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第27話 何だったんだろう?

「よし」


 今日の分のハヤトロクを、ノートに貼り付け、隼人は一息ついた。

 ここ二日、気持ちを鼓舞したいとき、いつでもどこでもハヤトロクを書いているので、ハヤトロク(本体)への移行作業は欠かせないのだ。


「はやく、音楽の授業にならないかな」


 待ち切れないから、明日会いに行こうか。今日の龍堂のことを思い出し、隼人は頰を緩ませた。

 俺を心配して来てくれた。たぶん二回も。

 胸がいっぱいだった。頬杖をつこうとして、熱を持った頬に気づく。ユーヤにノートで打たれた頬だ。


『邪魔すんなよな!』


 あのときのユーヤの顔は、すごく怖かった。


「何だったんだろう?」


 龍堂と知り合いだった……ということはないと思う。そんな雰囲気ではなかった。けど、ユーヤはどうだろう? 仲良くなりたそうだった。好きなのだろうか。

 隼人は、数学の教科書を開いた。おびただしい量の落書きを見下ろす。何度見ても酷かった。


「なんでこんなこと……」


 思わず漏れた呟きは、怯えと疲労に混じっていて、耳に届くとなお滅入った。それでも、考えずにはいられない。何故こんなことを?


「龍堂くんに教科書を貸すため……ってことはないよね。龍堂くんが俺のとこに来てくれるなんて誰も知らないし……なら、」


 これはただの悪意、ということでいいのだろうか。ボールペンの軌跡をなぞる。よほど強く書かれたのか、溝になっていた。


「はあ……」


 隼人は脱力して、机に伏せた。じゃあ、これまでのも全部、ユーヤの仕業だったのだろうか? お弁当やお茶、カッターナイフもろもろ全部。


「ここまでするかな」


 最近はケンたちを止めてくれていたと思ったのに。そうだとしたら怖すぎる。無数の犯人がいると考えるより、限定された方がましかも、とも思う。だけれど、たったひとりに激しい悪意を向けられているというのも、また違う恐怖だった。


「なんでこんなことするんだろう」


 隼人はとりあえずノートを開いた。


 敵襲!

 ハヤトは剣を抜こうとした。


「――……!?」


しかし、抜けなかった。先までは抜けたというのに、呪がかかり、鞘と結びついてる。


「くそっ……!」


 タイチが危険だというのに、自分が守らなければならないのに――焦燥が全身を駆け巡る。


「何やってんだよ! イジワルすんな!」


 ユーヤが現れ、剣を颯爽と構えるとタイチを助けるべく敵に突進した。


「やめとけ、ユーヤァ!」

「ユーヤ!」


 ケンとマオの静止が響く。ユーヤは止まらない。ハヤトは呆然と、その背を見送ることしかできなかった――



「何やってるんだよ、ハヤト!」


 咄嗟に叫んでいた。


「タイチのピンチなのに! それでも親友か!」


 悔しくて歯噛みした。どんどんとノートを叩く。タイチの窮地は敵を油断させるための演技だった。とはいえ、そんなことハヤトは預かり知らないわけで、ただハヤトはタイチを助けることができなかったのだ。なんという迂闊だろう。


「でも、それでも……!」


 ユーヤに対して悔しさが湧いた。ユーヤは酷い。ハヤトから「剣がない」と、剣を奪っておいて、本当は持っていて、タイチを助ける王子様になるなんて。


「だから、何を言ってるんだよ! タイチが助かってよかったじゃないか……」


 自分のことばかり考えるなんて最低だ。タイチは死にかけるところだったのに。なんて友達がいのない人間なのだろう。それでも、モヤモヤは止まらなかった。


「俺、一ノ瀬くんにめちゃくちゃ怒ってる」


 最悪だ。でも、これが本心だった。ノートに顔を突っ伏せる。

 ユーヤが教科書を龍堂に差し出したとき、お腹が痛くなるくらい腹が立った。

 がく然の中に、ずるい、酷い――そんな醜い言葉が心のなかで荒れ狂っていた。

 だからこそ、嬉しかった。龍堂が教科書を受け取らなかったことは。


「情けない。なんも出来なかったくせに」


 龍堂は自分を気遣って来てくれた。胸の奥がぎゅっとなるように嬉しかった。こんなにいいことが起こっていいのかと不安になるくらい。

 なのに、自分は何も龍堂くんに返すことができていない。


「はあ……」


 隼人は今日何度目かのため息をつく。情けなくて悔しかった。



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