「ねぇ詠史、取り合えず真絹と子作りしてあげなさいよ」
普通と言っては何だが、取り合えずこの単語を使わせていただく普通の年頃の子は、幼馴染や従妹の子作りの応援とか羞恥に塗れる行為ではないだろうか。
それなのにどうしてこうも真絹の全力援護が出来るのだろうか、この女は。
「取り合えずでそんな無責任な真似できるわけねーだろうが」
「じゃあ真絹と産まれる子供の人生全部を背負う覚悟を持ちなさい」
「覚悟ってのはそんな気持ちで持つもんだったかな。もっと湧き上がる衝動と共に自らの意思で手に入れるもんじゃないんかな」
「そうね、あたしもその方向性の覚悟を是非とも持ってもらいたいと思っているわ……幼馴染にも従姉にも幸せになってもらいたいもの」
「あっそ……幸せな結婚の未来が見えているようで何よりだよ」
こいつは本気で僕と真絹が結婚しろって思ってんだろうな……僕のことより自分の彼氏でも探したほうがいいと思うがね。
「はぁ~~あ、早く真絹のウエディングドレス姿見てみたいもんだわ」
「あのさぁ、一応僕ってお前の幼馴染なんだしもうちっと肩入れしてくれていいんだぞ」
「詠史の白タキシード姿も見てみたいもんだわ」
「そういうんじゃなくって、って言うか『も』ってことは僕の方がおまけじゃねーか」
「言葉尻を捕らえて面倒な野郎ね。あんたは好きだけど肩入れとか絶対したくないわ。元気にのびのび勝手に育って欲しいと思うだけだもの」
「放任主義の母ちゃんか」
「誰が麗しきお母様よ」
「口が裂けても言うもんか」
「拷問してでも言わせてあげましょうか」
「そこまでしてでも言わせたいのか」
「いえ、別に」
水菜乃は髪をくくって軽く伸びをした。何事かと思っていると。
「世界征服に興味ない?」
あれ?世界征服ってそんなサークルに誘うノリで勧誘されるウェイトのものだっけ?拷問って世界征服前のウォーミングアップに必要だったりした?
「中二病?」
「いえ、さっきランニングしている時、世界征服に興味ないかって誘われちゃって」
「これまで聞いたどんな宗教勧誘よりもヤバい勧誘だな………どんな奴が言ってたんだよ」
口元が柔らくほどけ、ポニーテールがきゃぴきゃぴと跳ねた。
「小学生くらいの可愛い女の子よ。小さい身体で一生懸命勧誘してて……いいわねぇ若いって。大人だと恥ずかしいことでも一生懸命エネルギッシュにできるんだもの」
「んだよ、子供の遊びか……警戒して損した。
にしても世界征服の方に興味があるなんて珍しいな、だいたいヒーロー側になりたいもんだろうに。いや、女の子なら魔法少女とかか?どっちにしろヒーローはヒーローか」
「世界征服の方に興味を持ってるんですって。その子ったら将来の夢は健全的な魔王だなんてキラキラしたお目目でギラギラした声で言うのよ。もう、可愛くって可愛くって仕方なかったわ。だって可愛かったんだもの!!!」
初めてペットショップに行った時と同じ目をしてる……よっぽど可愛かったんだろうな。
「そいつは楽しそうで何よりだ」
「そうよね、そうよね、可愛いわよね!!ってことでなってきたの」
「なにに?」
ポケットから手作りカードを取り出してきた。それを僕の手のひらにポンと置く。
「魔王軍幹部に」
幹部№3と可愛らしいピンク色のマーカーで書かれていた。水菜乃の写真が貼られている。
「本気のお遊びってわけな」
「それでさ詠史、あんたも幹部にならない?一緒に世界征服しましょ♡」
「しねーよ」
どっちかと言えばヒーローになりたい。少年漫画育ちの男の子だもの。
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人間は成長していくものです。赤子の頃から言葉を知り、動き方を知り、感情の名前を知り、そして愛を知る……そうやって成長していくものです。成長とはとてつもなくポジティブな言葉ではありますがどんな時であってもいい面ばかりではないことを私は知っています。
「真絹ちゃーん!!!抱っこして抱っこ!!!」
「はい!!」
この天真爛漫にして天使を超える可愛らしさと無垢な心は成長した私達には出せない癒しなのです!!!!!
「よしよしよしよしです」
「きゃふんっ……真絹ちゃん撫でるのとっても上手~~~~もっともっと撫でて~~~~」
「お心のままにです、琴流ちゃん」
琴流ちゃんは私の姪っ子の一人です。夢は健全的魔王でしたね、お兄様の血をドクドク継いでいると分かりますよ。
「真絹ちゃん、真絹ちゃん、今日公園で勧誘してたら真絹ちゃんくらいのお姉ちゃんが幹部になってくれたんだ!!」
「へぇ、それは良かったですね。うふふ、さぞかし心の清い方なんでしょう」
「うんっ!!優しそうな人だった。この調子で仲間を増やして、健全的な魔王に私はなるよ!!」
可愛いです。とってもとっても可愛いです。
姪っ子でもここまで可愛いのですから詠史さんとの子供であればもっともっと可愛いのかも「ないわ」………むぅ。
お兄様には双子の姉妹がいます。一人はキラキラした瞳とピュアピュアな優しさを持っている琴流ちゃん。そしてもう一人
「お姉ちゃんより可愛い子供なんて金輪際産まれてこないわよ。当然これまでの歴史の中にもいないわ。不世出なんだから」
琴流ちゃんの双子の妹にして、実姉を愛しまくる薔薇のような危うさと美しさ、そして私が見てきた中で断トツの才気を持つ少女、夢邦ちゃんです。
「夢邦ちゃん、心の中を読まないでくださいよ」
詠史さん限定とはいえそれは私の専売特許ですよ。
「無警戒な方が悪いのよ」
まぁ夢邦ちゃんも等しく可愛いのは間違いないんですけれどね。いえ、やはり美人系ですかね。綺麗なバラ色の髪が艶やかに映えています。でもやっぱり
「可愛いですね」
天使極まっています。大好物のイチゴオレを飲んでいるシーンとか、もう堪らなく可愛いです。
「あっそ。それで叔母さんちょっと聞いてもいいかしら?」
「なんですか?」
私のおっぱいに顔をうずめる琴流ちゃんの頭を撫でながら夢邦ちゃんに笑みを送ります。
「その髪飾り初めて見るけどもしかして例の彼からもらったものかしら?」
「はいっ!!!!!!!!!!」
ちょっと大きな声を出しすぎたようで夢邦ちゃんが顔をゆがめながら目を細めました。
「そう……それでその彼とは上手く行ってるの?」
「そりゃもう、イケイケですよ。詠史さんは私のことを真っすぐ見つめてくださいますし、私が何をしても優しく受け止めてくださるんですよ。デートはもちろんこの前は同衾もしましたし、結婚まで秒読みと言っても過言ではありません!!!!」
「ふーん」
興味があるのかないのか、夢邦ちゃんの表情は読めません。ポーカーフェイスが極まりすぎています。
「ねぇねぇ真絹ちゃん、ドーキンって何?」
「琴流ちゃん、それは「一緒に寝ることよ、それ以上でもそれ以外でもないわ」……はい」
ははは、性教育にも熱心ですよね。私が若い頃はお兄様に英才教育を施されていたものですが、夢邦ちゃんはあまりそういうことに触れさせたくない様子です。
「そうなんだ、私も夢邦といっぱいドーキンしてるよ!!」
「楽しそうですね」
「うんっ!!!」
「ねぇ叔母さん、その彼とのラブコメってのはそんなに楽しいのかしら?」
「そりゃ楽しいですよ。私の人生は詠史さんと愛を深めるためにあるんだと確信できるほどにとっても楽しいです!!」
「すっごーーーい!!!」
「ふーーーーん………………」
太陽の様な笑顔が眩しい琴流ちゃんと対照的に厚い雲で覆われたような夢邦ちゃんの顔が何となく印象に残りました。
夢邦は誰にも聞かれないほど小さな声で呟いた。
「恋なんて理解できないわ……あたしがガキだからかしら」
次回 新キャラの夢邦が暴れちゃいます