「デート♡デート♡詠史さんとのデート♡デート♡デート♡デート♡」
どこまでも楽しそうに胸と身体を文字通りプルンプルンと弾ませながら真絹は僕の腕に手を回した。
「まさか詠史さんからデートのお誘いを受けるとは思っていましたよ」
「思ってたんかい」
「そりゃまぁ夢の時間も併せて365日24時間詠史さんのことばかり考えていますから、詠史さんからそろそろお誘いをしていただけるとは妄想していましたよ」
今日は僕のお気に入りの一冊である『死愛』の劇場版を見に映画館が入っているショッピングセンターにやってきたのである。別に一人で見ても良かったのだが二人で見たほうがより楽しいだろうし、一緒に感想を言い合う楽しみもできる。だから真絹を誘ったのだ。水菜乃にも声をかけたのだが
『二人で行きなさい』
と一蹴された。
「詠史さん、ちょっとよろしいですか?」
「ん?」
先ほどから露骨に自分の身体に押し付けていた僕の腕を離したかと思ったら腕どころか身体そのものをぎゅっと抱きしめてきた。そして左手でスマホを取り出し、満面の笑みと共にシャッターを押した。
カシャッ
「うふふ、デートの記念はしっかりとっておくものですよね。ああ、ちょっと抜けている詠史さんのお顔もなんと愛くるしいんでしょうか」
「不意打ちしなくても写真くらいいいのに」
「自然体の詠史さんのお顔が欲しかったんですよ。写真に向かっての笑みもいいんですがやっぱり自然体って言うのも尊いものです」
「んなもん盗撮写真がいくらでもあるだろ、あれこそまさしく自然体な僕だ」
「盗撮写真じゃ私が入っていないじゃないですか。合成写真じゃどうしても味気なかったので二人の写真が欲しかったんです。
あ、そうそう」
ニコリと微笑みしっかりと防御していた胸元をチラ見せした。
「こんな場所ではありますが詠史さんも自分用のお写真、お撮りしますか?」
人がいるってのにはしたない子だ。
「いらねーよそんなの」
「ですよね。詠史さん夜の一人遊びはしないタイプですもんね」
「おいおい、一応公共の場なんだぞ」
「ああ、申し訳ありません。ただ詠史さん以外には聞こえないように気を付けているのでご安心ください」
「ん?」
そういえば確かにこんな美少女が恥ずかしいこと言っているのに誰からの視線も感じない。マジで気づかれてないみたいだな。
「しかし残念です。そういうことをしていただければ私もそれ相応の準備が出来るというのに」
ったくもう、この押しかけ居候ときたら。
ふと、視線の端にとても気になるものが映った。
「なぁまだ映画まで時間あるよな」
「はい、あと30分くらいありますね」
「よし。ちょっと待ってろ」
真絹は首をかしげたが、それでも三歩後ろに控える淑女のように優しく微笑んだ。
「いってらっしゃいませ」
本当に良い子だ。僕に惚れてるのと、当然のように犯罪行為をすることと、性のアプローチがアグレッシブすぎるところを除けば非の打ち所がないな。
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詠史さんったらどこに行かれたんでしょう?少々アプローチが露骨すぎて恥ずかしくなったのでしょうか?だとすれば反省をしまくる必要がありますが詠史さんに限ってそんなことありませんよね。
「ふむぅ……あっ、もしかして……デート……女が一人になる……つまり」
周りを見渡して私をナンパしてくれそうな人を探します。出来るだけガラの悪そうな方が良いですよね。帰る時に「覚えてろよ!!」とか言いそうな風体の方。ナンパ男に困惑する私を華麗に救出する詠史さん。食パンを咥えて転校生と曲がり角でぶつかるのと同じくらい古き良きテンプレです。しかしそんなことをされれば詠史さんにさらに惚れこんでしまうのは必然!!
「もう、詠史さんったらそんなことを考えるだなんてロマンチストですね♡」
でもこれ以上私を惚れさせて一体何をさせるおつもりなんでしょう。もしや詠史さんの心の中には相当ディープな性癖が隠されている??今の私の惚れこみ具合ではとても出来ないようなえげつないものが……それほどえげつないから夜の営みも全くしない…いえ、出来なかったと言うことなんですか?
私のことを慮って惚れこんでいるにもかかわらずやりたいことを我慢されていると言うことですか?ああ、そんなせき止められていた我慢が爆発し、いざその夜が来たとしたら……
キュンキュンキュン
「駄目ですよぉ、私詠史さんを見るだけでおかしくなっちゃいそうです」
ほふぅ……キュンキュンします。考えるだけでキュンキュンしまくりです。ん?おお、あんなところにちょうどいい具合のいきった格好の男性がいます。
「すいません、ちょっといいですか?」
「あん?」
「私をナンパする予定とかありますか?」
「………?????え??????」
どうやら予定はなかったようですね。参りました、華麗に救出するためにはやからが必要なのです。
「あの、絶対になびいたりしないので私にナンパしませんか?」
「何を言ってるんだお前………どういう心境なんだ?」
「キュンキュンした心境です!!!」
困惑をされているご様子です。仕方ありませんね、他の方を探すとしましょうか。
「ああ、それはすいません。それでは私は「何やってんだお前」」
ビュキュゥン
ビクゥッとキュンキュンが同時に覆いかぶさってくるようなお声です。
「詠史さん、お待ちしておりました!!」
「ああ待たせたのは悪かったけどお前何やってんだ?」
「それは「何やってんのかはみれば分かる、どっかの誰かにナンパされて僕に助けられたいと思っていたんだろう。なんでそんなことしようとしたんだよって言ってんだ」お見通しですか」
詠史さんは私が脳内を読み取ることに驚いておられましたが、詠史さんも大概私への理解が深いですよね。そんなところも大好きで嬉しいです。
「お兄さん、うちのツレがすいませんでした。こいつ基本的におかしいのであんまり気にしないでください」
「ああそう……いや、別にいいけど」
その後少しばかりの言葉を交わした後、それっぽい格好をした男性はに生暖かい笑顔で去っていきました。
「真絹、お前の相手なら僕がいくらでもしてやるから知りもしない人に迷惑をかけるな」
「申し訳ございません、少々テンションが上がっちゃってはしたないことをしてしまいました」
「はぁ……デート未満お出かけ以上程度でそんなにテンション上げるなよ。
いいか、テンション上げるなよ。絶対に上げるなよ」
「分かりました」
「よし、言ったな」
レジ袋から白いヘアピンを取り出しました。翼をあしらった可愛らしいものです。
「ほい、これプレゼント」
「!!!!!!!!!!!???????????????」
プレゼント………???
「さっきチラッと目に入ってさ。お前に似合うって思ったんだよ。当番制とは言え飯作ってもらってるし、他にも色々世話になっているし、細やかながらお返しって「詠史さん!!」」
本能のままに抱き着いていました。いつもなら詠史さんの感触を存分に堪能するところではありますが嬉しさのせいでそんな息をするように当然なことをする余裕もありません。
「ありがとうございます!!勝手に押しかけ盗撮盗聴ストーキングしまくっていた私にこんなものを恵んでいただけるだなんて」
「だーかーら、騒ぐなってば……ほら流石に周りの視線が痛い」
「一緒に痛みを分かち合いましょう!!!」
「家で渡すべきだったか……」
そのまま一時間くらい詠史さんに抱き着き続けていると、お店の人に怒られちゃいました。
それでも今日はとっても良い日です。
「しまった………映画見忘れた」
また今度映画を一緒に見に行く約束も取り付けましたしね♡
次回 新たなる健全者が登場します!