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13.初登校

 翌日、ついに初登校の日を迎えた。

制服に袖を通し、必要なものを詰めたバッグを肩にかける。準備は万端だ。


初日は8時15分に学校の正門前に集合することになっている。

余裕をもって30分前の7時45分に家を出た。



 家を出る直前、母が「お守り代わりよ」と言って、私の左手の中指に指輪をはめてくれた。

オレンジ色の、きれいな指輪だった。



 学校の正門までは母が送ってくれた。

小学校の新入生が親に付き添われるのはよくある光景だし、私はちょうど7歳。

前世で言えば、小学1年生にあたるだろう。


正門の前で、母が優しく微笑む。

「それじゃあ、行ってらっしゃい。頑張ってね」


 私は期待と不安を胸に、門をくぐった。

昨日は気づかなかったが、学院の中庭は広く、整然と整備されている。

いかにも上流階級の学校らしい雰囲気だった。


その光景を目にすると、不安がふと膨らむ。

――本当に、こんなところでやっていけるだろうか。





 学校の中に入ると、すでに100人ほどの生徒が集まっていた。

顔ぶれを見る限り、昨日の入学式で一緒だった新入生たちだ。


状況からして、ここで時間まで待つのだろう。

私は列の最後尾に並んだが、前の子の背が高く、前方の様子が見えない。


 背伸びして覗き込むと――やはり、何もない。

先生が指示を出しているわけでもなく、ただ皆が立って待っているだけだった。


「え、なに?ここで待ってればいいの?」


 後ろから声がした。

振り向くと、私と同じくらいの身長の女の子が立っていた。


赤い髪に赤い瞳――まるで鏡を見ているようだ。

ただし、彼女はショートヘアのストレートで、私のロングヘアとは対照的だった。


「そうっぽい。前に先生がいないから、わからないけど」


「そうなの?ありがとね。私、シルフィン」


「シルフィン、ね。私はアリア」


 そんな風に、初めての知り合いができた。

前世ではこういうのが上手くいかなかったけど、今度は友達になれるだろうか。

少なくとも、彼女は悪い子には見えないけれど――




 8時15分ちょうど。


私たちの前に、赤い服を着た若い男性教師が現れた。


「あー、新入生のみんな、おはよう。全員揃ってるかな?」


彼は手のひらをかざすと、私たちの頭上に青白い炎が浮かび、パチパチと音を立てた。


「うん、ちゃんといるみたいだね」


 次の瞬間、彼が指を動かすと、私の目の前の子の制服に青いラインが浮かび上がった。

同時に、右腕には紋章のようなものが刻まれる。


「制服を確認してくれるかな?」


私は自分の腕を見下ろす。

金色の盾のようなエンブレムに、赤いドラゴンが描かれていた。


――これが、ルージュの紋章。


「それぞれの組のシンボルカラーと紋章が、制服に刻まれたはずだ。確認できたかな?」


 みんなが頷くと、先生はさらに続けた。


「では、紹介しよう」


彼の背後の壁が一瞬燃え上がり、5色の炎が揺らめく。

そこから現れたのは、5人の上級生――それぞれの組を代表する6年生たちだった。


「彼らは、君たちの組のリーダーだ。これから、組ごとの教室へ案内してくれる。

自分の制服と同じ色の先輩の前に並んでくれ」


「ルージュはこっち!」

「ジョーヌの子はここに集まって!」


私たちは、それぞれの6年生のもとへと向かう。


 私の前に立っていたのは、大柄な男子だった。

彼の背丈は、前世で私が死んだ時の身長と同じくらいだった気がする。


私の周りには50人ほどの新入生が集まっていた。

――なるほど、新入生250人を5組に分けると、単純に1組50人か。


「これで全員かな?」


彼は他の上級生や先生と視線を交わし、「大丈夫そうだな」と呟いた。


「それじゃあ、案内を頼むよ。みんな、ついて行って」


 先生はそれだけ言うと、私たちを上級生に任せた。





 私たちはルージュの6年生に案内され、校舎内の長い直線階段を登る。

途中で足が疲れてきた頃、ようやく彼が足を止めた。


「ここだ。これがルージュの教室だ」


彼が指差したのは、中央に赤い花の紋章が刻まれた木製の扉だった。


扉が開かれ、中に入る。


 白塗りの壁に木目の床――学院の雰囲気そのままの空間が広がっていた。

すぐ左手にはソファーやテーブル、本棚があり、まるでリビングのような場所だ。

そこからさらに3方向に通路が分かれている。


「ここはルージュの休憩室。授業の合間に少し休むための場所だ。

奥にある3つの通路を通ると、各学年の教室に行ける。

どこを通っても、自分の学年の教室に着くようになってる。

それと、教室を出るときは、入った時と同じ通路から戻ってくる仕組みだ」


 彼はひと呼吸置いてから、自分の名を名乗った。


「そうだ、僕はマーク・エスリル。ルージュの組長――つまり、この組のリーダーだ。

学校生活で何かわからないことがあったら、僕ら6年生に聞いてくれ。

6年生の教室に来たいときは、『6年生の教室へ』と言いながら通路を通るといい。いいね?」


私たちは、一斉に「はい!」と答えた。


「よし、それじゃあ、適当に通路を選んで1年生の教室へ行こう。先生が待ってるからね」


そう言い残し、マークは通路の奥へと消えていった。






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