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第30話 ガキだけど天才なのよ

 フードコートに座り、ハンバーグを切り分けていると真絹が不満そうに頬を膨らませた。


「夢邦ちゃん、いくら何でもいきなり試着室に入るなんて恥ずかしいじゃないですか」


「ごめんなさい、悪戯したいお年頃なのよ」


 その落ち着き払った雰囲気はどう考えても悪戯なんて子供っぽいことをするそれじゃねーと思うんだけどな。


「それは偏見ってものよ詠史。あたしは童心だらけのガキなんだから」


「人の心を読むな」


「読まれるような単純な表情してるのが悪いのよ」


「それにしても夢邦ちゃん、素鳥さんとお知り合いだったんですか?」


「え?ああ、まあちょっとな」


「袖振れ合った程度の縁よ」


 二人の具合はまるで違うが、詳細は教えてたまるかと言う感情はヒシヒシと伝わってくる。まぁ聞いた真絹としても深堀するつもりはないだろう。実際すぐに僕への熱視線を再開した。


「んなことより夢邦、お前一人か?」


「ええ、『甘楼堂』のイチゴ大福が食べたくなってね。買いに来たのよ」


 見るとカバンの中にしっかりとイチゴ大福が入っていた。10個はあるが一人で食べるつもりだろうか。


「それでさ、三人ともここであったのも何かの縁だし、昼ご飯食べ終わったらちょっとあたしと遊んでくれない?」


「ん?そりゃもちろんいいが、何をするんだ?」


「そうねぇ………」


 何故か不気味且つ邪悪な笑みを浮かべたような気がしたが、きっと気のせいだろう。



 そうして案内されたのはダンスゲームの筐体だ。やったことはないが、リズムに合わせて足を指定の場所に置くオーソドックスなタイプ。そんな筐体が二台並んでいた。


「あたしと皇斗、詠史と叔母さんのチームに分かれて総合得点がどっちが上なのかの勝負をしましょう」


「おっなんだ?勝負事か?だったら逃げるわけにはいかねーな」


「良いんですか詠史さん?私は詠史さんがいいなら野球拳でも喜んでしますけど」


「野球拳は間違ってもしないが、当然だろ、夢邦に大人の力を思い知らせてやるいい機会だ」


「大人げなく本気を出しなさい。皇斗、あんたもいいわよね」


「ああ、一緒に頑張ろうな!!」


 こうしていたって健全的にゲームが始まった。最初は少々身構えていたがどうやら普通に勝負をするだけのようだ……まぁ夢邦がいくら不穏な空気を纏っていようとしょせんは子供、何か企んでいると思うのは杞憂だったか。


 二台あるので各チーム一人ずつ同時にゲームをすることになった。こちらからは真絹、あっちは素鳥が出てくるらしい。


「うふふ、お手柔らかにお願いしますね素鳥さん」


「やるからにはきっちり勝つぞ俺は」


 柔和な笑みとクソ真面目なやる気顔が交差した。そしてゲームが始まる。


「ほぉ、二人ともなかなか上手いもんだな」


 最近話題のアニメ『パカパカパッカーン』のOP『パカパカ』のリズムにのせて二人が身体を躍動させる。ただ、素鳥は目をかっぴらいて神経をすり減らしながらリズムを取っているが、真絹は必要以上に身体を動かして時たま僕の方に視線を送ってくる。まるで、男性って揺れるもの好きですよね、思う存分見まくってください、とでも言っているようだ。


「ふぅーん、そういう感じなんだ」


「夢邦、なんで僕の方を見てんだ?」


「いえ、叔母さんの縦横無尽の女体を見ても想像以上に動じてないって思ったのよ……どうやら家ではあたしの想像以上の痴態を晒しているようね……」


「仰る通りだよ。僕の想像も使いないようなこと色々されてる……って言うかお前、まさか僕が真絹をどう見てるかを観察するためにダンスゲームをやろうなんて言い出したのか?」


「ま、少しはその企てもあったわ。せっかくの機会だもの、あんたと叔母さんがどういう仲かしっかり見極めておきたいじゃない」


 可愛げなく笑った。見下しとか軽蔑とかそういうものではなく、ただただ面白くないと思った時の笑いだ。


「さて、そろそろ二人のダンスが終わるわ。あたし達も準備をしておきましょう」


「ああ…」


 二人の得点が出た。素鳥が74点、そして真絹が94点である。平均が80点らしいから真絹は流石の運動神経と言わざるを得ないだろう。


「やりましたよ詠史さん!!私の魅惑のダンス見ていただけましたよね!!」


「ああ見てた見てた、魅惑かは知らんけど見てた」


「うふふ、詠史さんがお望みなら夜のダンスを披露しても「おい、俺の前で堂々と風紀を犯すことを言うな」はい」


 少し疲労感を滲ませた素鳥がそう口を開いた。真絹は特に抵抗することなく一歩下がる。


「それでは次どうぞ」


「ふーん、皇斗20点は差をつけられすぎじゃないかしら?」


「悪かったな……こういうのは少し苦手なんだ」


「みたいね。ま、いいわ」


「さて、それじゃあ夢邦とどめを刺させてもらうぞ」


「お手柔らかにね」


 そうして僕たちの番が始まった。僕は反射神経をフルに稼働させてリズムを取る。


 よし、我ながら結構いいんじゃねーか、少しミスがあるがこのくらいなら……さて、小生意気な夢邦はどうなってるかな?


 余裕の表れなのだろう、僕は少し目を横に見る。


「はっ?」


 そこには夢邦がいた……いや、夢邦がいるのは当たり前なのであるが恐ろしいほどに動きが洗練されている……慣れている?実はこのゲームをやり込んでいたのか?いや、何か感覚が違う……


 表情と瞳に少しも力が入っていない、気負いが全くない。


「このゲームをするのは初めてよ」


「なっ!?」


 こいつ、ダンス中だってのに僕の思考を読んだだと………


「夢邦ちゃんは天才です」


 不意に真絹が後ろから声をかけてきた。


「私たちが生まれつき運動神経がいいものが多い家系です……私もその恩恵にあずかっていますし、夢邦ちゃんは私以上に良いです。でも恐ろしいのはそれではありません」


 目線を前に戻して自分のダンスに集中する。それでも後ろからの真絹の声に耳を傾けていた。


「彼女は自分の思った通りに身体を動かすことが出来ます……そんなの当たり前だと思わないでください。自分の思った通りに動かせないからこそ、スポーツ選手は練習を繰り返し、武道家は型を身に沁み込ませ、私たちは反復練習を繰り返すのです」


「そ」


 横から夢邦が口を挟んできた。


「このダンスゲームにしてもそう、思った通りに動かせるならミスなんてそうそうしないわ。自分の身体の状況をしっかりと把握できない、精密に動かすことができないからミスをするの。

 まぁ当然、ムーンサルトとか、ロッククライミングとか自分のフィジカルを超えた動きは出来ないからちょっとした特技に過ぎないけれどね……とは言え」



 そしてゲームが終わり得点が表示された。僕は79点そして夢邦は


「100点………だと」


「このくらいなら出来るのよ。ふふっ、1点差だけどあたしたちの勝ちね」


 夢邦が僕に近づいてきた。そして僕よりも低い身長で、覗き込んでくる……でも、まるで見下されているかのようだった。


「さっき企ては少しって言ったわよね……残りの理由を教えてあげる。まぁいたって単純な理由よ。

 あたし、負けるの嫌いなの。だから勝てるゲームを選んだ」


 く……このガキ…………


「皇斗、ご苦労様だったわね」


「ああ……そりゃどうも」


「フフフ、今日は楽しかったわよ詠史。また今度遊びましょう」


 そうして夢邦は邪悪で無邪気な笑みを浮かべながら去っていった。それが僕を最も嘲る行為だと言うことを見抜いたかのように……僕を………思いっきり馬鹿にした。


「夢邦ぃぃぃ!!次は絶対負けねーからな」


「ガキ相手に大人げないわよ~~~」


 こちらを振り向かずにヒラヒラと手だけを動かした。


 イタズラ娘め……


「いつかぶっ潰してやるぅぅぅ」


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