模擬戦が終わり、私たちは訓練場の隅で一息ついていた。
ライドも私も、まだ息が上がっている。さっきの戦いは本当に激しかった。
「・・・やっぱり、君強いなぁ」
ライドが苦笑しながら肩を回す。
「そっちこそ。雷の速さ、侮れないよ」
私も苦笑しつつ、制服についた砂を払う。
「いや、でもさ、やっぱり君の魔法、すごいよな。炎を自在に操って、動きまで読まれたら、勝てる気がしないよ」
「・・・でも、まだ上手く制御できてない」
私は拳を握りしめた。
今回の戦いでも、短縮詠唱が暴走しかけたし、最後の爆発も正直、意図してやったわけじゃない。
(やっぱり、まだまだ未熟だ。もっと、ちゃんと炎を・・・自分を制御できるようにならなきゃ)
「アリア・・・?」
考え込む私に、シルフィンが声をかけた。
「・・・大丈夫。ちょっと考え事してただけ」
私はそう言って微笑んだが、シルフィンはじっと私の目を見つめてくる。
彼女は私と同じ炎の魔法使いだからか、私の心の動きを察しやすいのかもしれない。
「そっか。でも、無理はしないでね」
小さく頷いたそのとき——
「おーい、みんな!そろそろ戻るぞ!」
マシュルが手を振りながら呼びかけてきた。
授業が終わったので、そろそろ組の教室に戻る時間だ。 私たちは荷物をまとめ、学院の廊下を歩きながら教室へと向かった。
ゼスメリアの教室には、生徒が個人で使える寮のような個室があり、属性ごとに分かれている。
私はシルフィンと同じ炎属性なので、彼女と同じ部屋を使っている。
「・・・ふぅ」
椅子に腰掛け、今日の戦いを思い返す。
短縮詠唱の訓練。魔力の制御の難しさ。そして、ライドとの模擬戦。
(もっと強くなりたい。もっと・・・力を上手く操れるようになりたい)
このままでは、いつか魔力の暴走が取り返しのつかないことを招いてしまうかもしれない。 それは、絶対に避けたい。
そんな思いが、こみ上げてきた。
「・・・訓練しよう」
小さく呟く。
誰に言うでもなく、自分に言い聞かせるように。
炎は、ただ燃え盛るだけではダメなんだ。 それを制御し、狙った形に、狙った温度に、狙った威力に調整できなければならない。
(明日から、こっそり練習しよう)
私はそう決意し、荷物をまとめて帰る準備をした。
帰り道の足取りは重かった。
私の母は、世界最強の魔女と称されるほどの実力者。そんな母の元で育った私が、炎の魔法を上手く扱えないなんて。
そんなこと、あっていいはずがない。
夕食を終えた後、少し早めに眠ることにした。明日、朝早く起きて自主訓練をしようと決めたからだ。
翌朝、まだ空が薄暗い時間に目覚めた私は、家の裏手へと向かった。1人で、魔法の自主練習をしようと思ったのだ。
「・・・よし」
深呼吸をして、私は魔力を手に集中させる。
「『ソロファイア』」
手のひらの上に、小さな火球が灯る。
そして魔力を制御しながら、それを少しずつ大きくしていく。
暴走しないように。力を抑えながら、でも確実に炎を大きく。
集中していたその時——
「随分と熱心ね」
聞き慣れた声が背後から響いた。
「・・・母さん!」
振り向くと、母が腕を組んでこちらを見ていた。深紅の瞳が私を見つめ、その口元にはわずかに微笑みが浮かんでいる。
「こっそり練習するつもりだったのかしら?」
「・・・うん。でも、まだうまくいかなくて」
私は視線を落とし、昨日のことを説明した。
短縮詠唱の制御が上手くできず、模擬戦でも暴走しかけた。そんな自分が悔しかった。
すると、母は静かに歩み寄り、私の手のひらに浮かぶ炎を見つめた。
「アリア。炎というのはね、ただ燃やすだけの力ではないのよ」
そう言って、母は指先を軽く動かした。
すると、私の炎がふわりと揺れ、まるで花が咲くような形に変わった。
「炎を自在に操るには、力任せではなくて、意志を込めることが大事なの。魔力を炎に『変える』のではなく、炎と『対話する』つもりで」
「・・・炎と対話?」
母は優しく頷いた。
「魔法は、あなたの心を映すもの。魔力を制御できないのは、あなた自身がまだ自分を完全に理解していないからよ」
私はハッとした。
確かに、いつも焦っていたような気がする・・・強くならなきゃ、制御しなきゃ、と。
それが、かえって魔法を乱していたのかもしれない。
「さあ、もう一度やってみなさい。今度は、無理に動かそうとせず、声を聞くつもりで」
「・・・うん!」
私はもう一度、魔力を集中させた。
炎を生み出し、その熱を感じる。焦らず、炎の流れを読むように——
(・・・なるほど、こうやって・・・)
ふわり、と炎が柔らかく揺らめく。
さっきよりも、ずっと穏やかで、でも確実に私の意思に応えてくれている。
「・・・できた?」
「ええ、少しはね。でも、まだまだよ」
母は微笑むと、そっと私の頭を撫でた。
「あなたはまだまだ成長の途中、焦ることはないわ。ゆっくり、自分の炎を極めなさい」
「・・・うん!」
私は強く頷いた。
もっと強くなるために。
もっと、自分の炎を極めるために。