気づくと、私は暗闇の中にいた。
手足の感覚はないが、なんだか暑い。
でも、それはかつての暑い季節に味わったような、うだるような暑さではない。
どこか受け入れられているような、優しさを感じるような。
むしろ、心地よさすら感じる。
そんな暑さだった。
やはり、私は死んだのか。
そしてここは、どこだろう。
地獄か、それとも他のどこかか。
いずれにせよ、天国ではないだろう。
何しろ、自ら命を絶ったのだから。
でも、この妙な暑さ・・・
いや、温かさは、なんだろう。
温もりと表現してもいいような、温かさだった。
と、突如目の前に光が差し込んできた。
それはみるみる大きくなり——そして。
私は、空間の外に出た。
でも、そこは見たことのない場所だった。
そういうラノベに出てくるような、ファンタジー感溢れるテーブルと椅子。
そして、かつて見たのとはまるで違う、明るい窓からの日差し。
体が動かないけど、目は動かせた。
そして、体が勝手に動いた。
否、誰かに動かされた。
体に感覚が出てきた。
何かに両腕を掴まれている感覚がある。
それと、視界がいきなり高くなったので気づいたのだけど、どうやら私は誰かに持ち上げられているらしい。
かと思うと、全身にお湯がかかった。
というか、そのままお湯で体を洗われた。
私は全裸だったようで、大きな手で全身を余すことなくきれいに洗われた後、しっかりと拭かれた。
何だこれ?それに、何で服を着ていない?
そんな疑問は、ほどなくして消え去った。
というのも、体洗いが終わったあと、私はまた持ち上げられたのだけど、その際、目の前に大きな顔が現れた。
それは女性のようだったけど、真っ赤な髪にルビーのような瞳という、アニメキャラのような顔をしていた。
しかも、その服装も・・・少なくとも、現代日本の人間とは大きく異なっていた。
赤い帽子を被り、赤とオレンジ色のワンピースを着た、いかにもな感じの魔女だった。
そして、その女性は私に何か言ってきた。
言葉はわからなかったけど、表情からして笑っているように見えた。
それはまるで、たった今生まれた赤ん坊を抱きかかえている母親のようでもあった。
それで、私はやっと気づいた。
これは・・・転生ってやつだ。
私、生まれ変わったんだ。
それも、たった今生まれたこの人の子として。
じゃなきゃ、こんなファンタジー感溢れる部屋とか、産湯みたいに洗われたとか、こんなアニメの世界から飛び出してきたみたいな人が出てくるとか、あるわけない。
ラノベなんかで見ていた、異世界転生ってやつを自分がすることになるなんて。
しかも、この人は見た限り魔女だ。
つまり私は、魔女の子供として転生したのだろう。
落ち着いて考えてみるまでもなく、めちゃくちゃ興奮した。
何よ、このロマンの塊みたいな現実。
そんな中、女性・・・もとい私の母親は、私を丁寧にタオルのようなもので包み、抱きかかえた。
そして私に笑いかけてきた。
「ふふ・・・かわいい」
その時、初めて言葉がわかった。
この人、今・・・
私を、かわいいって言った!
「ありがとう、生まれてきてくれて」
今度もはっきり聞こえた。
生まれてきてくれてありがとう・・・って言った!
言葉にならない感動だった。
そんな言葉、今まで受けたこともなかった。
私が母の目を見つめると、母はまた嬉しそうに笑った。
それで思った・・・かつて、最初に生まれた時も、私はこうして母に抱かれたんだろうか。
そう考えると、何とも言えない気持ちになった。
その後、私は木を彫って作られたらしいゆりかごのようなものに寝かされた。
中にはふかふかのタオルが敷いてあった。
寝心地もよく、感覚的にはかつて、普段から寝ていた布団と大して変わりなかった。
そして私を置いた後、母は片付けをしているようだった。
出産直後なのに、あんなことをしていいの?と思ったけど、よく見ると周りには誰もいない。
まさか、1人で私を産んだの?
しかも、ここって普通の家だよね?
日本・・・ことに元いた世界では、まずあり得ない光景だ。
いくら異世界だとしても、出産に付き合う人が1人もいないなんてのはおかしいだろう。
少なくとも、パートナーの男くらいはいるものだと思うが。
そうしているうちに夜になった。
私は、母に抱き上げられた。
そしてテーブルの上に置かれた・・・さすがに直にではなく、敷かれたタオルの上にだが。
「・・・」
母は目をつぶり、唸るように何かを唱えた。
すると、空中に何かが浮かび上がった。
それは炎でできた、文字のようだった。
「我が娘よ。あなたが私の子として生まれてきてくれたことに、誠の感謝と誠意を示します」
なんか、えらく改まった言い方だ。
一体、何をするところだろう?
と思っていると、炎の文字が動き出した。
全部で20個はあるであろうそれは、しばらくふわふわと動き回った後、最初とは違う並びで並んだ。
それを見て、母は頷く。
そして、私を見下ろして言う。
「・・・アリア。あなたの名は、アリア・ベルナード。
この私、炎の大魔女セリエナ・ベルナードの娘であり、正統なる後継ぎの魔女であることをここに認め、アリア・ベルナードの
炎の大魔女、セリエナ・ベルナード・・・
私は、母の名前と肩書きを心の中で復唱した。
そして同時に、今しがた母から与えられた自分の名前も復唱した。
魔女アリア・・・アリア・ベルナード。
それが、これからの私の名前か。
私・・・本当に生まれ変わったんだ。
そう、強く実感した。
同時に、言葉にしきれないくらいの喜びと興奮が襲ってきた。
よくわかんないけど・・・つまり私、めっちゃ強い魔女の子供に転生したんだよね?
魔女ってことは、当然色んな魔法も使えるのだろう。
それだけでも十分だけど、転生してそれになり、しかも魔女の母から生まれたというのもさらに拍車をかける。
・・・やばい、めちゃくちゃ嬉しい!
いじめられてた私が自殺したら、魔女の娘に転生しました、って?
エグいくらいロマンあるし、興奮するんですけど!
「どうか、立派に育ってね。そして、立派な私の後継ぎとなって・・・」
なんだか、お願いだからどうか、と言われているようだ。
そう言われては、嫌とは言えない。
いずれにしても、私はこれから魔女の娘だ。
それなら、頑張って生きよう。
どんなことがあるかわからないけど、さんざんいじめられて苦しんだ前世よりはマシだろう。
私は、固く決意した。
せっかく転生して、チャンスを得たのだ。
この人生を、精一杯生き抜こう。
途中で投げ出したりせず、最後まで。