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20.休日と学院の日常

入学後、私はひたすら勉強に精を出した。

別に、ゼスメリアが名門校だからというわけではなく、後になって後悔しないためだ。


難しい勉強をするのは苦しいかもしれないが、サボると後でもっと苦しむことになる。


 かといって、友人関係も疎かにはしない。

シルフィンたちと、しっかり付き合いを持っている。


前世の学校のような午前授業の日とかは基本的になかったので、休日に遊ぶのがメインだが、丸一日たっぷり遊べるのでなんら問題はない。


 学生は勉強が仕事だなんて聞いたことがあるが、それを言うなら友達付き合いも仕事のうちだろう。


 前世の経験で、よくわかっている。




 さて、学校の近くにあるマフォン横丁は、学院の学生たちにとっての憩いの場だ。個人経営の小さな雑貨屋や食堂が並び、どこか懐かしい雰囲気を醸し出している。


一方、マイフの市場は活気に満ちていて、異国の品々もちらほら並ぶカラフルな通りだ。


 私はいつもの3人、つまりシルフィン、マシュル、ライドと一緒に市場を歩いていた。

入学から3ヶ月。こうして休日に遊ぶのは、もはや通例だ。


しかし、今回は特に予定は決めていない。

何も考えず、気ままにぶらつくことにしたのだ。


「アリア、これ美味しそうじゃない?」


 シルフィンが屋台の前で立ち止まり、焼き立てのパイを指さした。サクサクの生地に甘い香りが漂い、確かに美味しそうだ。


「食べるなら今のうちだな。ここのパイは、昼過ぎには売り切れるって聞いたことある」


 ライドが腕を組んで言う。

どういうわけか、彼は市場の事情にやたらと詳しく、こういう時に頼りになる。


「じゃあ、一人一つずつ買おうか」


 私が提案すると、マシュルが「おれがまとめて払うよ」と言った。

こういう時に言い出すのは、いつもは私であるのだが。


「え、いいの?」


「たまにはいいだろ?」


 そう言われると断る理由もない。私たちは素直にお礼を言い、それぞれパイを受け取った。


 サクッとかじると、中から甘酸っぱい果実のフィリングが溢れ出す。程よい酸味とバターの香ばしさが絶妙に混ざり合い、思わず笑みがこぼれた。


「これ、美味しい!」


 シルフィンが感動したように言うと、ライドも頷いた。


「だろ?ここの屋台、評判いいんだよな」


 楽しく食べながら歩いていると、マシュルがふと立ち止まった。


「ん?どうしたの?」


「いや、向こうで大道芸をやってるみたいだ」


 マシュルの視線の先には、広場で輪になっている人々の姿があった。中心にはローブを着た人物がいて、宙に浮かぶ光の玉を操っている。どうやら魔法を使った芸のようだ。


「せっかくだし、見ていこうか」


 私たちは人混みの隙間に入り込み、ショーを眺めることにした。光の玉が滑らかに動き、時には分裂し、また一つに戻る。その技巧に観客たちは拍手を送り、私たちも思わず見入ってしまった。


「こういうのを間近で見ると、魔法の使い方も勉強になるな」


 ライドが感心したように言う。彼は、学んだ魔法を実践する授業・・・つまり実技科目が得意で、こういう場面ではつい技術的な視点で考えてしまうらしい。


「でも、純粋に楽しむのも大事だよ?」


 シルフィンが笑いながら言うと、ライドは少し照れくさそうに鼻をこすった。


 こうして私たちは、食べ歩きをしながら市場を満喫し、大道芸を楽しみ、休日を存分に満喫した。


こんな日々がずっと続けばいいのに——

そんなことをふと考えながら、私は笑った。





 さて、楽しい休日はあっという間に終わり、また学院生活の日々がやってきた。


ゼスメリアの朝は、鐘の音とともに始まる。朝日が学院の広い中庭を照らし、澄んだ空気の中に鳥のさえずりが響く。


 私は、母ゆずりのふわりと揺れる赤髪をなびかせながら、シルフィンと一緒に教室へ向かっていた。


「今日の授業、なんだったっけ?」


 シルフィンが隣で伸びをしながら尋ねる。


「汎用魔法の基礎と、あと演習があったはず」


 私は朝の涼しさを感じながら答えた。

ゼスメリアに限らず、魔法学院では魔法の基本から学び、将来の魔法使いを育てるという。


名門校と言えど、1年生はまだ魔法をうまく使えない子も多く、授業は大半が基礎知識や基本練習だ。


 もっとも、私はその「大半」の中に当てはまらないイレギュラーだが。


「演習かぁ・・・またマシュルが水をばしゃーって飛ばしそう」


 シルフィンがほっぺたを膨らませる。

マシュルは水の魔法使いなのだが、まだ上手にコントロールできず、よく水をまき散らしてしまう。


「まあ、そうなったら火で乾かせばいいよね?」


「アリアがやると、焦げそうだからやめてね?」


 私たちはくすくす笑いながら教室へ入った。すでにマシュルとライドが席についており、それぞれ教科書を開いている。


「ああ、来たな!」


 マシュルが手を振る。彼の青い髪が朝の日差しを受けて輝いていた。


「おはよう。今日も水びたしにするつもり?」


「しないよ! たぶん・・・」


 マシュルが苦笑する。


「たぶん、が怪しいんだよなあ・・・」


 ライドが黄色い髪をくしゃっとかきながらため息をついた。

雷の魔法を使う彼は、実は水と相性が悪い。マシュルが水をまくと、ライドも困るのだ。


「お前が感電しないことを祈るよ、ライド」


「ホントにね・・・」


 そんなやり取りをしているうちに、教室の扉が開き、先生が入ってきた。


今から受けるのは、汎用魔法の授業。

その担任は、青い短い髪に青目の若い男の先生。

ハーロウ・ペスター先生だ。





 汎用魔法の授業の前半、基礎の学習が終わると、次は演習の時間。学院の裏庭にある訓練場に移動し、それぞれ魔法の練習をすることになった。


「魔法をちゃんと出せるか、練習するぞ!」


 先生の掛け声に、クラスの子たちは元気に返事をする。1年生の演習では、「正しく魔法を発動する」ことが第一目標だ。まだ何も出せない子も多いので、的当てではなく「魔法を発動させるだけで合格」になることもある。


「じゃあ、マシュルからいってみようか」


「はい!」


 マシュルは両手を前に出し、深呼吸する。彼の指先に小さな水滴が現れ、ふるふると揺れながら、ぽちゃんと地面に落ちた。


「・・・あれ?」


「おお、今日は爆発しなかったな」


 ライドが感心したように言う。いつもならドバッと大量の水が飛び出してしまうのに、今日は小さな水滴だけだった。

どうも、彼は調節が上手く行かないようだ。


「うぅ、少なすぎた・・・」


「いいのよ、少しずつできるようになれば」


 シルフィンが励ますように言った。


「じゃあ次、ライド!」


「よし・・・!」


 ライドが手を伸ばすと、パチパチッと小さな火花が散った。指先にほんのわずかな電撃が走るが、それ以上は出ない。


「んん・・・?」


「ちょっと力みすぎかな?」


 アリアが言うと、ライドは「むむむ」と悔しそうに腕を組んだ。


「ま、まあ、マシュルの水と当たったらヤバいし、これくらいでちょうどいいかも」


「それはそう」


 教室のみんなが笑う。


「じゃあ次はシルフィン!」


「はい!・・・いくよっ!」


 シルフィンの手のひらに、ふわっと小さな炎が灯った。ろうそくの火くらいの大きさだが、ふわりとゆれるその炎は、確かに彼女の意志に応じて形を変えている。


「おお、きれいな炎ね」


「うん、シルフィンはコントロールが上手だな」


 先生も頷いた。


「じゃあ最後、アリア!」


 いよいよ、私の番だ。


私は深呼吸し、手のひらを見つめた。

私は、どうも魔力が強すぎて、魔法をうまく制御できないことが多い。

でも、今日は慎重に——


「・・・っ!」



 突然、大きめの炎が手のひらから飛び出した。慌てて力を緩めると、炎はすぐにしぼんで消えた。


「わわっ、あぶない!」


「ご、ごめん・・・」


「でも、前よりはちゃんと制御できてるんじゃない?」


 シルフィンがにっこり笑うと、私もほっと息をついた。


「うん・・・もっとがんばる!」


 こうしてみんな、それぞれの魔法を練習しながら、少しずつ成長していくのだろう。

私もその1人であるが。






 演習が終わった後は、昼の時間だ。

私たち4人は、食堂へ向かう。


「さーて、お昼だ!」


「今日のご飯、何かな?」


「パンかな? それともスープ?」


「マシュル、水こぼすなよ?」


「そんなことしないよ!」


 笑い声が響く中、食堂の扉を開けた。


改めて思うが、学院生活は、まだまだ始まったばかりだ。

これからもっとたくさんのことを学び、成長していくのが、私の運命なのだろう。


 私は心に決める——二度目の人生は、絶対に後悔しない。


 仲間とともに、強く、燃え上がるように、生き抜くのだ。



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