目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第29話 健全的露出狂再び

 あれ以来あの少女は俺の前に現れていない。


 そう、俺が初川と和倉に健全的露出狂行為を目撃してしまったあの日に天使の様な容姿と悪魔の様な雰囲気を両立させてきた初川夢邦と言う名のバラ色の髪をした少女。

 彼女は俺を前にしてたった一つだけ要求をしてきた。


『さっきあんたの性癖を目撃した二人、和倉詠史と初川真絹の学校内での行動をこの連絡先に報告してちょうだい。別に頻度は高くなくていいし、情報量も大したものじゃなくていいわ。

 貴方の生活を脅かさない範囲でいいからお願いね』


 不敵な笑みを浮かべた後彼女は俺の返答も聞かずに夜の闇に消えていった。まるで忍者のように、圧倒的なインパクトを残しながらもその余韻が僅かも残っていなかった。


………今思い出しても幻みたいな体験だったな。初川夢邦ってことは、多分初川真絹の関係者何だろうけど、雰囲気が全然違った。


 俺の名前は素鳥皇斗、犬前高校の風紀委員にして健全的露出狂だ。俺が何故こんなことを今考えているかと言えば。


「素鳥さん!!こんなところで奇遇ですね!!私は今、詠史さんとラブラブデート中なんですよ!!!」


「ほとんど、ブラブラしてるだけだろ」


「ブラブラとラブラブをすることは間違いなくデートです」


「さいで。ラブラブしてるつもりはないんだけどな」


「ふっ、相変わらず仲がよさそうだな」


 対象である和倉と初川に偶然出会ってしまったからである。


「じゃ、俺はこの辺で」


「ちょい待て、素鳥」


 その場を離れようとしたとき和倉に引き留められた。そのまま初川と距離をとり、露骨に密談を仕掛けてくる。


「暇ならちょいと付き合ってくれないか?」


「何でだよ、お邪魔虫はいらないだろう」


「あのなぁ、お前だって犬前高校の一員なら僕と真絹の頓狂な関係は分かってるだろ。真絹にとってはどうか知らんが僕にとっては全然お邪魔虫じゃないから。

 それでさ、実は真絹が今度一緒に海に行こうって言いだしてんだよ。まぁそれ自体はいいんだけど『詠史さんのお好きな水着を買いますので選んでください!!まぁ全裸で泳げと言うなら甘んじて受け入れますけど……』とか言ってんだよ」


 俺が健全的な男であり、なおかつ己の心を律する術を持たない男であれば血の涙を流してしまいそうな内容をこともなげに話してくるなこいつ。自分がどれほど恵まれた立場にいるのか分かってんのか?そんなんだから、拷問したいランキング一位を独走してんだよお前は。


「僕って大抵のことはどうでもいいと思うタイプだけどさ、流石に女ものの水着を選ぶのは羞恥心が疼くんだよ」


「じゃあ断ればいいじゃん」


「選ばなかったら僕の水着を着るか、最悪マジで裸で泳ぐのが初川真絹って女なんだよ!!」


 そんなまさか、と一笑に付したかったが犬前高校の生徒なら誰でも知っている彼女の奇行とこの和倉詠史への狂気的と言うに相応しい愛を考えれば強ちないとは言えないな。


 いやぁ、恐ろしい女だ。


「だからちょっとでいいから付き合ってくれない?ね?露出のことは秘密にしてやるからさ、ね?」


「おまっ、そんな腰を低くして脅してくるとか……って言うかそのことは忘れてくれたんじゃないのかよ?」


「人は忘れても、思い出してしまう生き物なんだよ。ここであったの何かの縁だし……なっ!!」


 初川もだけど、和倉も結構いい性格してるよな……ったくもう。


「仕方ないな。でもちょっとだけだぞ」


「ありがた「お話はまとまったようですね」」


 タイミングを見計らったかのように笑顔の初川が和倉の腕を引いた。


「それでは水着売り場にレッツゴーです!!詠史さんを篭絡する水着を着ますよぉぉ!!!」


 途轍もなく風紀を乱しかねない発言をしたが、周りの人は不思議と誰も気にしていない。そこまで他人に興味がなくなった冷えた時代なってしまったのかと心の中で首をかしげながら俺は二人の後を追った。



 試着室っていいよな……なんて言ったって、合法的に外で裸になれる場所だから。健全的露出狂として見逃せないスポットだ。


 そんな試着室から首だけをだして初川が甘く口を動かす。


「うふふ、この水着も私にピッタリあっています。どうですか詠史さん?中に入って確認されては?」


「いかんわ、と言うか着たんならカーテン開ければいいだろ」


「もうっ、そんなの無理ですよ…だって」


 初川は俺を見て顔を赤らめた。


「詠史さん以外の殿方に乳首を見せるのはちょっと……花も恥じらう乙女として無理です」


「着たの下だけかい!!」


「誰も全部試着したとは言ってません。さぁ、詠史さんカモンです!!」


 腕を出してクイクイと試着室に入ることを促す。しかし当然というかなんというか和倉の首は横にしかふらない。


「もう、ただ私は詠史さんに瑞々しい水着姿を見せたいだけなんですよ………あとついでにおっぱいを見せたいだけです。下だけ着れば両方が一遍に叶うのでお得じゃないですか」


 風紀をぶっ壊している発言なんだが初川が言うと不思議と綺麗な言葉な気がするから不思議だ。少しも恥じらいってものがないから逆にそう感じるのだろうか。


「なぁにがお得だ。そんな下らんことの為に奸計を巡らすな!」


 奸計って言葉を使える程頭が良い計画ではないと思うぞ。


「やれやれ、本当にヘンテコな関係性だなお前ら」


「ふふふ、愛とは純愛同士であっても奇妙奇天烈な形になってしまうことが往々にしてあるものなのです」


「純愛同士ってなんだ、同士って」


 和倉が軽く溜息を吐く。なんだか微笑ましいな……ふふふ、別に狙ったわけじゃなかったが夢邦って子に面白い報告が出来そうだ。


その時


「相変わらずいい身体してるわね。とても幼女体系のバーバから産まれたとは思えないわ」


 カーテンの向こう側から忘れたくても忘れられない声が聞こえてきた。青天の霹靂とでもいうのか、鼓膜を通してトールハンマーで殴られたような衝撃が響き渡る。


「えっ!!??ちょっ!!!???いつの間に!!!!???」


「詠史も見なさいよ。あんたの矮小な意地なんて粉微塵になるわよ……いや、だからこそ見れないのね。プライドってもんは面倒よね。まぁない奴より遥かに好感持てるけど」


 カーテンの下から音もなく、空気をわずかに揺らす程度の振動で現れたのはやはり、 圧倒的な存在感を放つ小さきバラ……初川夢邦であった。


「詠史、皇斗、久しぶりね。たまたま見かけたから押しかけちゃった」


 久しぶりに見た少女は以前と変わらず、否、以前よりもさらに強かで不敵極まりない笑みを浮かべながらイチゴオレに口をつけた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?