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第14話 初川の血筋

『反省文ですか?いえ、それはもちろん構わないんですけど1万字っていうのはちょっと多すぎるんじゃないかと、確かに色々やってきましたけど、放送室ジャックするのもこれで4回目ですけど………ああ、勝手な放送だけじゃなくピッキングも駄目なんですね。密かな特技なんですよ。普通の家やマンションにあるレベルの鍵なら数秒あればいけるので、正直放送室のくらいあってないようなレベルだなぁっていうか……申し訳ございません。なんでできるのかって言ったら家庭の事情と言うか、愛ゆえにと言うか………詠史さんのお家のカギを勝手に開けたりとかしたことですか?ありません』


 未だ長々と反省の弁と言い訳の弁を述べている真絹の声を聴きながら僕は将棋部部室に向かう。ラブレターを受け取るのが目的だ。ちなみにまだ居候になる前の真絹は勝手にうちに上がり込み、僕のベッドで眠っていたことがある。よって今のは嘘だ。


『なんで放送室ジャックをするかですか?それはもう全校生徒の皆々様に、ああもちろん先生方も含めてですよ。とにかく多くの人に私の想いを知ってもらうことで外堀を埋めていこうかと、あと単純に祝福されたいんです。

詠史さんには私がいる、私には詠史さんがいる、そのことを皆さんに知っていただき晴れて結ばれたときに祝福の嵐を受けたいんです。二人だけの静かな愛を育んでいくって言うのも素敵ですが、やっぱり内から湧き上がる幸福だけでなく外側からいただく祝福も欲しいじゃないですか』


 と言うかそろそろ放送止めろよ、誰も気づいていないのか?この放送で一番ダメージ受けてんの僕なんだけど、可哀そうとは思わないのか?


 部室の扉を開けると、知らない女子が正座をしていた。いかにも礼儀正しそうだがソファの上でしているので何かしら滑稽なものを覚える。


「誰だ?」


「愛されてる……とっても」


「あ?」


「スピーカーなんて言う人工物を通してもヒシヒシと伝わってくる貴方へのひたむきで健全的な愛が羨ましい、とてもとても……羨ましい」


「見ない顔だけどあんた誰だ?」


「うふふのふのふふふ」


 僕の問いかけには答えずに小さく微笑む。そしてソファの弾力性を使い飛び跳ねた。正座からするりと足をのばし、綺麗に着地した。ポニーテールがきゃぴっとはねたように見える。


「見て分からない?」


「いや……見て分からん……」


 身長は僕よりも小さい145センチちょっと程度、肩幅から胴体に至るまで徹底的に小さく華奢で小学生と言われても納得してしまいそうな体躯だ。白い髪の毛と大人しい雰囲気がそれらと合わさり非常にか弱く見える。


「まぁ少しは仕方ないか……答えを言うのは簡単だけれどもそれじゃあつまらない」


 しかし、この圧………この圧は確かに覚えがある。


「取り合えず、脱いで」


「は?」


「脱いで」


「………何を?」


「服脱いで」


 ……え?なにこの気持ち………脱がないのが普通だよね………でもこの気持ち………何故か僕が悪いことをしているような………


「脱☆い♪で♡」


 楽し気なのにそれでもやっぱりテンションが低いとしか思えない声色がなんとも不気味だ。幼い外見に似合わない逆らい難い圧も合わさってさらに不気味である。


「嫌でも……初対面の女の子に半裸を見せるのはちょっと……ちょっとケガもしてるし………」


『はっ!!!!!?????こ……この地獄のおぞましい寒さを天国の陽気で温めた後人間界の空気に混ざり合わせたようなオーラは……!!!????申し訳ありません先生方、私は今すぐいかなければいけません!!!!』


 ドタタタと真絹の足音が聞こえる。


『え?おい、初川………え?ええ??』


 真面目にお説教を喰らっていた真絹が不意に逃走したことで先生たちが慌てふためいているようだ………確かにこんなことは初めてである。やらかしたからにはしっかり説教を受けるのが初川真絹という女だ。


「あらあらあら……さすがねぇ」


 しかし、彼女はこの状況にも動じずどっしりと構えている。貫禄さえ感じられるこの態度に違和感を覚える。


「あんた、マジで何者なんだ?」


「それをすぐに言ったら面白くないでしょう………先輩」


「……1年なのか?」


「この上履きが目に入りませんか?」


 上履きに赤色のラインが入っていた。うちの学校では学年ごとに入っているラインの色が変わっており、一年は赤、二年は緑、三年は青になっている。


「さぁ、後輩と分かったら何にも怖いことはないでしょう。早く脱いでその身体を「色んな意味で何をしているんですか!!!!!!!?????????」韋駄天ねぇ」


 ぜぇぜぇとフルマラソンでもしてきたかのような疲労感を隠すこともなく押し出している真絹が現れた。


「まさかとは思いましたが………本当にまさかだったとは」


「ごめんなさいね。でも真絹の彼ピがどんな人か気になって」


 彼ピて、その大人しい雰囲気で彼ピで。いや、そもそも彼ピじゃねぇけど。


「挨拶ならば然るべき時にしっかりと然るべき形でする予定でしたよ。

 もうっ!色んな意味で恥を覚えてください」


「おい真絹、この人が誰か知らんけどちょっと言いすぎじゃないか?」


「お言葉ですが詠史さん、決して全くもって言い過ぎではないのです。と言うかこれでも相当抑えているほうなんです。発狂しそうなほど私は今戸惑っています」


「なに!!??お前がそこまで???」


 いったい誰なんだこの後輩ちゃんは………まさか、いもう「だってお母様なんですもん!!!!」………お母様?


「ほえ??お母様???」


「お母様です」


「お母さんです」


 恐怖と驚愕、そして不信が混ざり合っている。真絹よ20センチ近くは低い身長に、身体のありとあらゆる部分も到底真絹の素体の半分になったとは思えない。と言うかそもそも子供がいるとは到底信じられない。若いってもんじゃねーぞ、もはや幼いんだぞ。


「嘘だろ」


 人体実験の被験者かなんかか?もしくは異世界に転生して若さを手に入れたとか???


「無理もありません……私もどうやってこのお母様から産まれたのか信じられないんですから……こんな制服を着こなせるお母様………が」


 真絹の白い頬、白い耳が赤く染まっていく。自慢の白髪にまで赤が染まっていきそうな勢いだ。


「ああぁぁぁぁぁぁ!!!!!もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!歳を考えてください歳を!!!!!!もう孫までいるんですよ!!!!!小学生の孫までいるんですよ!!!!!」


 これはもはや悲鳴ではなく慟哭だった。羞恥の念がこれでもかと言うほど哀しみに混ざっている。


「もぉぉぉ!!!!ノリノリで制服着て、髪の毛ポニテにして、3分の1くらいしか生きていない人生の後輩を相手に先輩なんて言ったり………うきゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!穴があったらお母様をぶち込みたいですぅぅぅ!!!!!!!!!!!」


 ここまで悶絶しながらマイナスの感情を発露しまくる真絹を見るのは初めてだった。だが無理もない、そう、無理もないのである。


「恥ずかし恥ずかし恥ずかしぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!!」


 逆の立場だったらと考えると……背筋が凍てつきそうだ。


「んgとあbごえhびえぼpbなぺb;あえびpwgほgbぬいb!!!!!!!!!!!!!!」


「あらあらあらあら………まだまだ心の安定性がなってない」


 しばらくは優しくしてやろう……うん。



次回 お母様とのやり取りです、詠史と真絹の過去もちょいみせ!!


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