目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第21話 忍者なんです

「真絹、私達一族のことはあんまり口にしたら駄目だよ」


 数年前お母様が私にそんなことを言っていました。


「やっぱり秘密なんですか?お友達に自慢したかったんですけれど」


「いやまぁ絶対的に秘密ってわけじゃないし、信頼できる子になら全然言ってもいいレベルなんだけど……言い方が悪かったかな。ばらすならタイミングは考えてねってこと。特に少年には」


「何でですか?」


 お母様は幼きニマニマ顔を晒しながら口を動かします。


「だって、そっちの方が面白いもの。なんて言ったって私たちは」


~~~~~~~~~


 悪の組織に誘拐されてしまった詠史さんを真っすぐに見つめます。本当はまだ言うつもりはなかったのですが、仕方ありません。


「私達初川家は忍者の末裔なんです」


「なっ!?」


「すいません、本当であればくノ一姿で告白するつもりだったのですが急なことだったので私服で駆けつけてしまいました」


 詠史さんのお顔がプリントされている手製のTシャツ姿……お気に入りですが今着るべき服ではないですよね。


「ちょっと待てちょっと待て、流石に理解が追いつかんぞ」


「追いつかなくていいわよ。お家にでも帰って寝ながらまとめればいいわ」


 大柄の男性を座布団代わりにしていた夢邦ちゃんがクスリと笑いました。


「さて、良い機会だしあたしを紹介してちょうだい」


「そうですね………詠史さん、混乱中のところ誠に申し訳ありませんがもう一つ情報があります……ここにいる愛らしい少女は夢邦ちゃん、私のお兄様の娘、つまり私の姪です」


「はぁぁぁ!!!???いやでも……確かに面影がある…………」


「と、言うわけよ。初川夢邦、どうぞよろしくね」


「え?」


 初川?お兄様は婿入りしたので名字は「余計なこと言わないでね叔母さん」……だから人の心を読まないでくださいよ。私が最愛の人ってわけでもないでしょうに。

 まぁいいです。夢邦ちゃんが本当の名字をあまり好いていないことは知っていますしね。


「くノ一で……この子が姪っ子??ちょい待てちょい待て……………」


 ああ、パニックを起こされています。こういう時は


「詠史さん深呼吸です。ひっひっふー、ひっひっふー」


「それラマーズ法!!出産のときにするやつ!!!」


「カビ臭さを感じるベタなボケねぇ」


 しばらくして詠史さんは正常な思考を取り戻されました。


「取り乱した……」


「無理もありません………とにかく私たちは忍者の末裔であり、今なおこっそりそのお仕事をしているのです」


「ってことはなんだ?この夢邦ちゃんが捕まっていたのも忍者のお仕事だってのか?囮作戦ってわけか?」


「ご明察。で、叔母さんがここにこれた理由だけどこれは簡単、あたしがあんたが捕まったことと場所を教えたからよ」


 靴の底を外しピンク色のカバーがついているスマホを取り出しました。私が健全的ストーカー時代に使っていたもののおさがりで、無論GPS付きです。


 とりあえずは状況を呑み込んだのでしょう。しかしながらまだ上手に消化は出来ていないご様子です。たどたどしく口を動かしました。


「………こんなちっこい子供が…………」


「勘違いしないでね。あたしは天才だからお仕事してるの。小さい子まで働かせるブラック体質じゃないわよ……

あら?」


 詠史さんのお顔が見る見るうちに喜色に染まっていきました。


「すっげぇな!!!」


「ふふふ、少年ねぇ」


「真絹、お前が散々言おうとしてきた血筋に関わることってこれだったんだな!!」


「はいっ。詠史さんのご期待にお応えできるものでしたでしょうか?」


「ああっ!!テンション上がる!!!」


 表面で笑顔を崩さずに、心の中でホッと息をつきます。


 良かったです。心の底から良かったです。いかんせん特殊な家柄なのでどんな反応されるのかこっそり不安だったんです………ふぅぅです。詠史さんの少年魂ナイスです!!


「テンション上げるのも結構だけれども、あんたあたし達が今置かれている状況分かってるの?」


「は?」


 少し考えた後に「あっ!!」と声を出します。慌てて口を塞ぐのがなんとも可愛らしいではないですか。


「僕たち今誘拐されてるんだった!!」


「危機的状況なのよ………まったく、気の抜けた叔父さんだこと」


「誰がおじさんだ」


「あら、叔母さんと結婚するなら叔父になるでしょう」


 つかつかと歩き出した夢邦ちゃんは詠史さんの横に立ちポンっと肩を叩きました。


「安心なさい、ほどほどに慕ってあげるから。お小遣い弾んでちょうだいね」


「おま「じゃ、そういうことで」」


 瞬時に詠史さんの身体から力が無くなり、パタリとその場にへたり込んでいきました。


「詠史さん!!??」


「安心なさい、寝てるだけよ」


 夢邦ちゃんの左手に小さな針が見えました。この子は暗器使いが上手すぎやしませんかね。


「パパ譲りなのよ。それにあたしはパパの1億倍弱いからこういうものの必要性はパパの10億倍高いしね」


「だから心を……もういいです……夢邦ちゃんには敵いません」


「知ってるわ。さて、呑気な誘拐犯もそろそろ荷台の異変に気付くでしょうし、さっさと詠史を連れて帰ってちょうだい。後は上手くやるから」


「…………そうですね」


 先ほどこのトラックに侵入する前に確認したところ、知っている顔が数人追走していました。これから先のプランもしっかり詰めているのでしょう。


「悪かったわね。そいつたまたま首を突っ込んできたのを良いことに、そのまま巻き込んじゃったわ。ちょっと話してみたかったのよ」


「良いんですよ……それより夢邦ちゃんをサポートしなくていいんですか?」


「必要ないわ」


 断固たる意志を持つ瞳が私を貫きます。まだ小学生なのにこれだけの意思を宿してるんですから本当に末恐ろしいですよ……


「分かりました。それではお気をつけて」


「ええ、叔母さんもせいぜい頑張ってそいつを落としてちょうだい。媚薬とか欲しければ融通してあげるからいつでも言って」


「恩にきます」


 私は詠史さんを抱きかかえたまま先ほど明けた穴から脱出しました。道路に降り立った後はお姫様抱っこで詠史さんを家までお連れします。


「ふふっ、テンション上がりますね」


 詠史さんの感触と重さをしっかりと細胞に教え込みながら私は夢邦ちゃんのことを思います。


 お兄様の子にして、初川家の最高傑作と呼ばれている少女(もっともお兄様が婿入りしているので正確には初川家の人間ではないですが)。小さなころは私も神童と呼ばれていたことがありますが、彼女に比べればミジンコのようなものです。


  そんな彼女は今日のようにお仕事を率先して行います。理由は彼女自身が言っていたように天賦の才があるから。正直不安な面はありますが、彼女には私なんかよりよっぽど優秀な専属のサポートがついているので平気でしょう。

 そして最大の理由は彼女自身の強い要望……仕事をしたいではなくお金が欲しいという願望からくるものです。


 なぜそんなにお金が欲しいのか聞いたことがあります………彼女はバラ色の髪を軽く揺らし、少女らしい真っすぐで純真な瞳でこう答えました。


『イチゴオレが出る蛇口つきの別荘が欲しいの。あとプールも』


 ふふふ


 うちの姪っ子可愛すぎです。


次回 詠史のお姉ちゃんが登場します!!


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?