「まったく、レディーの部屋に勝手に侵入して寝顔を見つめるなんて何を考えていますの」
僕は和倉詠史、深夜の学校にいるという幽霊を探索しに来たら学校内の秘密の部屋でスヤスヤ眠っていた金髪の女性を発見した男である。白縁メガネをくいっと上げて不満を露わにしている。
「すいません……まさか女性がいるなんて思っていなくて」
電気がついた辺りを見回す。先ほど見たゴミやゲームはもちろん、暗くて気づかなかったが簡単なキッチンや他の部屋に繋がっているであろう扉がいくつか見られる。場所を除けば普通のトイレと風呂場が分かれているタイプのワンルームのようだ。
「で?お姉さんは何者なのかしら?学校内に作られた隠し部屋に居を構えているなんて普通の人じゃないってのは分かるんだけど」
鬼と間違われたのが堪えたのか、頭につけていたロウソクをリュックサックにしまった水菜乃が僕も聞きたかった疑問をぶつける。彼女は待ってましたと言わんばかりに喉を鳴らした。
「ふっふっふ、私(わたくし)は犬前灯華、この犬前高校の理事長の孫娘ですわ!!」
「理事長の孫娘?」
「そうですわ、その権限を活かし私は青春の塊であるこの犬前高校に住まい、このうら若く瑞々しい肉体に青春のオーラを取り込んでいますの!!!」
「なんつーぶっ飛んだ考え方なの」
まったくもって同感だわ……言ってることは分からんでもないけれど、だからって普通そんな真似するか?
「ぶっ飛んだとは失礼ではなくて?」
「ああごめんなさい、つい………」
水菜乃が頭を軽く下げた。それを見て犬前さんは満足そうに微笑む。
「いいんですのよ。私の考えに戸惑うことは決しておかしなことではありませんわ。エキセントリックな発想と行動力には昔からよく驚かれていましたし」
エキセントリックな発想と行動力か………どこぞの白髪美少女を思い出すな。
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そのころ真絹は
「くっ………開きません…オートロックされるタイプのようですね……おそらく、この先に入った方が入った後にうっかりロックをし忘れて、偶然詠史さんが扉に体重を預けてしまい、扉が回転したというところでしょう……ああ、詠史さんはなんでこういう事案に触れちゃうんですかねぇ。
詠史さんがこの先にいるのは間違いないのに…開かないなんて…これは愛の試練なんでしょうか……この壁爆発させてやりましょうかね」
結構物騒なことを考えていた。
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「それで貴方達は何といいますの?」
「あたしは2年4組の波園水菜乃。で、こっちは詠史、和倉詠史よ」
「どうも和倉詠史です」
「ほぉ、貴方が和倉詠史さんですのね。実際に見るのは初めてですわ」
「僕のこと知ってるんですか?」
「この犬前高校に通っていて貴方と初川真絹さんと言う方のことを知らない人は多分いないと思いますわ……愛の放送、いつも興味深く拝聴させていただいております」
うっ…そりゃそうだ…………ああハズイ。
「うふふふ、私も長いことこの学園にいますけど初川真絹さんほどアグレッシブに愛を伝えている方は初めてですわ。貴方達は間違いなくこの学園の歴史に名を刻むでしょうね」
うわぁ、刻みたくねぇ。
「長いことって……犬前さん、貴女もしかして」
なんだ?水菜乃は何に感づいたんだ?
「ふふふ、貴女のご想像の通りですわ。私は3年生、でもただの3年生ではなく現在24歳の3年生なんですの!!!」
「なっに!!??」
嘘だろ………妙に大人っぽい雰囲気だなと思ったが……姉ちゃんの1個下??
「でも別に頭が悪いからとか素行の悪さから留年しているわけではないですわよ。先ほども言った通り、高校と言う青春の最高峰の場所で誰もが羨み、誰もが求める最高で究極のアオハルを手に入れるために留年を続けていますの」
僕や水菜乃の驚きなど意にも介さず犬前さんはどこか誇らしげに口を動かす。
「そう、私はただの留年生ではありませんの。健全的な留年生なんですのよ!!!!」
ビシィっと断言をした彼女を見て苦笑いが溢れ出た。
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『私は詠史さんの健全的ストーカーなんです』
『俺は健全的露出狂なんだよ!!!!!!!!!』
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流行ってんのかよ、そのフレーズ……
「偶然とはいえこの場所を見つけ、私を発見した貴方方は特別なお二人ですわ。健全的浪人生にして、この学校の支配者の孫娘犬前灯華をどうぞお見知りおきあれですわ」
「ああ、そりゃ…こちらこそよろしく」
「それで犬前さん、あたしたちそもそも最近夜な夜な変な音がしているって噂の真相の調査に来たんだけど」
「ああ、それはおそらく私ですわね!!この部屋が出来たのは最近ですから!!!」
なんでこんな風に胸を張れるんだろうか。もしかして僕が知らないだけで、これは誇り高いことだったりするのだろうか?んなわけねーわな。
「しかし、音が漏れていたとは不覚ですわ。防音設備を強化するようにお爺様にお願いしなくては。健全的な生活を送るうえで他人に恐怖を与えてはいけませんものね」
金色の髪をたなびかせながら微笑んだ。なんだかその様子は花のようで、とても優美なのに……会話のせいで滑稽なものにしか見えない。
「えっと…つまり詠史、これは今回の騒動は犬前さんが原因ってことよね……ちぇっ」
幽霊じゃなかったことがつまらなかったのか水菜乃が口をとがらせる。
「ああつまり、幽霊の正体見たり金色の花ってところかな」
さて、姉ちゃんにどう報告するか考えとくか。