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23.揺れる心、支える温もり

 それから数カ月が経ち、私は少しずつ炎を制御できるようになってきた。


以前はただ力任せに魔法を放つだけだったが、母の教えを思い出しながら丁寧に魔力を扱うことで、炎の形を自在に変えることができるようになった。


また、魔力が暴走することも減ってきた。


 学院の訓練場では、私は炎を細く伸ばして鞭のように操ったり、空中で燃え盛る鳥の形を作ったりすることもできるようになった。


まだ完璧には程遠いが、それでも確実に成長している実感があった。


「アリア、最近すごいじゃない!」


 シルフィンが驚いたように目を輝かせる。


「うん。でも、まだ満足はできないよ」


私は静かに炎を消しながら、まだまだ鍛錬が必要だと感じていた。


「でもさ、最近は前みたいに暴走することもなくなってきたし、確実に進歩してると思うよ」


 ライドが微笑みながら言う。


「おれもそう思うぜ。前までは、見ててヒヤヒヤしてたけどな」


マシュルが腕を組みながら頷いた。


「・・・そうだね」


 私は彼らの言葉に小さく頷いた。

私は成長している。それは確かだ。

でも——


心の奥には、別の感情が渦巻いていた。


 この世界に生まれてから、私はずっと、炎の魔法を極めることに集中していた。

だが、それは本当に私の「やりたいこと」なのだろうか。


気づけば、私は母の期待に応えようと必死になっていた。


私は「炎の大魔女」の娘だから。

私は「世界最強の魔女の血を引く者」だから。


 ——だから、強くなければならない。

そんな風に、自分を追い込んでいた。


(・・・でも、本当にそれだけでいいの?)


この疑問は、私がこの世界に転生してから、ずっと心の奥にあったものだ。


 私は前世で、炎を操る魔女なんかじゃなかった。

ただの、普通の女子高生だった。


それも、いじめを苦にして自ら命を絶った、弱い人間。


(私は、何のために転生したんだろう)


 ふと、そんなことを考えてしまう。

もし、前世の私がこの世界の私を見たら、どう思うだろう。


「・・・アリア?」


気づくと、シルフィンが心配そうに私を見つめていた。


「えっ、あ、ごめん・・・ちょっと考え事してた」


 私は慌てて微笑んだ。


「うーん、最近のアリアって時々、何か考え込んでるよね」


ライドが首をかしげる。


「まぁ、アリアはアリアだからな。悩むこともあるんだろ」


 マシュルは気にするなと言わんばかりに、肩をすくめた。

シルフィンは少しだけ考え込んでから、そっと私の手を握った。


「アリア。何かあったら、私たちに話してね?」


「・・・ありがとう」


 私は小さく微笑んだ。

でも——


この世界に生まれた意味。

前世の私が抱えていた後悔。

れを、本当に話していいのかどうか。


私はまだ、その答えを見つけられずにいた。





 数日後、授業が終わった後、私は訓練場で自主訓練をしていた。


炎を指先から灯し、小さな火の玉を生み出す。それをゆっくりと回転させ、手のひらで転がし、細く糸のように伸ばす。


以前の私ならすぐに暴走していたが、今はしっかりと制御できている。


(確かに、成長はしてる。でも・・・)


 私の心は、晴れなかった。


ふと顔を上げると、夕焼けが空を染めている。燃えるような赤い空。その色は、まるで私の魔法のようだった。


・・・そう言えば、前世で最期に見た夕焼けもこんな感じだった。

学校の屋上から飛び降りる直前に見た、あの夕焼けも・・・


(私が目指しているのは、本当に強さなの?私が転生したのは、何のためなの?)


 そのとき、ふいに後ろから声がかかった。


「アリア、やっぱりここにいたんだね」


シルフィンだった。彼女もまた、炎を操る魔法使い。私と同じ赤い髪、赤い瞳を持つ存在。


「うん・・・ちょっと、練習してた」


「アリアは頑張りすぎだよ。最近ずっと考え込んでるし」


「・・・そんなこと、ないよ」


 私は苦笑するが、シルフィンはじっと私を見つめてくる。


「嘘」


「え・・・?」


「だって、ちょっと前まで私もそうだったから。お母さんに認めてもらいたくて、必死で強くなろうとした。でもね、いつの間にか楽しくなくなってたの」


シルフィンの言葉に、胸が締めつけられる。


「アリア、無理しないでいいんだよ」


「・・・でも、私は母の娘だから」


「それって、アリア自身の気持ち?」


私は何も言えなかった。


「確かにアリアはセリエナ様の子供だけど、アリアはアリアだよ。自分のやりたいこととか、夢があってもいいと思う。強くなることだけがすべてじゃない。私たち、友達でしょ? 何かあったら、ちゃんと言ってよ」


 シルフィンは優しく微笑んで、私の手を握る。その温もりに、私は少しだけ肩の力を抜いた。


「・・・うん、ありがとう」


私はまだ、この世界での意味を見つけられずにいる。でも——少なくとも、私を支えてくれる仲間がいる。


 それだけでも、救いだった。



その夜、私は久しぶりに母の部屋を訪れた。


昼間授業でもやった・・・セリエナ・ベルナード。「灼炎の女皇」とも呼ばれる、世界最強の炎の大魔女。 

そして、今世での私の母でもある。


私はこの人の後継ぎとして転生し、ここまで育てられてきた。 将来的には、立派な魔女にならなければならないだろう。


 母の部屋は静かで、厳かな雰囲気が漂っている。赤い炎の灯る燭台が、壁に揺らめく影を映していた。


「どうしたの、アリア?」


 母は机に向かい、魔導書を広げたまま私を見る。その紅い瞳は、まるで私の心を見透かしているようだった。


「・・・少し、話がしたくて」


私は母の前に立ち、意を決して口を開いた。


「私って・・・本当に、強くならなきゃいけないの?」


 母は一瞬だけ目を細めたが、すぐに静かに口を開いた。


「どういう意味?」


「私は、ずっと強くならなきゃいけないって思ってた。でも、それは本当に私が望んでいることなのか、分からなくなって・・・」


母は私の言葉を黙って聞いていた。そして静かに立ち上がると、私の肩に手を置いた。


「アリア。強くなる、魔女としての格を上げるということは、私の娘であるあなたの宿命。でも、その先に何を望むかを決めるのは、あなた自身よ」


「・・・母さんは、私にどうなってほしいの?」


「そうね・・・正直、あなたには私を超えた後継ぎになってほしい。ただ一方で、あなたが自分の生きる道を見つけ、その道を誇りを持って歩む、ということもしてほしいの」


 母の意外な言葉に、私は驚いた。 

確かに母は、私に強くなることを求めていたが、同時に私が私自身の道を見つけることも望んでいたのだ。


「・・・私は、強くなりたい。でも、それだけじゃない。私の力を、誰かのために使いたい」


「なら、その答えを見つけるために進みなさい。あなたの道は、あなたが決めるものなのだから」


 母は優しく微笑んだ。


私は深く息を吸い込み、力強く頷いた。


「ありがとう、母さん」


私の心の霧が、少しだけ晴れた気がした。


私は私の道を探していく。そのために、もっと強くなる。


 そして、いつか——

この力を、誰かのために使えるようになれれば。





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