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第15話 私にだって恥はあるんです

「………それでお母様……………何しに来たんですか?…………」


 憔悴とはこういう状態をいうのだと身体で表しているようであった。左目は完全に虚ろであるが右目だけがまだ、辛うじて生気の光を放っている。


「授業参観は今日じゃなかった?」


「授業参観に制服姿で来る親がどこにいますか???」


「じゃあ三者面談」


「同じことです」


「あちゃぁ、嘘がめくれちゃった。

 あっ、そうそう詠史さん。私(わたくし)は初川綿子、気軽にお母様って呼んで」


「呼びません」


「ちぇっ」


 しかし未だに信じられん、少女にしか見えない人が真絹の母さん?中学生って言われてもギリ信じるぞ。でも真絹……いや、孫までいるってことはどう低く見積もっても40後半くらいだよな…でも普通に考えりゃ50は超えているはず……ないないない。全く見えない。


「まぁちょっと近くまで来る用事があったの。丁度制服も調達していたし家出した可愛い娘とその婚約者の学校での顔を見ようかなって」


「むきぃぃぃぃぃのむごぉぉぉぉぉぉぉです!!!!!!思っても来ないでくださいよ!!!!」


「好奇心が疼いちゃって。それに私の若さも証明出来て万々歳。詠史さんも私のこと完全に年下って判断してたし。

 つ♤ま♧り♢」


 真絹の両の肩をポンポンと叩く。


「娘より若い母親降臨なの♡」


「ぼぉぉぉおぉぼうえbろpbwぽぶおpwtのlんlんそほwごんpsんbwp;おp!!!!!!」


 しかしまぁあの真絹のマイペースをここまでぶち崩すとは、親は偉大だな。


「とにかく帰ってください、いえ、私がお見送りします!!!


「ああんっ………連行されるぅ…………大切に育てた娘の腕力が私を上回っているのは嬉しい。

 詠史さん、助ける?」


 なぜ疑問形?


「いえ、そのまま連行されてください」


「ちぇっ……また今度お願いします」


「お騒がせしました!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ドアの向こう側には生徒や先生がいるからなのか窓から出ていった。しかしまぁ子が子なら親も親だ。とんでもない価値観の持ち主だったな。


 ~~~~~~~~~


「はぁぁぁぁ~~~~~~あ」


「どうしたの真絹?疲れてる?」


「逆に疲れない方がおかしいと思います。本当にもう二度と生徒としてはこないでくださいよ」


「しょうがないなぁ……」


 お母様のマイペースは私を大きく上回っているので厄介ですよね………


「詠史さんお母様を見て驚かれていたじゃないですか………自分の見た目を考えてください」


「どっちの意味?」


「制服もですが、そもそもの見た目です。お母様はお若すぎるんですよ」


「そうだよね。孫ちゃんまでいるのに大人の色気って奴がこれじゃあ醸し出せてないよね。

 でも好きでこの見た目になってるわけじゃないし」


「だからタイミングを見計らいたかったんですよ……」


お母様は御年52歳です。

お母様が高校生の時代に謎の組織の取引現場を目撃したのですが、取引をみるのに夢中になっている間に組織の人間に殴打され、謎の薬を撃ち込まれた結果見た目は年を取らなくなってしまったんだとか。

そんなビックリドッキリ秘密薬があったら世界はとっくに変わっているのでまず嘘だと思っているのですが、この若さは紛れもないものなので案外……と、少しばかり考えています。


「でも詠史さん良い子っぽかったね。真絹、あんたどんなアプローチをしているの?」


「そこまで大したものじゃないですよ」


「お風呂突撃はした?」


「……いつかはしようと思っているのですが…………今はその時ではないかと」


お母様の瞳が細くなります。昔から私たちの嘘を見抜いた時に出す瞳です。


「嘘ね」


「嘘じゃありませんよ………最適なタイミングを見ているだけなのです」


「あんたのことだからおっぱい揉ませようとしたり、お尻揉ませようとしたり、キスをしようとしたり、同衾しようとしたり、ハグしようとしたり、子作りしようとしたり、そんなことは当然のようにしたでしょうけれど」


 なんでしょうか、実の母からこんなことを言われるのは不思議なダメージを受けます……図太いと思っていたのに不思議ですね。


「詠史さんの肌を見るようなことはしてないんでしょ」


「………………腕やおみ足は見せていただいています」


「胸は?」


「私のを見せようとしているので十分かと」


「……あんたって意外とキチンなところあるよね」


「うぐっ」


 そう、私は色々とアプローチはしてきましたが、実はお風呂場だったり脱衣所だったりで何かをしたことはありません………何故なら詠史さんの肌が露わになっている可能性があるからです。

 別に生肌を見たら私の中の情欲が止まらなくなるとかそういうことを危険視しているのではありません。おちんちんなら全然OKなのです。そっちの方はとっても見たいのです。見るよりもっと凄いこともしたいです。ふしだらですが、偽らざる気持ちです。


 ただ、お腹を見るのが……………ちょっと。


「昔、詠史君があんたを助けるために怪我を負ったそうじゃない……跡が残るくらいの酷い怪我………あんまりダメそうなら良いお医者さんを紹介しようと思ってたんだけど」


「詠史さんのご意思を聞いて、私からお母様にお伝えします」


 またしても瞳が細くなりました……怖い圧です。


「あんた、見るのが怖いのね。自分のせいで詠史君が負った傷を見るのが……勝手なイメージだけれども詠史君だったら怪我をしたこと気にしてなさそうだけどね」


「とてつもなくセンシティブな話題なのでお口チャックでお願いします」


「……ふーん」


 私が詠史さんを好きだと気づいたきっかけは私が詠史さんに助けていただいた一件です。そしてその詳細な情報は誰にも言ったことがありません。だからお母様も、他の方々もどうして詠史さんがケガを負ったのか、何があったのかをよく知りません。知ってほしいとも思いません。


 あの出来事は詠史さんを好きだと気づけた以外は忌まわしき記憶であり、詠史さんに残っているであろう傷は忌まわしき記録なのです。だから見たくない…好き好んで嫌な思い出を思い出そうとする人はいないでしょう…そう、それだけなのです。


「ま、何かあったら何でも言って。私は貴女のお母さんだから」


「はい、頼りにしていますよ……あっ、そうだ。せっかくなのでお母様とお父様の馴れ初めとか教えていただけますか?参考にしますので」


「いいけど参考になるかな?」


 お母様はそう言った後に回顧していたのでしょう。ニマニマと恋する乙女の笑顔を見せました。


「私から好きになったんだけど、まずは監禁から始めたの」


 わぁーお。


「イカレてますね。と言うかそれは犯罪でしょう」


「大丈夫、ちゃんと日給3万で監禁されませんかって交渉した結果だから。同意の上。それに監禁と言ってもホテルのスイートルームを用意したし、ご飯も娯楽物もちゃんと用意したから。ただ、私の監視下にずっと置いて、身動きを取れなくしただけ。

 つまり私は健全的監禁犯ってこと」


 あはは……


「お父様も十分にイカレてましたか。考えてみればそうでした」


 ま、娘がこんなんですからなんら不思議ではないでしょう……愛に生きる健全的な乙女に育ったのは不幸中の幸いってやつですね。



次回 母親と出会った真絹が新しいアプローチを試します!


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