「ねぇ、椿くん。私と付き合って、私の"子犬"になってよ」
「はい??」
学園のマドンナに、好意を抱いている女子に壁ドンをされながら言われた言葉。俺の頭には「?」が浮かんでいた。
「(だっていきなり子犬とか言われたら意味が分からないだろ!?)」
俺はゆっくりと挙手するように手を上げた。
「あの、意味が分からないんですが。私と付き合って子犬? えっどういうことですか?」
「ふふっ、決まってるでしょ?」
「えっ」
戸惑う俺に対して、小花衣さんはというと……俺の顎に手を伸ばし、顎クイをしてきた。
「(顎クイだと!? 漫画でしか見たことがないんだけど)」
きっと俺の顔は真っ赤に染まっていたと思う。だって好きな女の子の顔が至近距離で近づいたから。
「……いいね」
「へっ?」
「あぁ、やっぱり椿くんの困りながらも赤く染まった顔すごくいい! やっぱり椿くんは最高だね」
「こ、小花衣さん?」
パッと俺から手を離すと、自分の頬に手を当ててクネクネする小花衣さん。なんだかいつもの彼女とのギャップにさらに戸惑う俺。
「あっごめんね。つい椿くんの困り顔が見れたから舞い上がっちゃった!」
「えっと」
「あっ付き合ってほしいとかについてだったよね?」
「は、はい」
小花衣さんはコホンと咳払いをすると、俺の顔を見て笑顔を浮かべ。
「つまり私は椿くんが好きなんだ」
「な、なるほど」
「で、付き合ったらドMの椿くんをたくさんいじめたいの!」
「なんて??」
「だから私がドSだから、椿くんをいじめたいって!」
「ドSなんですか、小花衣さん」
「うん、攻めるの大好きだよ♡」
ニコッとそれはもう最高の笑顔を見せてくれる小花衣さん。すごく衝撃的なことを言われたんだけど……それについて言及せねばならない。
「あの、俺……ドMじゃないですけど」
「ん?」
「だから、俺はドMじゃないんですって!」
俺が声を上げると、小花衣さんの顔は笑顔のまま固まった。
「あれ? ドMじゃないの」
「は、はい」
「えー、どっからどうみてもドMに見えるんだけどな。私のセンサー狂ったのかな」
小花衣さんは俺に顔を近づけながら、ジーッと観察してくる。顔が熱くなりそうだったので、慌てて俺は小花衣さんから距離を置いた。
「こ、ここ小花衣さんには申し訳ないけど、俺、カッコいい男性になるのが憧れなんです。女性をリードできるような。だからどちらかといえばドSを目指しているんです」
「ふむっ」
「な、なので、小花衣さんの予想とは違うといいますか」
「だから?」
「えっ?」
「だから、何?」
小花衣さんは問題ないという顔で言った。
残念がるとか悲しいという顔はせず、どちらかというと自信満々な顔をしていたのだ。
なぜ彼女がこんなに自信満々なのか分からなかった。
「そんなの、椿くんをドM堕ちさせればいいだけじゃない」
「へ?」
「椿くん絶対ドMの才能あると思うんだよね。だって照れて困った顔最高だし!」
「そ、そんなこと」
「椿くん! 今のその顔だよ!! あぁ、堕としたい♡」
小花衣さんの目に♡が浮かぶ。頬を赤らめ、息遣いの荒い小花衣さん。なんか怖い!?
「ねぇ、椿くん。私の彼氏という名の子犬になってよ。私、椿くんとなら幸せになれると思うんだ」
ジリジリと彼女は近づいてくる。再び壁際まで追い詰められそうで、焦っていた。
「だから、私と付き合おうよ。椿くん♡」
俺の返答はというと、
「お、お断りします! 俺はドMじゃないんで!!」
それだけいうと小花衣さんの横を走り抜け、教室から出ていった。
昔からどちらかというとかっこいい男になることに憧れていた俺。
そして、小花衣さんをリードできる男になることを夢みていたのだ。
「(だから、俺はドSなんだぁぁぁあ!!)」
「ありゃりゃ、逃げられちゃった。でも、絶対に堕とすよ。椿くん」
教室に1人残った小花衣はというと、椿の逃げた方角をみて唇をペロリと舌で舐める。
「堕とした時の顔が楽しみだな♪」
♡
「はぁはぁ、はぁ」
息が切れる。でも、もしかすると追いかけてくるかもしれないし。
俺は必死になって学校から逃げ出した。そして家に帰ると、玄関にそのまま倒れ込んだ。
「にぃに、お帰り。ってにぃにどうしたの?!」
「い、いや。たまには走ろうと思って、ほら普段はインドアだからさ」
「もう、そういうのはゆっくりやっていくものなの! とりあえず飲み物持ってくるから待ってて!」
二つ年下の妹の
「私の子犬になってよ」
「そんなの、椿くんをドM堕ちさせればいいだけじゃない」
「椿くん絶対ドMの才能あると思うんだよね。だって照れて困った顔最高だし!」
「椿くん! 今のその顔だよ!! あぁ、堕としたい♡」
「(なんというか、うん。まさかあんな裏があったなんて)」
小花衣さんの新たな一面を見てしまい、戸惑いの方が勝っていた。
「にぃに、とりあえず水持ってきたよ!」
「……なぁ、香澄」
「ん? 何?」
「にぃには、そのドSかドMどっちだと思う?」
「ドM」
「即答だな!?」
「だってにぃに、泣いた姿とか照れ顔超かわいいし、ドSではないかな!」
「うぅ、俺はかっこいい男になるんだ!!」
「えっにぃに、本気でどうしたの?」
戸惑う妹を放置し、俺は心に決める。
「絶対にかっこいい男になってやる!!」