水菜乃が事前に開けておいたという部室棟の隅っこにある窓から私たちは侵入をしました。
「さぁ、呪霊狩りの始まりよ」
「お前はいつ陰陽師になった」
「幽霊だか妖怪だか知らないけど、この水菜乃ちゃんパンチを喰らえばいちころよ」
シュッシュと浅く息を吐きながらシャドーボクシングをしています。最後の一撃を詠史さんの鼻先で止めてすまし顔をぶつけました。
「どんなもんよ」
「普通のパンチだろうが」
「普通じゃないわよ、ほら」
広げられた手のひらの中には『安産祈願』のお守りが握られていました。
「悪しきものはこれで一発よ」
「何で安産祈願なんだよ」
「こういうのは不思議なことに安産祈願が一番効果的って相場は決まってんのよ。
まぁ他にも色々対策グッズは持ってるし、素人は黙っときなさい」
「はいはい」
「はいは1回」
「は~~~~~~~~~~~い」
むむぅ……相変わらずこの二人は仲良しですよね。普通幼馴染と言えど、いえ、幼馴染だからこそ高校生くらいになったら少しくらい壁が出来たりしませんかね……まぁいいです、水菜乃も詠史さんもお互いを恋愛対象には見てないんです………
でもどうしてもジェラシーです。
「まきゅぅぅ」
気づけば詠史さんの腕に絡みついていました。
「おっ?何してんだ?」
「すいません、嫉妬に狂いそうになりうっかり水菜乃に手裏剣を投げそうになったので心を落ち着かせました」
「物騒だなおい」
ああ、詠史さんの感触……いつ堪能しても天上の心地です……服越しでもこれなのですから生だったら一体どれほど……
心の涎がたまりませんねぇ……うふふ。
「手裏剣ってあんた、忍者みたいな武器持ってきたのね。っていうかどっから調達したのよそんなもん」
「お母様からもらい受けただけですよ」
ああ、子宮の中にも等しい、いえそれ以上に人の心を癒すこの体温素敵ですぅ。
「まさか真絹、水菜乃ってお前が忍者ってこと知らないのか?」
「はっ!?何言ってんのあんた」
「そういえば言ったことありませんでしたね……従姉と言ってもお父様が婿入りしてきたので波園家は別に初川家に直接関係ありませんでしたし当然忍者の家系でもありません。私たちもかなり疎遠でしたので説明する機会もありませんでした」
「はぁぁぁ????ちょっといきなり何を言ってんのよ?」
「別に、私は忍者の末裔と言うだけです」
「………なんなのかしらこれ…なんというかかなりの秘密をバラされたのに適当って感じが凄い」
水菜乃は深く溜息を吐いて肩を落としました。
「ま…色々聞きたいことも言いたいこともあるけれど今はいいわ………それより幽霊の正体を見破ってやりましょう………えっと、詩絵さんの情報によれば部室棟の3階が妖しいらしいわね」
息をひそめながら私たちは歩を進めます。もちろん滅多に見れない学校での詠史さん私服姿を目に焼き付け続けることも忘れません……良いですよね。本来ドレスコードがある場所でそれを無視しているというのも。シチュエーションがさらに萌えを加速させています!!!!
ああ、神様仏様、お義父様お義母様、詠史さんをこの世に生み落としてくださって本当にありがとうございました!!!
私が天に悦びと感謝を伝えていると第六感が痺れました。
「ストップです」
水菜乃のリュックサックをひっぱり強引に動きを止めます。
「むごぉっ!
何するのよ」
「手荒くなってすいません……ただ」
詠史さんから離れて改めて見るとこの廊下、星明りが差し込むばかりの薄暗く、どことなく気味が悪いですね。詠史さんの近くだけがホーリーゾーンって感じですよ。
水菜乃が歩を進めようとした場所に屈み、スマホでよく照らします。
「ほら、空のコーラのペットボトルが転がっています。踏んだら転んじゃうかもしれませんよ」
「あら本当…」
「でもなんだこんなところにあるんだ?誰かのゴミなんだろうけど……ここって滅多に人が繰る場所じゃないだろ」
詠史さんが壁にもたれかかって首をかしげます。
「分かりません……しかし気を付けるに越したことはありませ「にゃぁぁ!!!」「ちょっ、詠史!!」ん?」
クルリと詠史さんが体重をかけていた壁が回転をしました。詠史さんは近くにいた水菜乃を咄嗟に引っ張りますが、二人まとめて壁の向こう側に消えていきます。
「えぇぇぇ!!!!???詠史さん!!!詠史さん!!!!」
電光石火よりも早く詠史さん達が消えた壁を私も押してみますが、不思議なことにうんともすんとも言いません。
「ちょっとそりゃないでしょう!!どんでん返しならいつでもどんでん返してくださいよ!!
そうじゃなくてもせめて………せめて」
膝から力がなくなり、床に崩れ落ちました。詠史さん達が消えていった壁に向かい咆哮を上げます。
「私と詠史さんが一緒になるべきでしょぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」
神様仏様のバカヤローーです!!!!!