僕にはストーカーがいた。昔は謎のピッキング技術を使いこっそりと部屋に入ってきたものだが、今では堂々と部屋に入ってこれる立場になってしまっている。
「チュンチュン、チュンチュンです」
爽やかな風の音と、綺麗なアホの声が僕の鼓膜を揺らした。半分夢の中に意識を残しながらも僕は目を覚ます。
「チューチューしてくださいです」
フィクションの世界では、朝起こしに来るのは母親か幼馴染だと相場が決まっている。だが、現実というものはよっぽど奇なり。僕を起こしているのは、幼馴染でも母親でもなく本性を知らなければ、うっとりしてしまうほどの美貌を放っている…しかしこいつが僕の元ストーカーなのだ。ちなみに厄介度で言えば、ストーカーでなくなった今の方が上だ。
最近はこの顔を見ないと完全に目が覚めなくなってしまった。
「おはよう真絹」
「おはようございます!!昨日は可愛がってくださってありがとうございました!!」
「まるで僕がお前に手を出したみたいに言うな」
「いつ手を出してくださってもいいんですよ♡朝チュンどんとこいってもんです!!」
胸を叩く代わりなのか、白魚の様な指で自分の胸元をグイっと引っ張って美しい白の双丘を見せつけてくる………朝一番にしては刺激的すぎる。夢から完全に帰ってきた意識君がさらに覚醒してしまうではないか。
「何せ私は身も心もついでに人権も全て詠史さんに捧げた女ですから」
ついでで人権を捧げるな。
「全部まとめてお返しするわ」
僕の名前は和倉詠史、手を出したら精も魂もまとめて吸いつくされそうな元ストーカーに適量を大きく超えた純愛を注がれてしまっている男だ。
「返品不可になっております♡」
「そもそも頼んでねーよ」
この物語は、そんな僕と元ストーカー女、初川真絹の日常を描いたものである。