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第4話 睡眠欲と性欲と同衾です♡

 僕こと和倉詠史は性欲が人に比べて随分と薄い。そのことに気づいたのは実は最近で、具体的に言えば真絹からの謎のガンガンアプローチを受けてきてからである。


 今すぐ雑誌に載ってもおかしくないほどの外見と物腰柔らかな雰囲気、そして大きなおっぱい。そんな相手がいつでも捕食OKアピールを散々しているというのにいまいち食指が動かないのはつまり、性欲が薄いと言うことだろう。もし性欲が厚ければ後先考えずとっくに身体を重ねて後先考えない快楽を貪っているはずである。


 その代わりなのか睡眠欲は特に強い。眠る前のストレッチや白湯は欠かさないし、姉ちゃんのお手伝いをして小遣いを稼ぎお高めの寝具や睡眠導入のためのアロマやスリープウェアなんかも買いそろえているのである。やはり睡眠環境と言うのは大事である。


「真絹、少し質問いいか?」


「なんなりと」


 いつものように甘美な眠りの時に入ろうと思っていたところ、ベッドの隣に恭しく佇んでいる真絹がいた。ヒッチハイカーが車を止めるために文字を書く大きめの画用紙を掲げており、『同衾してください♡』と美しい文字で描かれている。


「何故そんな小道具を用意した」


「その………私もまだ若輩者の恋する乙女ですからこういったことを口にするのは少々恥ずかしくて」


 本当に照れくさそうに頬を染めているがもっとヤバいこと散々言って来たしやってきたよな。こいつの羞恥心はどうなっているのだろう。


「ベッドに入るってことは自然その先もってことですから………キャァァンッ♡♡」


 そういうことか、流石にセックスとなればハズいんだな………やっぱり納得できんがこいつの精神構造を解明するのは不可能だろうからそういうもんだと思うしかないか。


「それに言葉にすれば一瞬で儚く消えていきますが、こうしていれば詠史さんのお目目に入る時間はずっと主張できます。沢山の時間=成功可能性アップです」


「そうか……でも僕は一人で寝るぞ。そっちの方がよく寝れるだろうし」


「異議ありです!!!」


 綺麗に右手をピンと上げた。


「前にも言ったことがありますがこの身体は詠史さんにコミットしたものに磨き上げております!!抱き心地も詠史さん好みのもにゅもにゅしたもので、抱き枕代わりにするだけでも価値があると思います!!!詠史さんにこれまで感じたことのない至上にして天上の快楽をもたらすことができるはずです!!!」


「いやでも……いつも一人で寝ていたし」


「異議ありです!!!!」


 二連異議ありだよ。最近裁判ドラマでも見たのかお前は。


「ずっと御一人寝ていたことはあり得ません!!小さなころは必ずお義父様やお義母様、そしてお義姉さまと寝たことがおありになるでしょう!!」


 声だけでは分からないはずだが、それぞれに『義』という文字が入っていたような気がする。何故か脳内にイメージ出来た。


「そのころはきっと今より安らかに眠れていたはずです!!それはなぜか、人の温もりがすぐそばにあったからに他なりません!!人肌はどんな安眠グッズより効果があるのです!!


 睡眠のためにはストレスをなるべく無くすことが肝要と言うのはお分かりになっていますでしょう。人にとって最大のストレスとは孤独!!!隣に誰かがいるだけで人は安心できるのです!!!まして私は詠史さんの為に自分を磨き上げてきた女、これで熟睡できないはずがないんです!!!」


 自分を売り込む圧が凄い。


「一緒に寝ましょう。もちろん一晩中寝かせていただけないというのもそれはそれでバッチこいってものですが」


「うーん………そうだな」


 そう言われれば心当たりはある。姉ちゃんに抱き着きながら寝た時は異様なまでに熟睡できたっけ……でも同衾を許可したら真絹が調子に乗ってしまうかも。


「乗りません!!!」


 そうか、乗らないのか。


「むしろ詠史さんが私に乗っていただきたいと思っております!!!」


 あっ、これ意味が違うな。調子に乗るんじゃなくて物理的に乗る方だわ。完全に睡眠から性行為にシフトチェンジしてるわ。真絹の読心術も完璧じゃないってことか…ちょっと安心した。



 さて……


「真絹」


「はいっ!!いつでも準備は万全です!!!」


 満面の笑みを浮かべる真絹に対し、僕はベッドからでてワークチェアに座った。


「お前のテンションが上がっているところ悪いんだけど前々から聞きたいことがあったんだよ。丁度いいから聞くけどお前エロイことしようとする時僕の許可を取ろうとするよな。なんで?」



 そう、気になっていたのだ。胸を揉ませようとしたときも、僕より身長が高く、悲しいことに力も強い真絹なら無理やり揉ませることも、もっと言えばもっと凄いこともできたはずなのだ。


 料理に媚薬を盛る程度なら簡単に出来るし、今回だって僕が寝ている隙に勝手に布団の中に潜り込むなら簡単に出来たはずなのだ。


「私の人生のモットーは二つあります」


 デロデロの笑みから一転、凛々しく顔が引き締まった。


「一つは詠史さんに人権を含むこの身の全てを捧げてでも愛し愛され生きること。そしてもう一つは健全的に生きることです」


 一つ目のインパクトの方がデカいけどそっちは放って置こう。


「健全的ってどういうこと?」


「はいっ!!私達初川家は先祖代々愛が重いんです!!惑星クラスです!!詠史さんなら実感して分かっておられますよね!!」


 ああ、自分がヤバいことは自覚してるのな。


「人を愛することは尊いことです。しかしながら重すぎる愛は理性を崩壊させ、知性を融解させ、相手の尊厳を破壊します。愛と毒は表裏一体なのです。

 だからこそ、外道状態にならないために健全的であれと教えられてきました。

 詠史さんがお考えになっているようにその気になれば詠史さんにもっと過激なアプローチをすることは容易です。しかしながらそれでは私の一方的すぎる想いしか満たせません。だからエッチなことをする時には詠史さんの許可を取りたいと考えているのです。互いに納得したままそういう行為がしたいのです。

 自分の欲に身を任せるのではなく、他者の気持ちを慮る、これこそ健全的であると思っております」


 面接かな?と思ってしまいそうなほど流麗に言葉を紡いでいた。まさかこんなことを言う用意をしていたわけがないので本当に心からそう思っているのだろう。


「ま、その心掛けは立派だと思う。これからも続けてくれ」


「むろんです!!それで詠史さん、一緒に寝てくださることについては」


「………ふむ」


 そうだな………まぁ妙なことをしないって言うなら。


「いいよ」


「!!!!!???????」


 自分で言い出したくせにぴょこんとカンガルーのように後ろに跳ねた。壁に盛大にあたりヘロヘロと倒れ伏す。


「いいんですか?本当にいいんですか?」


「まぁ寝るだけなら別にいいよ。寝ただけなら責任取るほど大袈裟なことじゃないしセーフだろうし」


「はい、セーフです!!とってもセーフです!!!あらゆる意味でセーフです!!!これ以上のセーフはないくらいセーフです!!!!!!!!


 そうと分かればさっさとしましょう。早々にしましょう。韋駄天のごとくしましょう!!」


 僕の気が変わらないうちにことを済まそうとしているのだろう。そんな焦らなくても僕は一回言ったなら撤回なんてしないのに。


「それではおやすみなさいませ………あっでもお休みしなくても別にいいんですよ」


「おやすみするよ」


 シングルベッドなのに二人ってのはやっぱり狭いな。でも確かに触り心地はいい。


「あふんっ♡」


 残念ながら睡眠導入BGMにはなりそうにないな



 次回 同衾にこぎつけた真絹をお楽しみください!!

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