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第2話 その顔がたまらない♡


「ねぇ、椿くん。私と付き合って、私の"子犬"になってよ」

「はい??」


 学園のマドンナに、好意を抱いている女子に壁ドンをされながら言われた言葉。俺の頭には「?」が浮かんでいた。


「(だっていきなり子犬とか言われたら意味が分からないだろ!?)」


 俺はゆっくりと挙手するように手を上げた。


「あの、意味が分からないんですが。私と付き合って子犬? えっどういうことですか?」

「ふふっ、決まってるでしょ?」

「えっ」


 戸惑う俺に対して、小花衣さんはというと……俺の顎に手を伸ばし、顎クイをしてきた。


「(顎クイだと!? 漫画でしか見たことがないんだけど)」


 きっと俺の顔は真っ赤に染まっていたと思う。だって好きな女の子の顔が至近距離で近づいたから。


「……いいね」

「へっ?」

「あぁ、やっぱり椿くんの困りながらも赤く染まった顔すごくいい! やっぱり椿くんは最高だね」

「こ、小花衣さん?」


 パッと俺から手を離すと、自分の頬に手を当ててクネクネする小花衣さん。なんだかいつもの彼女とのギャップにさらに戸惑う俺。


「あっごめんね。つい椿くんの困り顔が見れたから舞い上がっちゃった!」

「えっと」

「あっ付き合ってほしいとかについてだったよね?」

「は、はい」


 小花衣さんはコホンと咳払いをすると、俺の顔を見て笑顔を浮かべ。


「つまり私は椿くんが好きなんだ」

「な、なるほど」

「で、付き合ったらドMの椿くんをたくさんいじめたいの!」

「なんて??」

「だから私がドSだから、椿くんをいじめたいって!」

「ドSなんですか、小花衣さん」

「うん、攻めるの大好きだよ♡」


 ニコッとそれはもう最高の笑顔を見せてくれる小花衣さん。すごく衝撃的なことを言われたんだけど……それについて言及せねばならない。


「あの、俺……ドMじゃないですけど」

「ん?」

「だから、俺はドMじゃないんですって!」


 俺が声を上げると、小花衣さんの顔は笑顔のまま固まった。


「あれ? ドMじゃないの」

「は、はい」

「えー、どっからどうみてもドMに見えるんだけどな。私のセンサー狂ったのかな」


 小花衣さんは俺に顔を近づけながら、ジーッと観察してくる。顔が熱くなりそうだったので、慌てて俺は小花衣さんから距離を置いた。


「こ、ここ小花衣さんには申し訳ないけど、俺、カッコいい男性になるのが憧れなんです。女性をリードできるような。だからどちらかといえばドSを目指しているんです」

「ふむっ」

「な、なので、小花衣さんの予想とは違うといいますか」

「だから?」

「えっ?」

「だから、何?」


 小花衣さんは問題ないという顔で言った。

 残念がるとか悲しいという顔はせず、どちらかというと自信満々な顔をしていたのだ。

 なぜ彼女がこんなに自信満々なのか分からなかった。


「そんなの、椿くんをドM堕ちさせればいいだけじゃない」

「へ?」

「椿くん絶対ドMの才能あると思うんだよね。だって照れて困った顔最高だし!」

「そ、そんなこと」

「椿くん! 今のその顔だよ!! あぁ、堕としたい♡」


 小花衣さんの目に♡が浮かぶ。頬を赤らめ、息遣いの荒い小花衣さん。なんか怖い!?


「ねぇ、椿くん。私の彼氏という名の子犬になってよ。私、椿くんとなら幸せになれると思うんだ」


 ジリジリと彼女は近づいてくる。再び壁際まで追い詰められそうで、焦っていた。


「だから、私と付き合おうよ。椿くん♡」


 俺の返答はというと、





「お、お断りします! 俺はドMじゃないんで!!」


 それだけいうと小花衣さんの横を走り抜け、教室から出ていった。


 昔からどちらかというとかっこいい男になることに憧れていた俺。

 そして、小花衣さんをリードできる男になることを夢みていたのだ。


「(だから、俺はドSなんだぁぁぁあ!!)」
















「ありゃりゃ、逃げられちゃった。でも、絶対に堕とすよ。椿くん」


 教室に1人残った小花衣はというと、椿の逃げた方角をみて唇をペロリと舌で舐める。


「堕とした時の顔が楽しみだな♪」





「はぁはぁ、はぁ」


 息が切れる。でも、もしかすると追いかけてくるかもしれないし。


 俺は必死になって学校から逃げ出した。そして家に帰ると、玄関にそのまま倒れ込んだ。


「にぃに、お帰り。ってにぃにどうしたの?!」

「い、いや。たまには走ろうと思って、ほら普段はインドアだからさ」

「もう、そういうのはゆっくりやっていくものなの! とりあえず飲み物持ってくるから待ってて!」


 二つ年下の妹の香澄かすみがパタパタと駆け出す。俺は床に倒れながら、今日のことを考える。


「私の子犬になってよ」


「そんなの、椿くんをドM堕ちさせればいいだけじゃない」


「椿くん絶対ドMの才能あると思うんだよね。だって照れて困った顔最高だし!」


「椿くん! 今のその顔だよ!! あぁ、堕としたい♡」


「(なんというか、うん。まさかあんな裏があったなんて)」


 小花衣さんの新たな一面を見てしまい、戸惑いの方が勝っていた。


「にぃに、とりあえず水持ってきたよ!」

「……なぁ、香澄」

「ん? 何?」

「にぃには、そのドSかドMどっちだと思う?」

「ドM」

「即答だな!?」

「だってにぃに、泣いた姿とか照れ顔超かわいいし、ドSではないかな!」

「うぅ、俺はかっこいい男になるんだ!!」

「えっにぃに、本気でどうしたの?」


 戸惑う妹を放置し、俺は心に決める。


「絶対にかっこいい男になってやる!!」




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