目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第5話 文芸部へようこそ!2

「じゃあ、椿くん。ここにサインして」


 そう言って小花衣さんは机にあった紙を持ち上げ、俺に渡してきた。紙には部員届けと書かれていて、名前や住所なんかを記入する欄がある。


「(いたって普通の部員届けだ。なんか細工とかされてないよな?)」


 ペラペラと紙を動かしたり、二重になってないか確認する。どうやら見た限り、細工はされていないようだ。


「疑いすぎだよ、椿くん」

「で、でも、小花衣さんならなんか細工しそうですし」

「酷いなー。まぁ、子犬契約書を挟んでおこうと思ったけど」

「やっぱり細工しようとしたんじゃないですか!?」


「(こ、この人は本当に油断ならない!!)」


 警戒する俺に対し、小花衣さんは余裕そうだ。


「あはっ。でも、そんな契約書を勝手に結ぶより、自分で椿くん堕とした方が楽しいと思うんだ」

「ひっ」


 唇に人差し指を当てて、にっこりと笑う小花衣さん。だが笑っているのになぜか背中がゾクリとした。


「ほらほら、早く部員届け書いてよ。先生に帰りまでに出さなきゃいけないんだから」

「うっ分かりました」


 とりあえず小花衣さんに言われた通り、近くにあったペンをかりて部員届けを書いていく。

 小花衣さんは俺が書いている間ずっと黙っていたので(視線は感じる)、ペンで書いてる音だけが部室内に響いた。


「はい、小花衣さん。これでいいですよね」

「ありがとう、椿くん。確認するね」


 手を前に出し、部員届けを受け取ろうとする小花衣さん。

 だが、俺はその手をひらりとかわす。


「そ、その前に、一個提案があります」

「提案? 何かな?」


 不思議そうに首を傾げる小花衣さん。俺は少し息を吸うと、彼女の目を見て言った。


「お、俺を半年以内で墜とせなかったら諦めてくれませんか?」

「わぁ、大胆な提案だね」

「こ、これでも苦渋の決断だったんですから!」


 そう俺が提案したのは期限付きの提案だった。

 昨日から今日まで小花衣さんに流されてきたが、このまま2年間攻められ続けて無事でいる保証がない。なら、せめて自分が我慢できそうなくらい期限をつけたのだ。


「(本当は1ヶ月とか3ヶ月にしたいけど、それだと短いって文句言われそうだし。半年ならちょうどいいだろ)」


 まぁ、正直ギリギリのラインではあるけど。


「なるほどね」


 ちなみに小花衣さんはというと、何か考えているのか顎に手を当て考えている様子だ。

 まさかこの提案に乗ってこないってことはないよな??


「ど、どうしたんですか小花衣さん。まさか半年で俺を墜とす自信がないんですか?」

「3ヶ月」

「えっ?」

「3ヶ月でいいよ、半年だと長すぎるし」

「ほ、本気ですか!?」

「うん、だって……」


 小花衣さんは唇をペロリとすると言った。


「3ヶ月なら余裕で椿くんを落とせるんだもん」

「しょ、勝者発言だと?!」

「むしろ半年もあったら、椿くんは私にぞっこんになり過ぎていると思うな」

「そ、そそんなことないですよ! 俺の意思は固いんですから!」


 俺は小花衣さんを指差しながら強く言った。


「あはっ言ったなー。じゃあ、3ヶ月で決定だね」

「は、はい。いいですよ」

「じゃあ、もし3ヶ月で椿くんを墜とせなかったら、私は椿くんを諦めるよ〜」

「……本当に余裕そうですね」

「だって、本当に余裕なんだもん」

「うぐっ」


 小花衣さんの余裕そうな発言。

 俺はひるみそうになったけど、ここで負けたら小花衣さんにすぐ堕とされてしまうと思った。


「(負けるな俺! 絶対に小花衣さんに……)」


「かぷっ」

「へっ? ぎゃぁぁぁあ!?」


 俺は右の耳を押さえると、勢いよく小花衣さんから離れた。


「こ、こ、こ小花衣さん!??」


 まさかいきなり右耳を噛まれるとは思わなかった。

 噛まれたという事実に顔が赤くなり、戸惑う俺。小花衣さんはというと、そんな俺をみてクスクス笑う。


「うん、柔らかくて美味しいね」

「にゃにゃにゃ」

「猫みたい。私的にはワンワンがいいけどね」

「い、言いません!!」

「ねぇ、椿くん」

「なんですか!」

「時間は有限なんだよ」

「へっ?」

「だから時間には限界があるってこと。ほら、今だって1秒1秒進んでるの」

「つ、つまり?」


 すると小花衣さんは俺の側にやって来ると、俺の足の間にガンっと自分の足を押し込む。股ドンをしてきた。


「1分1秒も無駄にしたくないってこと。なので、今から攻めさせてもらうね」

「きょ、今日は手を出さないって」

「だって、もったいないじゃん。今日1日を無駄にするの」

「えー」

「それよりも、椿くん……どうして顔が真っ赤なの?」

「へ? そ、それは」

「意思が固いっていってたけど、顔が真っ赤ってことは意識しちゃったってことだよね? 私のこと」

「ち、ちが」


 小花衣さんから目を逸らそうとした瞬間、小花衣さんの右手が俺の顎を固定する。逃げようにも逃げることができない。すると小花衣さんは俺の耳元に顔を寄せ、


「じゃあ、なんで顔が真っ赤なの? 教えて欲しいな」

「うっ」


 囁くようにつぶやかれる。耳がくすぐったくなり、背中がぞわぞわとした。


「ちゃんと言葉にしないと分からないよ。ほら、意思が固いなら言ってみなよ」

「あぅ」

「なんで顔が真っ赤なの? ねぇ教え……」


 小花衣さんがそこまで言いかけた時、俺は勢いよく叫んだ。


「教えません! 俺を堕としてから聞いてください!! まっ小花衣さんは堕とせないと思いますけどね!!」


 俺は精一杯目の前にいる小花衣さんを睨みつける。プルプル震えている気がするが、気のせいだ!


「あはっ、たしかにそうだね。今日堕としたらつまらないしね」

「ざ、残念ですが、俺は簡単に堕とされませんから」

「どうかな」


 小花衣さんの瞳が鋭く光る。

 今、俺と小花衣さんの戦いが幕を開ける。








この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?