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第13話

 抱き返した背中を、ぽんぽんと叩く。

 震えてるコイツが、ちっとでも落ち着くといいなって。

 すると、イノリはますます、俺の背をぎゅうぎゅうに締め上げる。

 きれいな見かけのわりに体格のいいイノリは、何気に胸板も厚い。肺が圧迫されて、俺は「うごっ」と呻いた。


「トキちゃん、会いたかった」

「ぉおう、おれも」

「トキちゃん……!」


 感激したように、イノリが俺の頭に頬を摺り寄せてくる。可愛いが、そろそろ背中じゃなくてマットを叩きそうだぜ。

 俺は何とか顔を仰のけると、強引にイノリと目を合わせる。


「おいイノリ、なんかガタイ良くなってねえ?」

「え、そう? 自分じゃわかんないけど……」


 イノリはきょとんとして、自分の体を見下ろした。密着度に余裕が出来て、俺は密かにはふはふと息をつく。


「ん-。生徒会入ってから、決闘続きだったし。それでかも?」


 イノリは言いながら、こてんと首を傾げた。

 俺は、生徒会って言葉にはっとする。


「そうだ、生徒会! お前、何で」


 なんで生徒会に入ったんだ、とか。

 なんで俺を避けたんだ、とか。

 問いただそうとして、口を開いた瞬間、


 グゥゥゥゥ。


 教室中に、間の抜けた音が響いた。

 俺は、目が真ん丸になる。イノリも、目をパチパチさせていた。

 音の発生源イズ、俺の腹。

 イノリが、俺の腹をまじまじと見下ろして、ぶっと噴き出した。


「ふ、ふふっ……! トキちゃんてば、すげぇ音。お腹へってたの?」

「め、飯時なんだから仕方ねぇだろーが!」

「そっかぁ。ごめんね、俺がお昼に呼び出したから」

「おい、顔が笑ってんだよっ」


 イノリの奴が、めっちゃ笑ってきて悔しい。くそ、俺って奴は、どうしてこうも締まらねえんだ。

 と、くすくす笑いながら、イノリが額を合わせてきた。


「ご飯も食べないで、きてくれたんだ」

「……!」

「すっごく嬉しい」


 そう言って、にっこり笑うもんだから。

 まあ、怒る気も失せたよホント。




 積もる話はあとにして。

 とりあえず、腹ごしらえしようってことになったわけ。

 俺は、イノリに引っ張られたときに、飛んでった昼飯を救出した。イノリも飯を持って来てたらしく、後ろの棚から袋を取りだしている。

 それが、実はちょっと嬉しかった。イノリの奴も、一緒に飯食うつもりだったんだって、わかってさ。

 適当な机に、向かい合ってメシを広げる。


「トキちゃん、焼きそばパン食べる? 好きだよね」

「マジ、いいの? これ美味いよなー。そうだ、コロネあるけど食う?」

「わっ、食べる食べる。ありがとぉ」

「つか、ダブってんじゃん。やべえ」

「あはは、ほんとだ」


 お互い、相手の好きなパンを買っていて、ややウケたりして。

 ダブったパンは、半分ずつにして食べた。

 で、俺が食後のコーヒー牛乳を啜って、人心地ついたころ。

 パックの紅茶を置いたイノリが、居住まいを正した。


「トキちゃん。今まで避けててごめん。ずっと、話そうとしてくれてたのに、逃げててごめんね」

「お、おいおい!」


 イノリが、ふかぶか頭を下げた。俺はぎょっとして、慌てる。


「気にすんなって。なんかワケがあったんだろ?」


 肩を励ますように叩くと、イノリが顔を上げる。へにゃりと眉を下げて、不安そうに俺を見つめてきた。


「……トキちゃん、聞いてくれる? 俺がなんでトキちゃんを避けてたか……なんで、いっかい断った生徒会に入ったのか」

「おう。望むところだ」


 俺は、即答した。

 当然だよな。

 ずっと、イノリ本人から、理由を聞きたくて仕方なかったんだからさ。





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