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第20話

『きみも決闘大会出るんやろう? そこで勝ち星上げて、序列をあげるんや』


……勝って序列をあげろ、かあ。

 決闘をして、上位の相手に勝てば序列を変えることが出来る。

 そういうルールだって、知ってはいたけど。まだ決闘をしたことがない俺には、いまいちイメージがわかねえというか。

 俺は、ため息をつくと、窓の外をボーっと眺めた。見下ろした中庭を、生徒の集団が歩いてく。


「あ」


 その中に、イノリの姿を見つけた。他より頭ひとつゆうに飛びぬけた、目立つ亜麻色。

 イノリは、最近デフォになっている、ダルそうな顔で歩いてる。

 その周りを、ドーナツ状に囲む生徒たちは、話しかける代わりにチラチラ視線を送ってた。みんな、紫以外のネクタイだ。

 イノリを囲む集団が、ぞろぞろと校舎の中に消えてったのを見て、何とも言えない気持ちになる。


『……ほんまは、まだなんも受け入れられてへんはずや』


 なんだろう、俺。今めちゃくちゃ、イノリとしゃべりてえな……。

 ふう、とため息を吐く。

 と、ヒュン、と風を切る音がした。次いで、パキンと額に何かぶっつかる。


「あでっ!」

「吉村、よそ見とはいい度胸だな?」


 前を見れば、葛城先生が青筋を立てている。

 机には、折れたチョークがばらばらになってた。やべえ、ホームルームの時間だったっけ。


「すんません」

「全く、ぼんやりしてるな。色々運ぶものがあるから、手伝いを募っていたところだが。罰として、お前があとで準備室に来い」

「はい」


 今日は、罰をよく食らう日だぜ。今回は俺が悪いけど……。

 クラスメイトの忍び笑いの中、俺はシュクシュクと頷いた。



「よいしょ、よいしょ」


 真黒い絹張りの箱を、腕に抱えて運ぶ。

 中に何が入っているんだか、ズッシリと重い。

 台車の上に慎重に乗せると、腕と腰がスッと楽になる。

 葛城先生は両肩に一つずつ箱を乗せ、倉庫から出てきた。俺よりちっさいのに、すげえ。


「さあ、どんどん運ぶぞ。なんたって、量があるからな」

「うす」


 倉庫から、同じ箱を何度も抱え出しては台車に積んだ。もくもくと運んで、積んでをやってるうちに、二台分に限界まで積みあがる。

 葛城先生は、手をパンパンとはたき、満足そうに頷いた。


「よし。これを、僕の部屋まで運び込んでもらうからな」

「わかったっす。ところで、これって何なんすか?」

「ん? 魔力測定石だが」


 なんだそりゃ。

 首を傾げると、葛城先生が台車を押し出しながら説明してくれる。


「魔力測定石とは、その名の通り魔力を測定する石だ。手に触れるだけで、体内に含有する魔力量を自動的に割り出してくれる。お前も、転入時の試験で触ったと思うが」

「へ?」

「水晶みたいな石に触らなかったか?」

「ああ、あれか!」


 急にピンときた。

 へえ、あの水晶玉、魔力測定石って名前だったのか。なんか、魔法道具っぽいな。

 そこで、あれっと思う。


「こんな沢山、転入生が来るんすか? やべえすね」

「馬鹿、そんなはずないだろう。冬季決闘大会に合わせて、お前たちのステイタスを更新するんだよ。クラスごとに魔力の再測定を行うから、その準備だ」

「へえ~」


 そんなんするんだ、凝ってるなあ。

 てか、測り直すほど、魔力って変わるのか? 最初から、あらかた決まっちまってるのかと思ってたけど。

 言うと、先生は目をクワっとかっぴらいた。 


「とんでもないことだ。魔力の量は、日々変化する。男児三日会わずんば刮目してみよ、と言うだろう。頑張れば成果に出るし、サボればそのツケが来るんだぞ」

「そ、そうなんすか」

「そうだ! 大切なのは鍛錬だ、鍛錬! 日々の頑張りが未来の自分を作るんだ、わかるか?」

「うす!」


 先生は拳を握り、熱く語った。俺もつられて、胸がカッカしてくる。


「やらなきゃ何も変わらないが、やると、必ずどこかには移動できる。吉村、お前もだぞ。頑張れば、必ず今よりは変わるんだからな」

「うす!」


 なんか俺、葛城先生のこういうとこ、好きなんだよなあ。

 それに、先生の喝に「うす」とか言ってるとさ、部活思い出して楽しかったりして。

 ガッチャン、元気にしてっかな。スマホ使えねえつって、手紙送ったっきりだけど。



 先生の部屋は、何度も来たことがある。主に説教とか、説教とかで呼び出されるからなんだけど。

 所狭しと積まれた本とか、何故かサンドバッグとか吊ってある部屋の隅に箱を積み上げる。


「焦るなよ。足に落としたらことだからな」

「はーい。足もっすけど、割れ物なんで。慎重にいくっす」


 だってこの石、めちゃくちゃ割れやすいんだもんな。

 試験の時もさ、ちょっと触っただけで「バキっ」って割れたわけ。

 「うおお」ってキョドってる間に、なんか色々人が来て話し合っててさ。んで急にバッサリ、「君は黒です」みたいな。

 チッ、割りやがってうぜえ、とか嫌われたんかと思ったし。


「その心配はない。この石は、特殊な魔石で製造されていてな。魔力による刺激以外は受けない――つまり、物理攻撃は受けない造りになっているんだ。落とした程度でびくともせん」

「え、すげー! ハイテクっすね」

「ハイテクだろ。安心して、足のことだけ考えとけ」

「うす」


 魔法、やべー。人智超えてんなあ。落下オッケーとかさ、この石でスマホ作ったらやべえのが出来そうじゃね。

 でも、あれ? じゃ、なんで俺のときは割れたんだろ。

 不良品だったのか?


「お疲れ様でした」

「お疲れ。ご苦労だったな、吉村」


 無事に運び終え、葛城先生に頭を下げる。

 先生は、室内の灯りを背負って、逆光になりながら頷いた。


「明日の朝、魔力コントロールの補習を行うからな。遅れるなよ」

「はい! お願いします」


 葛城先生が部屋に入るのを見送って、俺は廊下を歩いた。


「頑張れば変わる」


 魔法が大会までに間に合うかもわかんねえ。序列とかも、上げたいかって言われると、やっぱよくわかんねえ。

 マジで、わかんねえ尽くしだわ。

 けど、まずは頑張ってみようと思った。

 イノリの側に行くためには、動かないとダメってことぐらいはわかるから。




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