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第17話

「冬季決闘大会? 出るよー」


 イノリは、チョココロネをちぎりながら、おっとりと言った。

 俺は、助六弁当の紅ショーガの袋を切る手を止める。


「出んの?」

「うん。てか、出なきゃダメらしいよ。生徒会としての義務なんだってぇ」

「マジかあ。大変だな、生徒会」

「んー、まあまあ? はい。トキちゃん、あーん」

「あー」


 反射的に口を開けると、チョココロネを詰め込まれた。

 咀嚼すると、チョコクリームが甘くて美味い。飲み込むと、すかさず次を放り込まれる。

 結局、まる一つチョココロネを俺に食わせてから、イノリは言った。


「トキちゃんは?」

「ほへ」

「決闘大会、どうするの?」


 イノリは、こてんと首を傾げる。態度はゆるいけど、声は真面目に喋るときのトーンだ。

 俺も、机に凭れていた胸をシャンとして、椅子に座りなおした。

 決闘大会かあ。

 腕を組んで、天井を見上げた。


「うーん。ぶっちゃけ、わかんねえ」

「っていうと?」

「俺、ぜんっぜん魔法使えねえんだ」

「うん」

「決闘もしたことねえし」

「うんうん」


 西浦先輩によると、決闘大会のヤバさ加減は、いつもの比じゃねえみたいだし。

 転校して一月、俺は魔法をつかえた例がねえわけで。この状態で出たって、まあ、ボッコボコにされるしかないよな。

 だったら、欠席して来年にする。それだって、普通にありだとは思う。

……でもなあ。

 正面を向けば、じぃっと俺を見るイノリと目が合う。イノリは、ほんのちょっと苦笑した。


「でも、出たいんでしょ?」


 とっくにばれちゃってたらしい。ちょっとばつが悪くて、頬をぽりぽり掻いた。

 うん、出たい。バカかもしれんけど。

 もともとお祭り騒ぎとか、好きな方だしさ。

 魔法が使えねえまま出たって、負けちまうのは、わかってるけど。


「でもさ、負けるから出ないとかって、なんか悔しいじゃんか」


 負けるのが嫌で、弱小サッカー部やってられっか。いや、わざわざ負けたくはねえけどな。


「それに、まだ時間あるし。今からめっちゃ頑張って、鍛えるつもりだからさ!」


 葛城先生が、補習してくれるっていってたし。

 大会までに魔法が出来るように、まずやってみるかって思うわけ。

 イノリは、頷いて聞いてたかと思うと、へにゃと眉を下げた。

 悲しいみたいな、眩しいみたいな不思議な顔で笑う。


「トキちゃんらしいや」

「バカっぽい?」

「ううん。そーやってさ、負けないところ」

「……そおか?」


 負けまくってるような気もするけど。首を傾げてると、イノリは両手を伸べて俺の手をぎゅっと掴んだ。


「トキちゃん。俺、トキちゃんのこと応援する」

「えっ」

「絶対ちからになるから。魔法のことでも何でも、俺に話してね?」

「イノリ……ありがとな!」


 俺は、じーんとして手を握り返した。

 イノリは、昔からずっと優しい。

 どんなに負け続けでも、毎回サッカーの試合の応援に来てくれたし。

 ひでえボロ負けしても、俺と一緒になって、本気で悔しがってくれた。

 だから、俺だって、やってやるぜって思える。


「俺も、お前を応援する。二人で頑張ろうぜ!」


 ニカッと笑うと、イノリもニッコリ笑って頷いた。





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