中では「大成功♡」とか思ってるんだろう。


 ブンブンと頭を横に振り、なんとか正気に戻す。


「(小花衣さん、朝から勝負を仕掛けてくるとは。なら俺も作戦を実行しよう)」


 俺はさっそく小花衣さんの顔を見つめ、ほほをかく。そして言った。


「そんな訳ないじゃないですか。俺なんて全然かっこよくないですよー」

「……」

「小花衣さん変な人ですねー、あはは」


 小花衣さんの言葉に気にしないそぶりをし、とにかく笑う。作戦名:鈍感男を実行した。


(ちなみに鈍感男とは、漫画でよくいるヒロインの想いになかなか気付かない主人公のことである)


 すると小花衣さんの笑顔が固まった。内心困惑しているのかもしれない。


「ほらっ朝の朝礼始まりますし、席に着いた方がいいですよ」

「……そうだね、ありがとう椿くん」


 俺の言葉に小花衣さんは笑顔を貼り付けたままお礼をし、自分の席に戻っていった。反撃しようにもできなかったみたいで、どうやらこの作戦は成功したみたいだ。


「あ、ありえない」

「鈍感すぎない!」


 まぁ、この作戦を使うことで周りをヤキモキさせる副作用みたいなものもあるけどね。


「(わかるよ、その気持ち。俺も鈍感主人公を見てると同じこと思うもん)」


 うんうんと頷きながら俺は、この作戦を使っていこうと決めた。もし今みたいにクラスメイトの前で好意のあるような発言をされても「鈍感な男」を演じれば、こいつに言っても無駄だなってなるから。


「(小花衣さん、俺は簡単には堕ちませんよ)」


 廊下側に座る小花衣さんを見ながら、俺は呟く。


 俺が簡単に堕ちないんだってことを、小花衣さんに教えてあげよう。


「(だって俺は女性をリードできるような、かっこいい男になるんだから!)」




小花衣サイド



「(あはっすごく面白くなってきたな。そうこなくっちゃ、椿くん)」

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