母にも杖と専属魔導書を見せた。
「それがあなたの、今生の相棒になる杖と魔導書ね。大切にするのよ」と言われたけど、そんなこと言われるまでもない。
店を出た後は、服屋や靴屋、かばん屋などを回った。その数は、実に5軒。
かなり歩き回ったが、楽しかったから疲れを感じることはなかった。
制服に関しては、真っ黒なローブコートそのもので、いかにも魔法使いという感じだった。
また母によると、ゼスメリアには入学時に決められる5つの組があるのだけど、制服にはその組によって異なるエムブレムが入るらしい。
これは後から魔法で入れられるそうなので、制服だけ先に買っておいていいのだそうだ。
本当に、魔法というのは便利なものだ。
帰ってすぐ、専属魔導書を試してみた。
魔導書を抱え、「サンフレア」と唱える。
次の瞬間、太陽の光を思わせるまばゆい光が降り注ぎ、周囲を炎が包み込んだ。
なかなかに派手な魔法だ。
ちなみに普通の魔導書は使う度にページが減り、最後には消えてしまう。
しかし、専属魔導書はページが減らない。そして、魔導書と同様に魔力の消費なしで使える。
つまり、無限に使えるのだ。
魔力という制限のもとで魔法を使ってきた私にとって、無限に使える魔法というのはとてつもないロマンだった。
しかも、通常の魔導書よりも明らかに強力。もう言う事はない。
学院に入学するのが楽しみだ。
思わずそう口にすると、母はくすりと笑った。
「気持ちはわかるけど、あがってはダメよ。試験が終わり、結果発表を聞くまではね」
私が入学試験を受けるのは、マフォン横丁からさらに南に2キロのところにあるゼスメリア魔法学院。
この大陸で最も優れた魔法学校だ。
当然、試験もそれに見合った難易度のものとなる。
「もっとも、あなたなら大丈夫」
母は言ったが、果たしてどうだろうか。
私の誕生日は3月15日。
そして、ゼスメリアの入学試験は2月15日。
つまり、ちょうど私の7歳の誕生日の1カ月前ということになる。
本来、入学資格は7歳以上だが、四月に7歳になる者であれば6歳でも受験が可能らしい。
通常なら試験に備えて勉強するものなのだろうが、私は特に何もしていない。
強いて言えば、母から「毎日魔力が尽きるまで魔法を使うように」と言われたくらいか。
とはいえ、私はもともと魔法を使えるだけ使いたかったので、実質何も言われてないようなものだ。
ただ、私の魔力量は300。
基本魔法はすべて魔力消費50なので、一日に6回使えば魔力が尽きる。
そうして迎えた、試験当日。
朝7時に起き、身支度を済ませた。
試験開始は9時。会場はゼスメリア学院の中庭だ。
2月ということもあり、マフォン横丁にはまだ雪が多く残っている。
冷たく鋭い風が頬を掠めた。
「寒くない?」
「うん。大丈夫」
母が1週間かけて編んでくれたセーターのおかげで、寒さは感じなかった。
母は何気に編み物も得意なのだ。
この世界にも毛糸はある。
色や質感など、正直前世で見た毛糸と大差ない。
私は、その毛糸で編まれたセーターを着ていた。
横丁の人通りはいつも通り多いが、そのうちの半分くらいは私と同じくらいの子供を連れた親だった。
彼らも、試験を受けに行くのだろう。
「アリア、忘れないでね。試験に出るのは、今まで私があなたに教えた魔法ばかりよ。自信を持って、行ってらっしゃい」
母はそう言った。
「さあ、もうすぐよ」
そうして見えてきた試験会場。
母の母校であり、この大陸で最も名高い魔法学院。
「すごい・・・。」
私は思わず息を呑んだ。
四角いフォルムで、あまり城らしさはないが、それでも威圧感がある。
高さは、前世で見たビルにも匹敵する。
「もうこんなに並んでる。試験開始30分前なのに」
正門の前には、すでに数百人の人が列を作っていた。
その半分は、私と同じくらいの子どもたち。
あれが、私の同級生となる子たちか。
「まずは受付を済ませましょう」
参加者用の窓口がすぐ近くにあり、そこで受付を済ませた。
受験番号の交付はなく、試験終了後にその場で合否が発表されるらしい。
30分後、ついに試験が始まった。
子どもたちは親から離れ、受験会場である中庭へと入る。
そして、その先に設置された仮設の個室へと1人ずつ案内された。
試験官は青い服を着た若い男性で、黒縁の眼鏡をかけている。
「では、試験を開始します。合否は試験終了後、この場で発表します」
「はい」
──試験の内容は、母の言っていた通り基本魔法に関するものばかりだった。
紙の山に火をつける。
濡れたタオルを5秒以内に乾かす。
どれも基本魔法を使えば容易にこなせるものばかり。
問題数は基本魔法の数よりも多く、合計13問。
だが、余分な4問は基本魔法の応用で解けるものだった。
例えば──
「鉄の板を持続的に熱するには?」
答えは《レブトーネ(火炎放射魔法)》
「夜を昼にするには?」
これは比喩的な問いで、正解は《インフティーラ(照明魔法)》
試験を終えると、試験官はすぐに言った。
「アリア・ベルナードさん。あなたは合格です。ぜひ、わが校へ」
もちろん、「いいえ」などとは答えなかった。
──こうして、私はゼスメリア魔法学院への入学を決めた。
今から、胸が高鳴る。