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第8話 愛の営みは不滅です

 水菜乃は言葉を選ぶように話を進めていきました。そしてついに本題に入ります。


「お日様が山の向こうに顔を隠し始めたころ、リンゴみたいな日の光が眩しい時間に、水遊びしようと河川敷に行ったんですって、そこで出会ったのよ」


「出会った……とは」


「綿毛みたいにフワフワしてて、不健康そうなのに妙につやつやした髪をした男の子がいたんですって。なんでかは分からないけれど、詠史はその人が妙に気になって話しかけたの。そしたらこういわれたんですって」


 喉がうなる音が身体に響きました。


~~~~~~~~~~~~


「なぁ生きる意味ってなんだろうな」


「さぁ?お兄ちゃんどうしたの?」


「………そうだな、偶には見知らぬガキに悩みを話すのもいいかもしれん。どうせ明日の夕飯時には忘れてるからな」


 詠史はなんかムカついたってさ。


「………俺さぁ、好きな人がいるんだよ。どうしようもなく堪らないほど好きな人が………んでさぁ、すっげぇありがたいことに相手も同じ気持ちだったのよ」


「え?だったらすっごいいいことじゃん。生きる意味ドバドバじゃん」


「…………出来たんだよ」


「????愛が??????」


「まぁ、愛っちゃ愛だ。

 子供ができたんだよ………」


 詠史はその言葉を聞いて赤の他人ごとながらとっても喜んだらしいわ。当時の詠史は弟妹が欲しくてたまらなかったらしいからヒャホヒャッホーの様相だったでしょうね。感受性が高くて羨ましいわ。


「おめでとう!!」


「そーだよなぁーーーおめでてぇことだよなぁ!!

 でもさぁ、あのさぁ……これまでブイブイに楽しい自分の時間を生きてきたのにこれから俺の人生は子どもたちに捧げることになるんだ………いや、分かんだよ。とってもめでてぇことだ。妹がいるんだけどそいつが産まれた時もすっげぇめでたいと思ったし、すっげぇ嬉しかったよ。可愛くて仕方なかったし、今でもめちゃくちゃ可愛い。実の子供となればもっと可愛いんだろう………けどよぉ」


 そこで世界の二酸化炭素濃度がぶちあがりそうなほどの大きなため息をはいた。


「俺の人生は子どものものになるんだなぁって………そう考えたら人生の意味とか考えちゃうわけで。まだきゃわいい彼女とキャッキャウフフしたかったわけで」


 詠史には意味が分からなかったそうよ。まぁ楽しい博愛主義者だった詠史に分かるわけないわよね。世界は何故平和にならないのか大真面目に考えていたものね。


「まだまだ夜な夜なおっぱい揉みたかったし、お尻でうふうふしたかったし、ホテルでニヤニヤしたかったし、子供出来るか出来ないかの生々しい感触に耽溺もしていたかった。その時間も全部子育てに使うのかって」


 この辺は何言ってるのかマジで意味分からなかったらしいわ。まぁおっぱいとお尻以外の性的単語を知らないお子ちゃまだからしょうがないけれどね。


「まだまだ俺は若いのに………若いのにぃぃぃ。責任持たないといけないのは分かる。彼女となら長い人生を支え合い生きる自信もある。子供が可愛くて可愛くて仕方ないのも分かる、というか今でもワクワクだよ。

 でもそれはそれ、これはこれなんだぁぁ」


 その声には地に空いた深い穴に突き落とされたような感触がしたらしいわ。絶望ってのはこういうことなのかなって思ったんだって。


「童よ、君は欲望に負けたりするんじゃないぞ………とくに性欲はヤバいから、おちんちんのせいでヤバい目に遭ってる男の子は君が想像している一兆倍はいるから…おちんちんには負けるな、おっぱいには負けるな。人生を棒に振るぞ」


 男は最後にこういったそうよ。


「まぁおちんちんを振ってるから棒に振ったと言えるな」


 壊滅的なセンスとしか思えなかったわ。


~~~~~~~~~~~~


「そっからあいつなりに色々感じ取ったことと性欲なんてろくにない頭を振り絞って考えた結果訳わかんなくなって人生の意味を問うたんですって。

 あいつが性欲に負けたくないと思ったのはひょっとしたらこれが理由なのかもと思った次第よ……小さい頃のデッカイ思い出ってのは人生に響くからね」


  ふむ………ふむふむふむふむのふむふむです。


「あたし的には身体から始まる愛もありだと思うわよ。どうでもいいと思っていたあの子の下着を見たり、ふとした時にチラ見えした谷間から胸がトクンと小太鼓のように鳴るってことも全然あると思うわよ。

 でもやっぱり詠史のやつにそれは難しいんじゃないかしらね。性欲に屈服しそうにないもの。って言うかあいつもともと人より薄いしね。あたしにそういう目線を向けたことないのが証拠よ」


 ほう、ほうほほほうほほほほのほう。


「あんたは純愛一直線だし、今まで通り純愛と性欲を両立させたアプローチを「それ、多分お兄様ですね」…………みなぁぁ???」


「詠史さんに変なことを吹き込んだのはお兄様です。聞いている途中からひょっとしたらと思っていたんですが、最後のお子様兼ミドルエイジにしか思いつかないような安直な下ネタボケに聞き覚えがありまして。

 その20歳で子供を授かった男性は九分九厘お兄様です!!!」


「………うそぉ、お兄様って………わっちゃん?」


「私のお兄様は綿琉わたるお兄様だけですよ。それにしてもお兄様ったら私のことを可愛い妹だって思ってくださっていたんですね。うふふ、こういう角度から受ける讃辞の言葉ってのはたまらなく嬉しいです。詠史さんからのありがとうと同じくらい嬉しいです!!!」


 私には御年30歳のお兄様がいます。相当に年がはなれているおかげなのか、お兄様からはとても懸命な愛を受けてきました。


「なんか話して来たら久しぶりにお兄様に会いたくなってきましたね。お義姉さまと可愛い可愛い双子の娘を愛し、愛され、人生の最高潮を生きているお兄様に」


 案ずるより産むがやすし、ならぬ案ずるより育てるがやすし。確かにお義姉さまが懐妊されたときは相当ブルーになっていたお兄様ですが、実際に産まれたらすぐにテンションぶち上げ生きがいバリバリのイクメンお兄様に変身しております。



「そして、愛する姪っ子たちに」


 お兄様たちは私が憧れる理想の家庭なのです。


 今でもお兄様ったらしょっちゅう揉んでいるみたいですしね。うふふ♡当たり前ですけれど、愛の行為って言うのは子育てしながらでも出来るもんです♡


 だって愛の行為なんですから。


 いつか私も詠史さんと………うふふ♡



 次回 詠史に恋する前の真絹が登場します!!

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