「まずアリアよ。君は、邪悪な魔法使い・・・ことに
「学校の授業で、少し聞いたことはあります」
「そうか。では、彼らが何者なのか、なぜそのように呼ばれているのかは知らないな?」
「はい、詳しくは」
「では話そう。この世界の史実たる物語・・・『
王はゆっくりと語り始めた。
それは、この世界の昔々の物語だった。
今から30年前、一つの邪悪な闇の存在が突如としてこの大陸に現れた。
異界から現れたその存在は「邪神ガラネル」と名乗り、この世界を支配すると宣言した。そして多くの魔法使いたちを闇に取り込み、彼らを自らの眷属とした。
それが、邪悪な魔法使い。今日、『
数百人規模の軍勢を築いたガラネルは、大陸の八つの国を次々と蹂躙し、ついにはこのレフェ城にも侵攻した。
そして、当時の国王ラドム二世を殺害し、自らを大陸の支配者と名乗った。
「・・・それは雨の深夜のことだった。父が殺されたと聞かされたとき、当時五歳だった私は・・・言葉にならぬ衝撃と悲しみに打ちのめされたよ」
王は静かに目を伏せ、どこか遠い記憶を辿るような表情を見せた。
「それから20年間、大陸はガラネルの支配下に置かれた。王政や法は意味を失い、奴が世界の絶対的な王となった。人々は虐げられ、少しでも逆らう者は容赦なく処刑された」
王の言葉には、微かな怒りが滲んでいた。
「しかし・・・20年後、世界の歯車が再び動き出した。ガラネルに立ち向かう8人の勇敢な魔女が現れたのだ」
8人の魔女は、それぞれ異なる国の出身で、異なる魔法の属性を持っていた。
しかし、彼女たちは強い絆で結ばれ、ガラネルの軍勢と一年余りに及ぶ激戦を繰り広げ、ついには邪神を打ち倒した。
邪神ガラネルは、三国の国境が交わる山奥、「異界の門」と呼ばれる場所に封印され、恐怖の時代は幕を閉じた。
彼女たちは後に『八大魔女』と呼ばれ、それぞれの国を守る守護者となった。そして、彼女たちが張った結界がある限り、邪神は再び現れることはない。
「・・・ただし、もし結界が破られることがあれば、その時はかつての八大魔女、あるいはその子孫が世界を救うことになるだろう」
王は静かに言葉を結んだ。
「そして、当時ガラネルに立ち向かった8人の魔女のうちの一人が、君の母——セリエナ・ベルナードなのだ」
私は母の方を見た。
なんとなく想像はしていたけど・・・やっぱり、母はすごい人だったんだ。
「セリエナ殿は、このレフェで生まれ育った『炎の大魔女』、世界最強の炎魔法の使い手だ。『灼炎の女皇』とも呼ばれるほどにな」
『灼炎の女皇』。相変わらず、かっこいい響きだ。
「だが、その娘である君の名を知る者はまだ少ない。だが、それも『今は』だ。いずれ君は母と同じく、世界に名を轟かせる偉大な魔女となろう。その赤い髪と赤い瞳が、それを証明している」
・・・私は、最強の炎の魔女の娘。
いつか、母のように最強になれるのかな。
そう思うと、なんだかワクワクする。
でも・・・それと同じくらい、不安もあった。
「冴えない顔をしているな。不安なのか?」
王にそう言われて、私は少し戸惑ったけど、正直に頷いた。
「まあ、当然だろうな。だが、君はすでにこの大陸で最高峰の魔法学院に入学し、学んでいる。母から受け継いだ才がなければ、そんなことはできなかったはずだ」
それは・・・確かにそうかもしれない。
「それに、君が自分に自信を持てなければ、セリエナ殿が悲しむ。セリエナ殿は、君を何としても自身の後継ぎとして育て上げたいと願っておられる。真に母を愛するなら、その思いを無下にしてはならん」
もちろん、そのつもりだ。
せっかく、こんなロマンあふれる人生に転生したんだ。途中で投げ出したりしない。
「君の道は、決して平坦ではないだろう。優れた者は、常に過酷な運命を背負うものだ。
だが、決して諦めてはならぬ。君はセリエナ殿にとって、亡き夫の唯一の形見でもあるのだから」
ありがたいお言葉だけど・・・そろそろ、話を終えてほしい。
なんだか、帰りたくなってきた。
そう思っていたら、ずっと黙っていた母が、さらっと聞き流せないことを言った。
「王の仰る通りよ。奴は、必ず戻ってくる。そしてその時はきっと、私と私の娘を狙ってくる。あなたが弱ければ、奴に立ち向かうことはできない。・・・だから、頑張るのよ、アリア」