目次
ブックマーク
応援する
8
コメント
シェア
通報

第6話 今回僕は真絹の胸しか見えていません

「まだ私たちがお猿さんだった時代、つまりは男と女ではなくオスとメスだった裸体丸出し、本能丸出しの時代はオスもメスも胸はあまり大きくなかったらしいです。もちろん個人差はあったでしょうが現代のお猿さんと同じような感じだったのでしょう」


 目の前でユラユラと揺れている二房の………っと、違う違う。初川真絹という女がそんなことを言ってくる。しかし、本当に白いな。やわモチというのが見るだけで手のひらに伝わってきそうな胸だ。この無理やり形を保っていそうなブラをとった完全体はどんな姿なのか……気になり思わず腕を……


「おらぁ!」


 バチンッ!


 自身の頬に拳を放つ。危ない危ない、薄いはずの性欲が大きくなってしまいそうだった。こいつ相手に厚い性欲はダメ、絶対。


「詠史さんどうされました?」


「なんでもない、決して誓って何でもない」


「そうですか。まぁとにかく今こうして私の大きなおっぱいが産まれているのは人間が人間になったからなのです!!二足歩行って色々なものを変えたんですね」


 僕としたことが真絹のセリフの一部を聞き逃した……冷静になれ僕。


「そんなおっぱいを詠史さんにこうして見せつけることができることの嬉しさと、先ほどから深々そんなおっぱいに突き刺さっている視線に悦びを感じざるを得ません。悦びで子宮が震えそうです」


 僕の名前は和倉詠史、他に視線を移せないほど超至近距離で大きな胸を見せつけられている男の子である。隅っこに追い詰められているので逃げることができない。


「私もロマンを求めすぎましたね。言葉で言うのも乙なものですが、効果的なのはやはり生の物をお見せしまくることです!!口コミよりも実演販売の方が買っていただきたきやすくなりますもんね♡通販が普及している現代でも服や家具のような見た目も触り心地も気になるようなものは実際に店舗に足を運びたくなるものですもんね!!!」


 めっちゃフリフリしてる…白い下着がゆったりと誘うように動いてる、おっきい胸が抱きしめられたそうに微笑んでいる………もうちょっとで乳首が見えそう………こんな近くで乳見たのなんて赤ん坊のころ以来だろう。


「吸ってもいいんですよ」


 こんな時でも当然のように心を読むな。いや、これは読心術じゃないかも……ああもう、混乱してるぞ僕。男の本能揺らされてる程度で情けねぇ!!!


「ふふふ、詠史さんは今自分の状況が分かっておられないようですが今すっごい顔になってますよ。愛しさと切なさと寂しさと誇りがブレンドされた顔になってます」


 そっかぁ……でもおかしいよな。僕の前にはさっきから官能的なリズムで揺れている乳があるだけだもん。真絹の目からは僕の顔見れる角度じゃないもん。乳で僕の顔を見ているとでもいうのか!!??


「ははは、そんな青年誌のモンスターのような見た目じゃありませんよ」


 流石の青年誌でもそんな異形の中の異形みたいな見た目の怪物をだすだろうか。


「ただ目を閉じると詠史さんの凛々しいお顔がいつでも浮かび上がるだけなんですよ。何億回でも言いますが、詠史さんのことを愛しているがゆえの離れ業です。


 それで、そろそろ触りませんか?揉みませんか?吸いませんか?摘まみませんか?舐めませんか?頬ずりしませんか?つつきませんか?」


「しねーよ………」


「いいんですよ。お猿さんだったころの本能を丸出しにしても。バンバン出してください」


 確かにこれまでにないほど直接的なアプローチにふしだらなものが顔を出しそうになっている。しかしこの僕がこの程度で本能を出すわけが「詠史~~~、勝手にお邪魔したわよ~~~」…………


 姉ちゃんよりも、真絹よりも散々聴いてきた声が鼓膜を揺らしたと同時に汗が噴き出してきた。


「あらぁ、今日は随分楽しそうね。真絹、頑張ってるじゃないの!!」


「この体勢を崩すと詠史さんが逃げ出すこと間違いなしなので振り向くことさえできず申し訳ありませんがエールありがとうございます」


「ふふふ、それでカレーライス買ってきたけれどもうチンする?ああ、それともやっぱり真絹にご飯作ってもらう?そっちの方がいいと思うわよ、栄養的にも美味さ的にも愛情的にも」


「いいからそこに置いとけ」


「あらほれさっさー………さてと、それじゃあやることもやったし」


 女の子は冷蔵庫に買ってきたものを綺麗に直した後にあくびをした。そしてゆったりと椅子を取り出し僕たちの近くに座る。


「後は観覧させてもらうよ………さーて、今日の意地の張り合いはどのくらいもつかしらね」


 彼女の名前は波園水菜乃、産婦人科のベッドで寝ていた時代からの僕の幼馴染であり、真絹の従妹らしい(このことを知ったのは結構最近である)。僕と真絹(と一応姉ちゃん)はローテーションで夕食を作ることにしているのだが、たまに食事を作るのが面倒くさくなったときや、真絹が衝動的に一緒に飯を食いたいようなとき水菜乃がやってくるのだ。


「それにしてもこうやって隅っこに追いやられている哀れな幼馴染を見てやっていると改めて思うわね。なんで真絹がこんなのを好きになったのか……水菜乃ちゃん的7不思議に入りまくるわ」


 相変わらず上から目線甚だしいな。


「水菜乃、貴女の幼馴染ではありますが同時に私の愛する方なんです、そんな言い方は止めてください」


「ごめんなさい。でも偽らざる気持ちよ……それにそんなやつでもあたしにとって大事な幼馴染、不思議極まりないけれどあたしはそいつのことが大好き……ああ、もちろん男としてはまるで見てないわよ、というかそんな風に見ようと思っただけで全身に極寒地獄の寒風よりも酷い寒気が走るし、ミミズのベッドで眠るような気分になるわ」


「ならいいです」


 いいの?


「その証明ってわけじゃないけれど、あたしが勝手に気を回したプレゼントがあってさ」


 薬局のレジ袋から綺麗に包装された何かを取り出す。


「コンドーム買ってあげたわよ。よく分かんないけどピカピカ光るんですって、面白そうだからあたしの前でつけてくれる?」


 うわぁ、性欲なんてかけらもないクソガキの目だぁ。


「するかぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」


 波園水菜乃という女は、僕に対してだけではあるが羞恥心や倫理観といった人間にとって大事なものを放り投げ、好奇心を剝き出しにするのである。男性が苦手なくせになんて女であろうか。


 かけがえのない幼馴染ではあるが敵か味方かと言うと間違いなく敵だ。


 そして僕が普通の男の子より性的なことへの耐性があるのは恐らくこいつの影響が大きい……なにせ、幼い頃から客観的に見ておかしいと思える程度には物理的にベタベタしまくってきたのだから。


 その後、辛うじて僕の女体への耐性と理性が上回り、おっぱいに触ることなく夜を迎えることができたのであった。


 我ながらこのガッツがどこから湧いてくるのかは分からないが残念だとは思わない。思うわけにはいかない。思ったら負けである。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?