目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

14.ルージュの教室

 3つあるうち、真ん中の通路をくぐった。

 通路を抜けると、木の香りが漂う教室が広がっていた。

並べられた長机と椅子はどれも使い込まれ、歴史を感じさせる。


正面には大きな黒板。これから始まる学びの日々を象徴しているようだった。


「座るのは、どこでもいいらしい」

それを聞いて、少しホッとした。これなら、席選びに悩まずに済む。


 けど、私としてはそれはそれで困る。

隣に座る相手――それは、最初に仲良くなる可能性が高い人。


でも、誰がいいんだろう?

自分で選べるのなら、ここで選ぶ相手は重要だけど、どういう基準で選べばいいのか。


 前世において、ろくに友達などいなかった身としては、こういう場面はその重要性は考えるまでもない。が、どうすればいいのかがわからない。


とりあえず、真ん中の机の中央の椅子に座った。

中央なら左右で同じ距離のところに人がいるし、数人いれば一人は繋がれる子がいるだろう・・・



「・・・」

 ひとまず座って待っていたところ、私の左隣には男子が座った。

髪も目も黄色の、ショートヘアの子だった。


そして、右隣にも同じく男子が座った。

こちらは青目に青髪のウルフカットだ。


 何か言うべきだったのかもしれないが、何も言えなかった。

何を言えばいいのかわからなかったのもあるし、言う勇気がなかったのもある。


陰キャぼっちな上にコミュ障だった前世は、もはや過去のもの・・・なのだが、どうにもならない。


こうしてみると、転生したところで、性格が変わったり、かつての記憶が消えるわけではないというのが、なかなかの痛手だ。



 そうしているうちに、先生が来た。

黒板の横の通路から出てきたのは、なんとついさっき入り口前で私たちを集めた男の先生だった。


「みんな、よく全員揃ってくれた。改めて、入学おめでとう。

私はこのルージュの組の顧問・・・つまり担任。レシウス・フィドルスだ。これからは、君たちの組担任でもある」


そうして、先生はこの学校の仕組みを話した。


 簡単に言うと、この学校・・・ゼスメリアは、高校のようなシステムになっている。

つまり受ける授業の科目によって先生が変わり、教室もそれぞれ異なる。


科目は、当たり前ではあるが魔法に関するものが多く、「汎用魔法」と呼ばれる生活の上で便利な魔法や、「ポーション」と呼ばれる魔法薬や魔法の力が込められた道具の製造法、扱い方に関する授業なんかをやるらしい。


一方で数学や社会科といった、前世と同じような科目も少ないながらあった。

こちらは移動教室ではなく、ホームルームをしているこの教室で行うそうだ・・・まあ、これらに関しては言うことは無い。


 学年が上がると授業のレベルは上がるが、科目の名前自体は基本的に変化しないらしい。

そしてこの学校の教室は、同じ教室では1週間同じ授業をしている。


もし授業の内容を理解できなかったとか、わからないことがあったとかの理由があれば、その日のうちに同じ授業をまた受けることもできる。


さらに、朝と帰りのホームルーム以外の授業は必ずしも組全員で受ける必要はなく、受けたい授業をやっている教室に行けばいいそうだ。


 つまるところ、この学校では好きな時に好きな科目の授業を受けられるのだろう。

もちろん単位とかの都合で、どうしても受けなきゃない授業なんかは出てくるだろうが。


それでも、学習面で取り残されるリスクは多少は少なくなると思う。

かつてはろくに勉強などできなかったが、今世では・・・

まあ、出来る限りで頑張るつもりでいる。



「・・・と、今回私が言いたいことはここまでだ。では、これより10分間の休憩とする。

次は、『魔法生物学』の授業だ。

本来は、この休憩時間中に次の授業の教室への移動や準備を済ませるんだよ。今日は、1日この教室でいいけどね。それでは、帰りのホームルームでまた会おう」


 先生は、そう言って来たときと同じ通路に消えた。



他のみんなが周りと話している中、私は一人机に突っ伏した。

次は生物か。前世で嫌いだった授業だ。


 魔法、とつくと途端に受けたくなる・・・と言いたいところだけど、どうしてなかなかそうも行かない。

心は思っても、体が動かないというか。

考えると、体が重くなる。



 そんなわけでぐだっとしていた私に、声をかけてくる奴がいた。

「ねえ、キミ!何かお話しない?」


「・・・えっ?」


顔を上げると、さっきまで私の隣に座っていた黄色髪に黄色目の男子が笑いかけてきていた。


 「僕はライド・ローベリー。君の名前は?」


「アリア・ベルナード」


「えっ、ベルナード!? …まさか、あの『灼炎の女皇』の!?」


 彼は、酷く驚いた顔をした。


「母さんを知ってるの?」


「もちろんだよ!セリエナさんは炎の『大魔女』、この世界で最強の魔女の一人だ。

今までいろんな魔女さんの肖像画を見てきたけど、僕はセリエナさんが一番かっこよくて、きれいだと思う!」


 それは嬉しい。

でも、こういう奴は時と場合によってセリフをガラッと変えることがある。

正直、信用ならないタイプの一つだと思う。


「あ、そうだ。セリエナさんの娘ってことは、キミは炎の魔法使いなんだよね?」


「うん。って言っても、まだ炎魔法に特化してるとか、そういうわけじゃないんだけどね」


「まあ、それは仕方ないよ。でも、きっとこれからなれるさ」


「どうして?」


「だってキミ、セリエナさんの娘だろ?それなら、この学校の誰よりも炎魔法に精通できるだろうし・・・それに、髪と目が赤いじゃないか!」


 意味がわからなかった。


「え?どういうこと?」


「え、逆に知らないのかい?この世界では、一人一人魔法の属性への適性ってのがあって、生まれ持った髪と目の色でそれが決まる。

赤色は炎の色。赤い髪と目を持つ者は、生まれつき炎の魔法に適性があって、すべての炎の魔法を覚えやすく扱いやすい。セリエナさんと、同じだよ」


 そこまでは知らなかった。

というか、この世界では髪と目の色にそんな象徴・・・というか、シンボルの役割があるのか。


確かに母も私も、髪と目の色が真っ赤だ。


「ね、ねえ・・・その、良かったら、僕と・・・友達になってくれないかな!」


 彼は、まるでプロポーズをするかのように頭を下げてきた。

もちろん断る理由などない。


「いいよ」


承諾すると、彼・・・ライドは、狂ったように喜んだ。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?