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第26話 鬼さんどちら?

「いつつ……犬前高校ってのはからくり屋敷だったのか」


 倒れた身体を起こそうと地面に手をついたのだがふにぃと妙に柔らかいではないか。


「おいこらスケベ」


「あっ?水菜乃??」


 ああ、今手を置いてるところって水菜乃の胸か。こいつはうっかりだ。


「悪いな」


 よいしょっと。


「人の胸に手を置いていると分かった上で立ち上がるな!!

 まったく、何を考えてるのかしら?」


「いや、慌てて他の場所に手を動かすのはお前如きを意識してるみたいで何となく嫌だったんだ」


「このやろ~~~、女の子のおっぱい触っといてムカつく態度だこと」


「お前は僕の中で女の子じゃないからな」


「おいこら、言ったな小僧。水菜乃パンチを喰らわすぞ」


「何万回も喰らってるあれのこと?いくらでもどうぞ、でもその前に」


 一足早くに立ち上がった僕が水菜乃に手を伸ばして、引き上げてやる。水菜乃は立ち上がった後に軽く伸びをした。


「ごめんなさい」


「許す。

 さて……と、あんたのあたしへの扱いへの不満は後回しにするとして」


 許してくれたといったはずなのに、不満を雨あられのようにぶつける気満々の水菜乃はあたりをキョロキョロと見まわしている。僕もつられて見回すが、星明りさえ差し込んでおらずほとんど真っ暗だ。すぐ隣にいる水菜乃の姿さえともすれば見失ってしまいかねない。


 壁に手を当てるとひんやりとしたコンクリートの温度が手に伝わる。鼻につくのはなんとも無機質な匂い、そして隣にいる水菜乃の匂いだけである。


「仕方ないわね」


「ついにその頭のロウソクに火を灯す時がきたか。まさか有効活用できる時が来るとはな」


「火事になったら危ないでしょ、普通に…ほらっ」


 懐中電灯があたりを照らした。文明の利器様様だ。


「さっき色々言ってた噂の中に、犬前高校には戦時中秘密の研究をしていた研究所を改装して作ったってのもあるのよね……変な仕掛けでの入り口といい、今んところそれっぽいかも」


「なんだと!?」


「まぁ眉唾物だけど……何でも人体実験なんかの鬼畜外道なこともしていたらしいわよ…霊の力をクソ真面目に研究してパワーを使おうともしていたらしいし、言うのも憚られるような危険な実験をしていたり…怖いわねぇ」


 露骨に『ヒュードロドロ』と言う擬音が出てきそうに手を動かして恐ろしそうな顔を作る。


「はっ、それが本当だとしたらそんな曰く付きな場所を校舎に改装した当時の人たちの方がよっぽど怖いわ」


「違いないわね。あたし達以上の肝っ玉だわ。

 とは言え、この場所が普通じゃないのは間違いないわよ。秘密の場所なのは間違いないわ」


 確かに水菜乃の言うとおりだ。無造作に転がっていたペットボトルといい、このどんでん返しと言いきな臭くて仕方ない。


「うーん……さっきのどんでん返しも何故か動かなくなってるし真絹と合流も出来なさそうね……」


「ちっ、後戻りできないってことは」


「進むしかないってわけね」


 水菜乃は懐中電灯を持っていない方の手を差し出してきた。


「何の罠があるか分かんないわ、念のため」


「わーったよ」


 その手を握り締める。これで滅多なことじゃ分断はされないはずだ。


「なんかあったらすぐに離せる程度の力にしとくのよ」


「わーってるわ……それより右側は任せるぞ」


「そっちこそ、左側に妙なことがあったら絶対に見つけなさいよ」


「当たり前だ。お前がうっかり落とし穴に落ちても引きずり上げてやるから安心しろ」


「あーーら?あたしの方が腕相撲強くなかったかしら?」


「人は成長するもんなんだよ。今じゃ僕の方が上のはずだ」


「じゃ、これが終わったら勝負よ」


「上等だこら。僕のマッスルパワー見せてやるわ」


「けらけらけら、そしたら真絹ともしてあげるのよ。あたしだけあんたの手を握ったとなればあの子嫉妬しちゃうから」


「………わーったよ。別に気にすることじゃないと思うんだけどなぁ」


「あんたの貧相且つ乙女心への理解度皆無な心じゃ分からないのも無理ないわね」


「このアマ」


 ゴトッ


 何かを蹴ったようだ。身体が一瞬硬直する。


「あら?今あんたなんか蹴ったわよね。そんでもってビビってなかった?」


「ビビッてねーよ。なんかあったから止まっただけだし」


「どうだか?ビビり~~」


「ビビってねぇよ」


「この手を通してあんたの感情は丸わかりなのよ」


「五月蠅い阿呆…それより何を蹴ったんだ?」


「逃げたわね…さて、何かしら?頭蓋骨だったりして」


「だったら大事件だな」


 明かりを僕が蹴った何かに当てる……すると。


「これ……SWITCH?」


 携帯ゲーム機がそこにあった。あまりに意外なものに僕たちは顔をあわせる。そして同時に首を傾げた。だってそうだろう、幽霊がいるだの外道研究がされていた跡地だので脅されていたら身近な玩具が転がっていたのだ。


 不気味っつーか、取り合えず警戒するか。


「水菜乃」


「ほいきた、よろしく男の子」


 水菜乃は僕の身体の後ろに回る。


「………なんだここは?」


 もう少し歩いたら今度はコーラの空きペットボトルが転がっていたり、ボテチの空き袋が転がっていたり、最近話題の漫画が転がっていたり、服が散らばっていたりと………なんというかまぁ。


「汚部屋ね。ここの幽霊は片付けが苦手と見えるわ」


「ああ………でもこれ見ろよ」


 壁に光を当てると僕の身体ほどの大きさがある特大のディスプレイが備え付けられており、その正面には上質な皮が使われていると一目でわかる高級そうなマッサージチェアが置かれていた。よくよく見ると、視界の隅には天蓋付きのベッドが見えるではないか。


「金持ちだぞ」


「そうみたいね、羨ましいわ。で、あのベッド人が寝転がってるみたいなんだけど」


 もうすっかり恐ろしさと言うものは消え去っていた。僕たちは無防備にベッドで寝ている人に向かう。


「ぽぁ?」


 そこには長い金色の髪の毛を携えた少し大人びた雰囲気の女性が眠っていた。ふんわりとしたシルクのパジャマに身を包んでおり、さながら中世ヨーロッパのお姫様の様な優雅な睡眠をとっているようだ。僕が光を当てるとようやく目を覚ましたようでゆっくりと瞼を開き、上体を起こす。


「………ぽぁ???」


「おはようございます………あの、あなた「ぎゃぁぁぁぁ!!!鬼ぃぃぃぃぃですわぁぁぁ!!!!」」


 水菜乃を見たと思ったらそんな風に叫んだ。そしてアワアワとせっかく開いた瞼が白目に変わり、包み込まれるようにマットレスに倒れ込んだ。


「え?あたし鬼?」


「鬼神のオーラに気づいてしまったか………なかなか勘の鋭い人みたいだな」


「詠史、あんたは後でしっかりつめるから覚悟してなさい」


彼女の寝ぼけた頭が水菜乃の頭につけてるロウソクを鬼の角だと勘違いしたんだなと気づくのは少し先の話である。


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