目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第26話

 俺は、知ってる人をみつけて嬉しくなった。


「片倉先輩、いつもこの時間なんすか? すげぇ混むんすね、先輩いて助かっ――」

「待て、座んな」


 意気揚々とお盆を置こうとした矢先、片倉先輩に低い声で凄まれる。えっ、何で。


「ちょ、何でっすか? さっきはどうぞって」

「は? わかってんだろ。バカかお前」


 じろっと眼鏡の下からめちゃくちゃ睨まれる。目つきは怖えし、意味わかんねえし。

 おたおたしてたら、先輩が「チッ」と舌打ちした。


「もういい。俺がどく」


 そう言ったかと思うと、お盆を持って席を立とうとする。俺は、ぎょっとして引き留めた。


「ちょっと待ってくださいよ! 相席くらい、そんな嫌がんなくたっていいでしょ? みんなの食堂じゃないっすか」

「くそがぁ……寝ぼけたこといいやがって。誰のためだと思ってんだ……」


 片倉先輩は、今にも青筋を爆発させそうだ。小声で悪態をついたかと思うと、俺を睨みつけた。


「……黒なんかと、仲良くメシ食ってみろよ。お前、明日からハブ確定だぜ」

「えっ」

「俺は黒だ。わかったら、構うな」


 早口で言うと、先輩はふいっと顔を背ける。

 その横顔を、俺はついまじまじと見つめた。

 片倉先輩、黒だったのか。制服着てんの見たときねえから、知らんかった。

 てか、なんだ。そういうことかぁ。


「片倉先輩、ここで一緒に食いましょ。たぶん、どこも空いてねえすよ」

「話し聞いてねえのか。だから、俺とメシを食うと――」

「平気っす。俺も黒だし」

「は」


 レンズの下の目が、丸くなる。

 俺は、自分の盆を置くと、先輩の盆を取ってテーブルに置きなおした。

 先に座って促すと、先輩はなんかボー然とした感じで、すとんと椅子に腰を下ろした。


「……信じらんね。お前、そんな馬鹿みてえで、黒なわけ……?」

「うわ、ひでえ。いいじゃないすか、何でも」

「よくねぇよ。はー……」


 先輩は両手で顔を覆うと、深い深いため息をついた。

 「信じられん」とか「馬鹿じゃね」とか、ボソボソ聞こえてくる。口悪いな。

 ところで、俺は空腹が限界を迎えてんだけど。でも、先輩の許しなしに、食うのもアレだから。


「あの。先輩、メシ食っていいすか?」

「……はあ。もういいわ。好きにしろよ、もう……」


 片倉先輩は、疲れ切ったような顔で頷いた。のろのろと箸を握るのを見て、俺も手を合わせた。

 あ、そうだ。大事なことを言い忘れてた。


「片倉先輩、ありがとうございます」

「は?」

「俺のこと、心配してくれて」


 片倉先輩は、口をポカンと開けた。

 だって、俺がハブにならねえようにって、そういうことだよな?

 ニコニコしてると、バッと勢いよく顔を背けられる。


「うっざ……」

「へへ」


 悪態つきながら、眼鏡と長い前髪の下の頬が真っ赤になってる。

 ぶっきらぼうだけど、いい人なんだな。




 片倉先輩は、もくもくとメシを食っている。

 俺もカツにソースをかけて、もくもくとぱくついた。ここの食堂の飯は、何でもうまい。

 先輩の焼き魚もうまそうだなー。カツカレーにしたけど、定食もよかったな。


「そういえば。片倉先輩、明日の補習って出ます?」

「は? 出るけど何」

「いや、俺も出るんすよー」

「あっそ」

「へへ。朝早いと、食堂ガラガラで最高すよね」

「知らん。朝食わねえし」

「え、何でっすか?」

「腹痛くなる」

「あー」


 黙って食いたいタイプかと思いきや、意外と返事してくれる。

 調子に乗った俺は、色々話して、聞いてみた。

 ちょっともしたら、先輩が中等部からここにいるとか、下の名前がミナミであるとか、一年に弟がいるとか知れた。


「じゃ、片倉って奴がいたら、また話しかけてみますよ」

「絶対やめろ。つか、片倉じゃねえし……」


 弟の話を掘り下げると、先輩は苦虫を百匹くらい、奥歯でグリグリしたみてえな顔になる。なんか、複雑な事情があるんかな。

 話題かえよう、そう思って口を開いたとき。


「ギャアアアアアア」


 急に悲鳴が聞こえてきて、俺はバッとそっちを振り返る。

 と、食堂の通路を闊歩してくる、目立つ三人組を発見した。三人が生徒達の側を通る度、どよめきがビッグウェーブを起こしてる。すげえ。

 騒めきの原因――生徒会長と、副会長、須々木先輩の三人は、食堂の前方にある舞台に上がった。

 マイクを握った須々木先輩が、壇上から笑いかけた。


「えー。テステス。はい、お食事中に失礼しますー。生徒会から臨時のお知らせです。ご飯食べながらでええから、みんな聞いたってやー」


 臨時のお知らせ? 

 首傾げてたら、須々木先輩がこっちに向けてウインクした。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?