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16.最初の授業

 初日と翌日は、ほとんどの授業が説明だけで終わった。

本格的な授業が始まったのは、3日目からだ。


ここからは、毎時間好きな授業を選んで参加できる。


 記念すべき最初の授業として私が選んだのは、「占星術」。

名前の通り、占いに関することを学ぶ授業だ。


教室は1階の北側にある。

向かう途中、シルフィンに声をかけられ、二人で一緒に向かった。


「私、占星術にすごく興味あるんだよね。だから、楽しみ!」


シルフィンは、図鑑ほどもある教科書を小脇に抱えて嬉しそうに言った。


「占星術か・・・要は、占い関係の魔法ね?」


「そうだよ。でも意外と奥が深くて、場合によっては人の宿命とか、進むべき道もわかるんだって。それを教えてもらえるのが、占星術の授業なんだよ!」


宿命――生まれつき決まっている運命。

自分の行い次第で変えられる「運命」とは、対になるものだ。


私は前世を無駄にした分、今世では頑張って生きようと思っている。

でも・・・何か、持って生まれた宿命はあるのだろうか。





 占星術の教室は、暗い色の壁と床に、大きな窓がある部屋だった。

机の上には、小さな壺や、実験道具のようなものが並んでいる。


まるで理科室みたいだ。


 私はシルフィンの向かいに座った。

初日から、仲良くなれそうな子と向かい合って授業を受けるなんて、前世ではまずなかったことだ。


まもなく、先生が現れた。


黒縁の眼鏡をかけ、茶色のロングウェーブの髪をした女性の先生だった。


「1年生の皆さん、おはようございます。そして、入学おめでとうございます。

私はこの占星術の授業を担当する、サリー・メトリアナです」


 先生は軽く頭を下げると、顔の横で右手を軽く握り、指を広げた。


次の瞬間――

「わっ・・・!」


 誰かが驚きの声を上げる。


見上げると、天井より少し下のあたりに、霧のようなものが現れた。

やがて、それは鮮やかなピンク色に変わり、桜のような花びらが雪のように降ってきた。


「これは、私から皆さんへの軽い入学祝いです。本当は昨日のオリエンテーションの時にしようかとも思ったのですがね。

落ちた花びらは、じきに消えますから、掃除の必要はありません」


そう言って、先生はにっこりと微笑んだ。


「それでは、授業を始めましょう」





 ノートに板書を写すとかは、数年ぶりとは言え慣れていたので苦にならなかった。

ただ、図鑑ばりの分厚さとサイズがある教科書をめくるのは、ちょっと大変だった。


でも、見た感じこっちの教科書はどれもこんな感じだ。そのうち、慣れるとは思う。


それに考えてみれば、こっちではワークやらドリルやらがない。

前世では、正直見るだけで気が重くなるような連中だったが、あれらがないのはありがたい点だ。


 授業の途中で、簡単な占いをすることになった。


目の前にある壺に水を入れ、配られた液体と砂糖のような粉を入れて混ぜる。

そして沸騰させ、葉っぱを10枚中に入れるというものだ。


葉っぱの色が変わったら、先生に見てもらう。

詳しいことはわからないけど、その色と様子で占うらしかった。


「あなたは・・・ふむふむ。これからしばらくは、物事が好調に進みそうね。

ただ、選択を間違えるとちょっと嫌な目に遭うかも。気をつけて」


 シルフィンの後は、私が壺の中を見てもらった。

よく見えないが、葉っぱはどれもあまり色が変わっていないように見える。


壺を覗き込み、それをじっと見ていた先生は、やがておお・・・と唸った。


「なるほどね・・・あなたは何か、心配事や不安な事があるようね?でも、深く気にする必要はないわ。

今後、あなたが思っている以上に、いい運命が待っている。だから、考え過ぎることはない。どうか、元気を出して」


 なんか、シルフィンや他の子よりまともなことを言われた気がする。


改めて壺の中を覗き込むと、葉っぱはさっきから時間が止まっているかのように、水面を静かに漂っていた。





 占星術の次は、「最適魔法」の授業に行くことにした。

名前だけだとわかりづらいが、要は個人の適性がある属性の魔法、「専攻属性魔法」を学べるところだ。


こちらも、シルフィンと共に教室に行った。

彼女もまた、私と同じ赤目赤髪。つまり、炎に適性のある魔法使いだ。


 道中、今度は私から話した。

「炎魔法って、この世界では一番使用率が高い属性の魔法らしいね」

家で読んだ本から拾った知識であった。


「そうだよ。8つの属性の中で一番扱いやすいから、専攻している人も多いの。

消費も少なめだから、術式を展開せずとも遠慮なく出せる魔法なんだって。・・・あ、あなたには言うまでもないかな」


 術式とは基本魔法以外の魔法使用時に使われる、ルーン文字と呼ばれる文字の集合体・・・早い話が、魔法陣だ。


展開には100の魔力を消費するが、これを展開すると、魔法に必須な力であるイメージ力を補うことができる。


そしてこの術式に魔力を流すと、容易に魔法を放てる。

簡単に魔法を使うための補助輪みたいなものだけど、普通に使われることも多いという。


 多く使われるものは、魔法陣の外側に展開される円が1つの「簡易術式」と呼ばれるもの。

円が3つのものは「正式術式」と呼ばれ、より高度な魔法を使う際に使われるらしい。


そう言えば、母が術式を展開するのを見たことがない。

まあ、日常生活では基本魔法しか使わないから、展開するまでもなかったのだろう。


「でも、術式展開できるかな。わたし、やったことないんだよね」


「大丈夫だよ。簡易術式の展開は、基本魔法さえ使えれば問題ないレベルだから。私もやったことあるけど、簡単だよ。

っと、喋ってる場合じゃなかった。急ごう!」


 その言葉で、私たちは教室に向かって急いだ。

廊下を走るな、とはよく言うけど、実際気にする人は少ないだろう。

私もそうだ・・・今も昔も。


私たちの向かう教室、「炎の最適魔法の教室」は3階の北東にあるという。

階段を駆け上がり、相変わらず図鑑みたいな厚さの教科書を手に持って、走った。


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