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第13話 クラスメイトには恵まれている方かもね

 最近よくある恋愛漫画のパターンとして、自分の前でだけは素を出してくる完璧超人美少女って言うのがあるらしい。なるほど、周りには見せない素の人間と言う秘密を共有しているという優越感、それでいて唯一無二の特別感と言うのは体内に素晴らしいエネルギーをもたらしてくれるだろう。それが恋仲にまで発展すればなおさらである。


 さて、うちの美少女はと言えば。


『あ~~~あ~~~~マイクテス、マイクテストです。

 2年3組の和倉詠史さん、先ほどラブレターが書けたので至急部室に来てください。出来立てホヤホヤの物は味わいもまた違うことでしょう』


 隠すどころか全力でさらけ出していくスタンスである。清々しいを遥かに超えている。


「またラブコールされてんな」


 またか、なんて空気が充満する中クラスメイトの一人が話しかけてきた。


「みたいだな」


 違うクラスメイトも声をかける。こういう時はクラス一丸となって僕に各々の感想を言うのが恒例となっているのだ。


「いい加減折れたら?初川さんっていい子よ」


「そいつは知ってる。このクラス……いや、この学校の誰よりも」


『なお、昼休み中に回収していただけなかった場合は、泣きます。ナデナデしてくれるまで泣きます』


「泣くってさ。女を泣かせる男にはなっちゃいけねーってジーちゃんが言ってた」


「お前のジーちゃんも男にナデナデされるためだけに泣く女は想定していないと思う」


「いいなぁ、初川さんのサラサラヘアーを撫でてみたい」


「僕以外の男子に触られるのを非常に嫌うからやめとけ、最悪噛まれるぞ」


「それはそれでまた良きだぜ」


『ちなみにこの放送は私の独断で勝手に行っています。後で諸先生方に怒られることは確定しているので慰めてください。慰めていただけなかった場合は、それはそれで泣きます。詠史さん抱き枕を全力で抱きしめながら泣きじゃくります』


「真面目な子なのに和倉君が絡むといっつもアグレッシブよね」


「そうそう、和倉君さえいなければ完全無欠な美少女なのにもったいないわ。責任とって結婚してあげなさいよ」


「僕のせいなのかな?これは僕が悪いのかな?」


『ああ、放送室のドアが強くノックされています。出て来いと仰っているようです………私の運命もどうやらあとわずか………ただ、私が捕まっても詠史さんへの愛は変わりません。私の命の火が無くなろうとも、愛の炎は太陽よりも激しく熱く燃え盛り続けるのです!!!!!』


「なんてロマンチックなんだ………」


「どこら辺が?勝手に阿呆行動して、勝手に怒られそうになってるだけだよね。間違っても敵からの強襲を受ける直前に秘めていた想いを伝えるような悲しく切なくも心打たれるシーンとかじゃないよね」


「四捨五入すれば同じだろ」


「一捨九入しても同じにならないと思う」


 ったく、困ったもんだ……取り合えず部室でラブレター拾った後先生方に謝りに行くか。


「おっ、これ見てくださーい」


 留学生のベアルールさんが動画編集にも使っているノートパソコンを僕に突き付けてきた。見ればこの犬前高校の学校裏サイトが出ている。


「先ほどの放送がもう話題になってまーす」


「え?マジで?ベアちゃん見せてーや」


「ほんとだ、スレが5個もたってら」


「ちょっと失敬、あたしの恋人にしたいランキング10位に落ちてる……っち、見る目のない男子どもめ」


「俺にも見せて見せて、ほほぅ、相変わらず好き勝手なこと書いてあるなぁ」


 いつの間にかどいつもこいつも自分のスマホから裏サイトにアクセスを始めている。裏サイトなのにオープンすぎやしないか。


「おぉ、どこぞのグラドルの顔がワタクシになってます。こんな大きなおっぱい全然私に似合っていませんねぇ」


「こっちには和倉くんが全裸にされた上に切り刻まれているコラ画像があるぜ。初川さんを奪いやがって、殺すって書いてある。怖いなぁ、クスクスクス」


「ちょっと修光、笑っちゃダメでしょ」


「保美、嫌だってすっげぇ安っぽいコラだもん……ぷくくくく、ツボに入ったっぽい」


「おおぉ、殺したい男ランキング断トツだったエイシさんの票数がさっきの放送でさらに増えてまーす。そろそろ大台の1万に乗りそうでーす」


 暇人多すぎるだろ。って言うか絶対一人で何度も投票してる奴いるだろ。


「あっマジじゃん。俺も一票入れとこ」


「あたしも、まるるんも入れて入れて、今結構な勢いで伸びてるし記念すべき1万票目になれるかもよ」


「合点だよぉ」


 凄く和気あいあいとした盛り上がりだな。


「なにこれ虐め?クラス総出でやるタイプの虐め?」


「んなわけなかろう和倉殿。拙者たちの心はいつでも一つ、いじめなんてあり得ませぬ」


「そっすよ、それに和倉っちを虐めるなんて大それたことしたら初川っちに俺たち全員最低限水責めされた後に殺されちゃいますもん」


「物騒じゃねーか」


「拙者は初川殿から尋問術を教わり申した。しかしあれは拷問術も心得ていると思いますぞ」


「いつの間にそんなもん教わったんだお前」


「よっしゃぁ!あーしが1万票目ゲット!!!やったよ、和倉!!!あーし、ついにやったよ!!あんたを殺したい票の中で記念すべき1万票目を手に入れたよ!!!」


「うるせぇ!!!って言うかお前ら僕をなんだと思ってんだ!!??ぞんざいってレベルじゃねーぞ!!!」


「なんだと思ってるって言われても………ねぇ」


「そうだな……うん」


 クラスメイトはクラスの中心の方を見つめた。それで何かの意思を疎通したのか一糸乱れぬ動きで僕の方を向いたではないか。正直怖い。


「馬鹿「変人「アホ「間抜け「きゃわいい「ダメ人間「酷い男「師匠「猫「飼い猫「結婚したくない男「殺したい「殴りたい「撫でたい「一本背負いしたい「馬鹿「悪い男「芯の通ったバカ「マスコット「駄目やろう「漫才師「ツッコみ要員「ツッコまれ要員「バーカ」「プニプニしたい「犬「デスゲームの三回戦くらいで死にそう「僧」


 滅茶苦茶一糸乱れていた。って言うかところどころ変なの入ってたな。いや、全部変っちゃ変なんだけど。


「一緒に言うなら同じセリフにしろ!!!こんなもん聖徳太子でも聞き取れるか!!!!」


「あたしは信じてる、和倉君なら聖徳太子を超えられるって」


「俺も「私も「僕も「あたしも「わいも「アタシも「うちも「ワタクシも「拙者も「あたいも「僕様も「あーしも「ワタシも……せーの」


「「「「「「「「「「「信じてる!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」



「てめぇら……てめぇらぁぁぁぁ」


 色々言いたいことはあった………しかし、それをグッとこらえて万感の意を一言に込める。


「仲が良いクラスで僕は嬉しいよ」


 一瞬クラスの空気がシーンと静まる。だがそれは本当に一瞬だった。


「照れまーす」


「僕様嬉しい」


 ったくこいつらは……本当に。


「半分くらいしか褒めてねーよ」


「それほどでもぉ」


 変人同士は引かれ合うのだろうか、僕と真絹のクラスメイトはだいたいこんな感じである。


『あっ、すいません………ただ若い頃の馬鹿は買ってでもせよと言うのが初川家の家訓でして………あと衝動に身を任せるのってとっても気持ちよくて………はい、仰る通りです。校内の備品を勝手に使っていい理由ではないです………心から反省しています………でも生徒の自主性と言うか、こんなこと出来る胆力を評価していただきたいというか………はい、勝手な言い分です。そんなの許していたら世の中回りませんよね……悔い改めます……』


 スピーカーの向こう側では思っていたより手酷いお説教を喰らっているようだ。 


「おっ、新たに拷問したいランキングが作られたぞ。良かったな和倉、今んとこお前以外全員まとめて2位だ」


「嬉しくねぇ」



 次回 新たなる真絹の関係者のヤバい人が登場します!!

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